国連人権理事会は9月26日、安値で買い叩いた株や債券などの資産を、高い値で売り抜いて巨額の富を得る「ハゲタカファンド」に対し、初めての非難決議を賛成多数で採択した。ファンドの活動が人権に及ぼす影響についての実態調査を行うことも決定したという。時事ドットコムなどが報じた。
決議案は、債務返済を迫る米ファンドに訴えられたアルゼンチンなどが提案。「(ハゲタカファンドは)国家による人権向上の取り組みに負の影響を与える」と明記した上で、「自国の債務再編をめぐり、いかなる権利も他国側に妨害されてはならない」と非難した。
採決では47理事国のうち、日本、米国、英国、ドイツ、チェコの5カ国が「(ハゲタカファンド問題は)人権理での議論の対象外」(米国)などと反対。フランスなど9カ国は棄権し、アルゼンチンや中国、ロシアを含む33カ国が賛成した。
(時事ドットコム『「ハゲタカファンド」初の非難決議=影響を実態調査へ-国連人権理」より 2014/09/27 06:48)
イギリスのBBCによると、この決議案の提案には、アルゼンチンの他、ロシア、ブラジル、ベネズエラ、アルジェリアが参加。アルゼンチンのティメルマン外相は議決の前に、「ハゲタカファンドは、我々自身が止めない限り止まらない。ハゲタカファンドによる南半球の国々での莫大な資産の強奪は、学校閉鎖や、医薬品不足、政治不安などを引き起こす原因となる」と述べたという。
■アルゼンチン政府とハゲタカファンドの争い 背景は?
アルゼンチン政府は2001年、1千億ドル(約10兆円)を超える借金が返せず財政破綻した。その後、返済額を減らすことに応じてくれた9割の投資家に対し、新たに国債を発行し利払いを続けてきた。
しかし、アメリカの一部のファンドが全額返済を求めて提訴。2014年6月、アメリカの最高裁はファンド側の訴えを認め、アルゼンチンがファンドへ債務全額、約15億ドル(約1500億円)を返済しない限り、減額に応じた投資家への利払いも認めないとする判決が決定した。
その後、6月25日にアルゼンチンは、朝日新聞やイギリスのフィナンシャル・タイムズ紙などに「アルゼンチンは債務返済を継続したいが、継続させてもらえない」とする全面広告を出して訴えた。しかし状況は改善せず、7月末にアルゼンチンは、一部の投資家に約束の期日にお金が払えなくなった。これによってアメリカの格付け会社はアルゼンチンを債務不履行(デフォルト)とみなし、外貨建てアルゼンチン国債を格下げした。
■経済学者100人以上もハゲタカファンドを批判
これらの一連の行為を受け、アルゼンチン政府は8月7日、投資ファンドの訴えをアメリカ裁判所が認めたことを巡り「アメリカは国の主権を尊重する国際的義務に違反している」として、国際司法裁判所(ICJ)に提訴。フェルナンデス大統領もアメリカ裁判所の担当判事について「(アルゼンチンの)国家主権を踏みにじりたがっている」と非難した。
フェルナンデス大統領は、ファンドを「ハゲタカ」と呼び、自らの利益のためにアルゼンチン経済を麻痺(まひ)させようとしていると指摘する。
ファンドへの批判はアルゼンチン国内からだけには留まらない。ノーベル賞を受賞した経済学者のロバート・ソロー氏や、世界銀行のブランコ・ミラノヴィッチ氏ら100名以上のエコノミストは7月31日、アメリカ裁判所の判決は「モラル・ハザードを招く」とする連名書簡をアメリカ議会に送付。イギリスのフィナンシャル・タイムズ紙も9月3日、アルゼンチン債権の対応について投資ファンドに再考を促す記事を掲載している。
9月9日には国連総会において、債務不履行に陥った国が進める債務再編過程に、投資ファンドなどが妨害を加えることを規制する国際協定を策定することが決まった。議案を提出したボリビアのジョレンティ国連大使は、「法的枠組みは新自由主義、投機市場に打撃を与える」と指摘した。
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