ユニクロ敗訴 柳井会長の「残業はするな」ただし「生産性は上げろ」はこれからも続くのか?

ユニクロが文春に全面敗訴した。「ユニクロ」の店長がサービス残業を証言した本が、事実に反していると出版元の文藝春秋を相手に起こした訴訟の判決で、東京地裁は請求を全て退けた。しかし、この裁判に負けてもユニクロが労働者に対して求める業務の「質」は変わらないのではないだろうか。
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Tadashi Yanai, chairman, president and chief executive officer of Fast Retailing Co., speaks during a news conference at the company's Uniqlo Marche Printemps Ginza store in Tokyo, Japan, on Thursday, Nov. 1, 2012. Fast Retailing opened its first multi-brand store today. Photographer: Haruyoshi Yamaguchi/Bloomberg via Getty Images
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ユニクロが文春に全面敗訴した。ユニクロの店長がサービス残業を証言した本が、事実に反しており名誉毀損に当たるとして、ユニクロと親会社のファーストリテイリングが出版元の文藝春秋を相手に起こした訴訟の判決で、東京地裁は10月18日、請求を全て退けた。

発端となったのは、週刊誌「週刊文春」と、書籍「ユニクロ帝国の光と影」。時事ドットコムはこの本の内容を次のように報じている。

問題となったのは2011年3月に出版された「ユニクロ帝国の光と影」。現役店長らの話として、ユニクロでは店長がタイムカードを押していったん退社したように装い、その後サービス残業をしていると記載。労働時間は月300時間を超え、会社側も黙認していると指摘した。

(時事ドットコム「ユニクロの名誉毀損認めず=サービス残業は「真実」-東京地裁」より。 2013/10/18 17:41)

これに対しユニクロ側は、同書の記述がユニクロブランドの社会的評価・信用を不当に貶めるものとして、発行元の株式会社文藝春秋に対し、書籍の発行差し止めと回収、謝罪広告及び約2億2000万円の損害賠償を求めて争っていた。

本訴訟の対象としている記事ならびに書籍は、「ユニクロは、店舗運営において、苛烈で非人間的な労働環境を現場の店長ら職員に強制し、また、その取扱い製品の製造を委託している海外生産工場において、劣悪で過重な奴隷労働を行なわせている」かの如き表現を用いて、あたかも当社の利益は店舗や工場で働く方々の苦しみの上に成り立っているかのような内容となっております。

当社といたしましては、当社ならびに「ユニクロ」ブランドが、当該記事および書籍によって被った社会的評価・信用の毀損を看過することはできず、やむなく今回の訴訟提起に踏み切ったものです。

(ファーストリテイリング プレスリリース「株式会社文藝春秋に対する訴訟について」より。2011.06.03)

しかし、東京地裁はこの請求を棄却。棄却理由についてMSN産経ニュースは次のように報じている。

土田昭彦裁判長は「『月300時間以上、働いている』と本で証言した店長の話の信用性は高く、国内店に関する重要な部分は真実」と指摘。「中国工場についても現地取材などから真実と判断した理由がある」と指摘した。

(MSN産経ニュース『「過酷労働」記事でユニクロ側が全面敗訴』より。 2013.10.18 19:54)

ユニクロに対してはこれまでにも、社員を酷使する「ブラック企業」との批判があった。ファーストリテイリングの柳井正会長は、ブラック企業とは誤解で、社員には残業をしないよう話していると、今年4月のインタビューでは答えている。

――売り上げは増やせ、その一方で残業はするな、では生身の人間は壊れませんか。

「生産性はもっと上げられる。押しつぶされたという人もいると思うが、将来、結婚して家庭をもつ、人より良い生活がしたいのなら、賃金が上がらないとできない。技能や仕事がいまのままでいいということにはならない。頑張らないと」

朝日新聞デジタル『「年収100万円も仕方ない」ユニクロ柳井会長に聞く』より。2013/04/23 10:11)

業務量が半端ではないと話すのは、ユニクロ新卒3年目の女性。

「とにかく業務量が半端じゃないんです。すごいスピード感。仕事がどんどん降ってきて、どんどん動いて、改善を日々繰り返さないといけない」

ユニクロの現場では、とにかく「スピード・効率」が命だ。考え込む暇があれば、とにかく決めて、やってみて、結果を見て改善、が求められ続けるという。

数字の達成も、売場管理の業務も「できない」という言葉は許されず、「どうすればできるのか」を問われる。「できなかった」は許されず、「なぜできなかったのか」を問われ続けることが珍しくない。

(東洋経済オンライン「ユニクロで働けば、決断力は鍛えられるか」より。 2013/10/02)

このようなユニクロには、アパレル業界の華やかな面に惹かれている人より、実践的なノウハウを身に付け、自身を成長させることを貪欲に目指す人のほうが向いている。そう話すのは、ユニクロで4年間店舗スタッフとして働いていた男性だ。

「ユニクロに変な夢や幻想を抱かず、将来の独立・転職を見越して『スキルアップのために何でも吸収してやろう』という人のほうが成長できます。バイトスタッフでも、俳優志望の人やバンドマンなど、生活費のためドライに働く人のほうが粘り強いですね」

(キャリコネ『「柳井信者」は成長しない! ユニクロでは「ドライな人」が活躍する 【ブラック企業のいいところ(2)】』より。 2013/10/10)

今や、仕事において業務効率を上げるのは必須のようだ。コンサルタントの山口巌氏は、インターネットを利用して世界中の人々に、業務を発注したり受注者の募集を行う「クラウドソーシング」という仕組みと、日本のブラック企業の問題を比較し、次のように述べている。

ブラック企業の問題とされる長時間労働やサービス残業は法律によって明確に禁止されている。又、日本社会も被害者である労働者に対し同情的である。一方、クラウド・ソーシング内労働市場は世界共通、一元化された市場であり国内法は通用しない。個人毎に仕事の能力と成果が公平に厳しく査定され報酬が決定される。仮に報酬額が低いといってクレームをした所で、お前の能力が低いからと一蹴されてお仕舞いとなる。IBMを筆頭に世界の超一流企業がクラウド・ソーシングを大胆に取り入れようとしている今日、日本が例外である事が許されるとはとてもでないが思えない。

(山口巌氏ブログ記事「「ブラック企業問題」は最早周回遅れの議論」より。 2013/08/01 17:03)

現在ユニクロでは、19時退社を義務づけるノー残業デーを、週4日導入しているという。残業をせずにそれでも効果を出すことが、労働者には求められる。

業務効率の改善と残業時間の短縮のバランスを、あなたはどう考えますか。ご意見をお寄せください。

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