「UENOYES」は今日も上野に息づいている――「UENOYES バルーンDAYS 2018」開催レポート

公園をふらりと訪れた人も気になったものに参加できるようになっていた。

去る9月28日〜30日の3日間、東京台東区の上野公園と国立国会図書館国際こども図書館で「UENOYES」キックオフイベント「UENOYES バルーンDAYS 2018」が開催された(30日は台風24号の接近により中止)。

「UENOYES」は、様々な人が集う上野公園とその周辺地域を舞台に、社会包摂をテーマにした文化事業を展開するプロジェクト。総合プロデューサーにアーティストの日比野克彦を迎え、この程お披露目と相成った(日比野のインタビュー記事はこちら)。

初日は晴天に恵まれ、公園の噴水前広場は「UENOYES」のロゴが入った色とりどりの風船で彩られた。広場では複数のプログラムが、そこここで展開されており、公園をふらりと訪れた人も気になったものに参加できるようになっていた。

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音楽家・作曲家の佐藤公哉率いるトーラスヴィレッジによる参加型合唱パフォーマンス「シング・パーク・ハルモニア」では、誰でも簡単に歌えるフレーズが用意されており、噴水広場から歌が生まれた。日本とインドネシアを拠点に活動する美術家・北澤潤による「FIVE LEGS Factory」では、インドネシアの移動式屋台「KAKI LIMA(カキリマ)」(カキリマはインドネシア語で「5本足」という意味。屋台の3つの車輪と、屋台を引く人間の足2本を足して5本ということだそう)を制作しながら、公園を訪れた人に理想のカキリマを描いてもらうことで、公園内に新たな路上の風景を生み出そうと試みていた。

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トーラスヴィレッジによる「シング・パーク・ハルモニア」
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北澤潤「FIVE LEGS Factory」にて、参加者が描いたカキリマの案
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その他、屋外彫刻(スタチュー)に扮したパフォーマーを写生する「スタチュー写生大会」や、いざという時に避難場所として機能する公園を「防災」の観点で捉えた、美術家・小山田徹による「きき耳ラジオ」、東日本大震災後、継続的に被災地を訪れてきたスペインのアーティスト、ホセ・マリア・シシリアによる展示「アクシデントという名の国」などが開かれ、東北の玄関口としての上野など、多様な上野の姿が提示された。展示は2019年2月24日まで上野公園からほど近い国立国会図書館国際子ども図書館で開催される。なお、同館の児童書ギャラリーでは、明治以降の日本の児童文学史、絵本史を概観でき、東日本大震災以降に刊行された絵本なども手にとって閲覧することができる。

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国立国会図書館国際子ども図書館での展示「アクシデントという名の国」
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国立国会図書館国際こども図書館に配架されている、東日本大震災を扱った絵本
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日比野は「人のつながりが生きる力を生む。いろんな人が集まる上野の空気感を発信したい」と語り、キックオフイベントの舞台となった噴水前広場こそ、そうした上野の空気がもっとも色濃い場所だとした。その意味で、広場を縦横無尽に使い、そこに居合わせた人も作品の一部になった新人Hソケリッサ!のダンスパフォーマンス「プラザ・ユー Plaza・U」は、日比野の言葉を最も体現していたプログラムだったかもしれない。

ソケリッサは、ダンサー・アオキ裕キと、路上生活経験者からなるダンスグループ。主宰のアオキは「上野は子供、学生、いろんな人種の人がいて、ひとつの星のような空間」と述べ、だからこそ自分たちのダンスも受け入れられやすく、思い切りやることができたと充実感を滲ませた。かねてより上野公園での公演を望んでおり、今回「UENOYES」に参加したことで願いが叶った。本公演には、かつてひきこもりだった現代美術家・渡辺篤が美術で参加しており、この場に来られない人にも公演の模様を届ける仕組みを考えているという。

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新人Hソケリッサ!によるダンスパフォーマンス
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新人Hソケリッサ!によるダンスパフォーマンス
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キックオフイベントのタイトルにもなった「バルーン(風船)」について日比野は、「形があるようでないもの」と述べ、まさに「多様な人が集う上野の空気感」という「形がないもの」を伝えることを意味していたと言う。

イベントが終わった今、心に留めておきたいのは「UENOYES」は催しの名称であるだけでなく、誰もが居場所を見つけられる上野の空気感を表した言葉であり、価値観であるということ。目印となる風船がなくなっても、「UENOYES」は今日も上野に息づいている。

(文中敬称略)

「UENOYES」は今後も「旧博物館動物園駅」の公開や、谷中の回遊イベントなど各種プログラムを予定している。詳細は公式サイトをご確認ください。