ウクライナの反ヤヌコビッチ政権派と治安部隊の衝突、そして反政権派による首都掌握という展開は、ネットにも大きなインパクトを与えている。
その様子が逐一、リアルタイムでネット中継されているからだ。
米国のアーティスト、ギル・スコット・ヘロンは70年代、「革命はテレビ中継されない」と歌ったが、今回の現場となったキエフの独立広場からは、動画ストリーミングが「革命」を24時間生中継する。
■ メディアが立ち上がる
ネット放送局「エスプレッソTV」が立ち上がったのは昨年11月。親ロシアのヤヌコビッチ現政権が欧州連合(EU)との自由貿易協定締結を拒否したことに端を発した親EU派の反政府デモ「ユーロマイダン」を中継する、独立系メディアだ。
エスプレッソTVの現場生中継は、映像の編集・送出にはマック用の放送システム「ツールズオンエア」を使い、ユーチューブのライブストリーミング機能「ユーチューブ・ライブ」を通じて放映されているという。
エスプレッソTVの生中継は、ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズ、ガーディアンなどの欧米メディアがこぞって取り上げ、この衝突を象徴するネットメディアとなった。
地元英語紙「キエフポスト」によると、1月にはエスプレッソTVのジャーナリストが一時、治安部隊に身柄拘束されるなど、抗議行動の最前線からの放送を続けてきたようだ。
■ テレビがブロックされ、ネットが伝える
生中継をしているのはエスプレッソTVだけではない。
「UKRストリームTV」 はキエフを拠点にしたジャーナリストたちのグループで、「スピルノTV」は昨年5月にフェイスブックページからスタートした非営利メディア。いずれも寄付金をバックに、ユーストリームを使って現地の生中継を続ける。
政権側に放送をブロックされた、とも伝えられる親EUの全国放送「チャンネル5」もユーチューブでストリーミングを行い、ツイッターアカウント(@5channel)やフェイスブックで情報発信を続けている。
■ ジャーナリストがツイートする
現地のジャーナリストたちもツイッターで現地の状況を中継する。キエフ・ポストのエディター、クリストファー・ミラーさん(@ChristopherJM)、AP通信のキエフ特派員、マリア・ダニロワさん(@mashadanilova)、スカイ・ニュースのモスクワ駐在プロデューサー、ユリア・ブラジーナさん(@YuliaSkyNews)、チャンネル5の記者、ミロスラワ・ペスタさん(@myroslavapetsa)ら16の英語によるツイッターアカウントをワシントン・ポストが紹介している。
中でも野党議員の広報担当でアクティビストのカテリーナ・クルックさん(@Kateryna_Kruk)は、反政権デモのスタート当初から、その中心でライブツイートを続けているという。
■ 世界の目を向けさせる
ニューヨーク・タイムズのブログ「リード」などのサイトでは、これらのストリーミング、ツイート、画像をもとに、タイムラインに沿ったアグリゲーションを続けてている。
元ニューヨーク・タイムズ編集局次長で、現在はネットニュースサイト「マッシャブル」編集長のジム・ロバーツさんは、グーグルのストリートビューの画像と、エスプレッソTVやUKRストリームTVの映像とを対比し、今回の衝突によるキエフの街の変貌ぶりを指摘する。
「革命」のネット中継は「アラブの春」やオキュパイなどを通じて、重要なニュースの情報源になってきた。それらのメディアは、衝突の現場となったキエフの独立広場から南東約1000キロの場所にある、ロシア・ソチのイベントから、世界の目を向けさせる力を持っている。
ただ、エスプレッソTVの緊迫した現場中継の前に、日本のアニメや五輪を使ったネット広告がはさまれるのは、かなりシュールな光景だ。
(2014年2月22日「新聞紙学的」より転載)