玉入れ、綱引き、二人三脚、リレー...いずれも運動会の定番で、日本では多くの人におなじみの種目だ。だが、これがケニアでも行われていることを知っている人はあまりいないのでは? 首都のナイロビでは毎年夏、日本式の運動会が開かれている。
名前もそのまま、「UNDOKAI」。今年も8月に開催を予定しているが、現地では運動会用品が不足しているため、クラウドファンディングで購入費の一部を募っている。
「UNDOKAI」はNPO法人グローバルスポーツアライアンス(GSA、三浦雄一郎理事長)が国連環境計画(UNEP)と共同で続けているスポーツ&環境教育プログラム「GSAドリームキャンプ」の中の一行事だ。
キャンプが開かれているナイロビのキベラ地域は、アフリカでも2番目に大きいスラムエリアと言われている。
スポーツと環境といわれると、すぐに結びつかないような気がするが、環境破壊が進んだり、公衆衛生の考え方が根付いていなかったりすれば、スポーツを楽しむことはできない。
日本オリンピック委員会(JOC)のホームページによると、オリンピックでも1990年代から、「環境」は「スポーツ」「文化」に次ぐ第3の柱となっている。
2004年から現地を訪れている東海大体育学部准教授の大津克哉さん(41)に「UNDOKAI」の写真を見せてもらった(現地の写真はいずれもGSA提供)。
玉入れのカゴは洗濯カゴ。それを大人が高々と掲げたところに、子どもたちが玉を投げ込んでいる。よく見ると、現地で作ったらしい四角い玉も飛んでいる。
「二つに分かれてバスケットに多く入れたほうが勝ちだよ、と説明したら、大きい子が小さい子を肩車して放り込んでいました」と大津さん。綱引き、二人三脚も子どもたちがはしゃいでいる様子がうかがえる。
「UNDOKAI」はGSAのキャンプの中でも、最も人気があるイベントの一つなのだという。
大津さんが初めて現地を訪れたころは、街に強烈な悪臭が漂っていた。ゴミの入った袋が放置されているだけでなく、ポリ袋に尿をしてそのまま投げ捨てている人も。
子どもたちは、そのゴミ袋をサッカーボールのようにして遊んでいたという。衛生観念はなく、地域に住む人たちの健康寿命も短かった。
GSAドリームキャンプは毎夏、約2週間開かれ、子どもたちはスポーツだけでなく、環境や衛生に関する知識やリーダーシップのあり方などについても学ぶ。
ゴミ袋を使って素足でサッカーをしてけがをすれば、様々な菌に感染する恐れがある――このことを説明すると、ゴミ袋で遊ぶ子どもたちは大きく減った。
キャンプで学んだ子どもたちは、きれいになった広場にポイ捨てしようとする大人がいると注意したり、青年になってからリーダーとしてキャンプに参加するようになったり、いい循環ができはじめているという。
「ゆっくりだけどスポーツができるエリアはちょっとずつ広がっている。地域の大人たちも手伝うようになり、コミュニティーがいい方向に進んでいる」というのが、大津さんの実感だ。
UNDOKAIは、日本人学校から道具を借りたり、現地にあるものを流用したりして続けてきたが、始めてから10年以上が経ち、劣化が進んでいる。
綱引きの綱は、力を加えると切れてしまうものもあるという。GSAは今年8月のキャンプにあわせて新しい用具を買うことなどを目的に、朝日新聞社のクラウドファンディングサイトA-portで支援を募ることにした。
「子どもたちは見たこともやったこともないことにも、興味津々に取り組んでいる。少しでも多くの種目を子どもたちに楽しんでもらいたい」と大津さん。今夏もケニアを訪れ、目を輝かせている子どもたちに会うのを楽しみにしている。
「毎年ケニアに行くのが心のリフレッシュになっている」と話す大津さん=東京都渋谷区のGSA事務所