スタンフォードを超える「シリコンバレーの大学」? 一流テック企業の授業が受講できるオンライン学習サービス「UDACITY」とは

UDACITYは、テクノロジー業界が作る「新しい形の大学」です。Web開発、フルスタックエンジニア、モバイル開発、データ・サイエンスに至るまで、今まさに業界で注目されるテーマについて、ここでしか学ぶことができない授業を提供しています。
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新しいキャリア・チャンスにつながる、プロジェクト型のオンライン学習サービスを提供する「UDACITY(ユダシティ)」。2011年1月のサービス開始から、累計で400万人の生徒が学習しています。GoogleやFacebookなどの企業と協業して講座を設計し、各分野の専門家から学ぶことができるUDACITYは、シリコンバレーの大学になりつつあります。2014年11月に開催された国内外の注目スタートアップが集まるイベント「TechCrunch Tokyo 2014」 で登壇し、UDACITYを日本でより本格的に展開するために来日した、UDACITY事業開発部長のClarissa Shenさん。さまざまなオンライン学習サービスとUDACITYの違い、UDACITY誕生の背景、UDACITYというスタートアップの企業文化などについて伺いました。

■ 一流のテック企業と講座を設計する、シリコンバレーの大学「UDACITY」

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−まず、UDACITYの概要を教えてください。

UDACITYは、テクノロジー業界が作る「新しい形の大学」です。Web開発、フルスタックエンジニア、モバイル開発、データ・サイエンスに至るまで、今まさに業界で注目されるテーマについて、ここでしか学ぶことができない授業を提供しています。これらの講座は、Google、Facebook、MongoDB、Cloudera、Salesforceといった業界のトップ企業と協業して設計しており、講師は業界の第一人者ばかりです。私たちは、シリコンバレーの大学になりつつあるんです。

私たちのミッションは、社会人のための教育を、少しでも多くの人たちに提供することです。最終的なゴールは、新しいキャリア・チャンスを通じて、彼らの人生をより豊かにすることですね。

−UDACITYで学習する生徒にはどんな人が多いですか?

最も厚いユーザー層は、25歳から30代後半のビジネスパーソンです。もちろん、中には高校生もいますし、もっと年配の人もいます。これらの生徒に共通しているのは「自分の人生をもっとよくしたい」という思いです。今の仕事だけでなく、長期的なキャリアを見据える姿勢を持っています。

1つの講座を修了するには、平均1カ月から3カ月の期間がかかりますが、「Netflix」で借りたDVDを「binge watch」する(一気見する)ように、UDACITYの講座を一週間で集中的に受講してしまう、「binge learner」(一気に学習する)な生徒もいます。

受講した生徒からはたくさんの成功体験が届いており、その内容にいつも驚かされています。例えば、先日は、イギリスで大型スーパーの商品陳列の仕事をしている男性からメールが届きました。その男性は「今の仕事はあくまで『仕事』なのであって、『キャリア』ではない」と考え、UDACITYのWeb開発の講座を最後まで受講したそうです。先日、職業欄を記入する際に、人生で初めて「Web開発者」と書くことができて自分が誇らしかった、と。

−すてきですね。UDACITYの講座は企業と一緒に開発されていますが、企業側はUDACITYをどう活用しているのですか?

UDACITYの講座は、社内の講座開発者や教育設計者と、さまざまな企業の専門家と組んで開発されています。1つ1つの講座を丁寧に作っているため、現在提供している講座の数は60種類ほど。パートナー企業は、社内トレーニングや新規雇用のためにUDACITYを活用してくれています。

−UDACITYがシリコンバレーの大学だとするならば、いわゆるテクノロジー企業が使っているのでしょうか?

テクノロジー企業というと、GoogleやTwitterといった会社を思い浮かべるかもしれませんが、他にも、例えば、通信会社のAT&Tも16,000人のエンジニアを雇用しています。そのエンジニアへの、最新技術のトレーニングにUDACITYの講座は利用されています。また、UDACITYの講義はプロジェクト型ですので、生徒が公開していれば企業側はソースコードも見ることができます。具体的なスキルを参考に、UDACITYを新規雇用に役立てる企業も増えています。

■ 累計生徒数は400万人、新たな学位制度「Nanodegrees」で修了率がUP

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−60種類ほどある中で、最も人気の講座について教えてください。

これまでに最も人気な講座は、コンピュータ・サイエンス入門、Web開発、Androidの講座ですね。また、スタートアップの人向けに、「スタートアップを起こすには」と題した講座も提供しており、そこではMVP(実用最小限の製品)をどう作るかといったリーンスタートアップの手法などについて講義しています。このようなスタートアップ関連の講座も増えつつあります。

−9月から開始したという学位の制度「Nanodegrees」について聞かせていただけますか?

厳選した複数のカリキュラムをまとめて、1つの学位として提供する制度です。というのも、どこから学習すればいいのか、また、仕事につなげるために必要な次のステップがわからない、という生徒が多いからです。Nanodegreesは、今いるA地点から、ゴールであるB地点に行くために必要な手順を教えてくれ、仕事をしながらでも、平均9カ月で修了できます。

Nanodegreesによって、修了率が上がり、現在は50〜80%を誇っています。この高い修了率には「コーチング」機能が貢献しています。プレミアム版の生徒は、フォーラムや1対1のセッションで、コーチとやり取りできるんです。2012年頃、「MOOC(Massive Open Online Course)」という言葉が初めて登場して早々に学んだことは、1人きりで学習することの難しさです。一緒に見直したり、フィードバックをもらうことで、生徒は自分の学習ペースを掴み、最後までやり遂げることができると思っています。

−キャリアや仕事につながることを大事にしているUDACITYですが、学習した後の就職や転職活動を後押しする仕組みもあるのですか?

Nanodegreesの中には、前述のテーマの講義以外にも、例えば、技術インタビューに向けた準備、GitHubでうまくプレゼンする方法、自分のポートフォリオの作り方といった指導も含まれます。また、先ほどもお話したAT&Tは、Nanodegreesを修了した生徒100人に対してインターンシップのポジションを提供するなど、企業からのオファーもあります。

■ 誕生の背景:16万人の中でトップの成績はオンライン学習の学生だった

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−UDACITYを立ち上げた背景について聞かせてください。

UDACITYのファウンダーであるSebastian Thrunは、スタンフォード大学の教授でもあります。彼は「Google X」の仕掛人で、自動走行車の開発などさまざまな功績をあげてきました。2011年、彼はTEDで自動走行車についてのプレゼンテーションを行っていました。その時、小学生から高校まで何百万の学生に教育を届ける「Khan Academy」のSalman Khan氏の講演を偶然聴いたんです。

教授でもある彼は、自分にも教育の分野でできることがあるはずだと考えました。そこで、GoogleのPeter Norvig氏と共同で教鞭をとっていたAIの講義をオンライン化したのです。その旨をEメールで配信したところ、2週間で16万人の生徒が登録しました。想像を超えた反響が集まったんです。

−いきなり16万人も集まるのはすごいですね。それが、そのままUDACITYに?

16万人の生徒の中で、授業を最後まで修了したのは23,000人です。米国のコンピュータ・サイエンスの授業の修了率を比べて、とても高い数字です。さらに興味深いのは、トップの成績を修めた学生でした。スタンフォード大学(総勢200名)と、オンラインの生徒全員を合わせて順位をつけてみたところ、なんと、トップ412位の学生は全員オンラインで受講した生徒だったのです。スタンフォードの生徒の最上位は、413位でした。世界中から集まった412人の生徒には、それぞれの学習へのモチベーションがあり、それこそ、SebastianがUDACITYを立ち上げた理由なんです。

−どんな理由で受講する生徒が多いのか、具体的に聞かせてください。

経済的または地理的理由など、何かしらの理由で従来の「物理的に通う」教育を受けられない生徒から、いくつものストーリーが届きました。例えば、アフガニスタンにいる現役の兵士の受講者で、いつか母国に帰って就職するために勉強する人。また、子育てをしているため従来の学校に通うことができないシングルマザー。受講して自分の力を試すことで、自信がついた、と。すべてが、UDACITYを立ち上げるためのインスピレーションとなったのです。

−UDACITYがプロジェクト型の講義を提供し、キャリアにおける実用性を大切にしている理由がわかる気がします。

UDACITYで学ぶ人は、新しいキャリア・チャンスを掴むことでより良い人生を送りたいというモチベーションを持っています。だからこそ、ただ教育を広く届けるだけではなく、学習することで次の仕事に就いたり、次の昇進につながったりという新しいチャンスを掴む後押しをすることに注力しています。

−いくつものオンライン学習プラットフォームがある中で、生徒はなぜUDACITYを選ぶべきなのでしょうか?

世の中には、従来のオフラインの学習、またオンラインも含めて、素晴らしいプラットフォームが存在します。UDACITYの特長は、ここで学ぶことが「仕事につながる」点です。なんといっても、シリコンバレーの中でもトップの人材から学ぶことができるのですから。UDACITYの講義を一緒に作っている講師、そして教えてくれる講師は、例えば、FacebookやTwitterのデータサイエンティスト、GoogleのAndroidの専門家など、生徒が「私もあんな風になりたい」と憧れる存在ばかりです。その分野のリーダーから学ぶことができる点が最大の魅力だと思います。

■ ますます強化するグローバル展開

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−UDACITYの生徒は世界中にいると思います。中でも生徒が多いのはどの国ですか?

米国を除くと、インド、中国、南アメリカ、イギリス、スペイン、ドイツ、カナダ、オーストラリアなどです。UDACITYの400万人を超える生徒のうち、40%が米国の生徒です。残りをその他の国が占めています。

−世界中から生徒が集まっているわけですが、生徒間のコミュニケーションもありますか?

仕事でステップアップしたい、という同じ志を持った生徒ばかりですので、同じ講座で学ぶことで友情が芽生えることもあるようです。生徒間でもたくさんのコミュニケーションが育まれています。米国の生徒とパキスタンの生徒、インドの生徒、ブラジルの生徒などが、チャットやフォーラムなどでやり取りしています。

−UDACITYの今後の取り組みについて聞かせてください。

2012年から取り組みを続け、今では、キャリアのステップアップにつながる講座の形にたどり着くことができたと思っています。一緒に講座を開設したい、採用などに活かしたいという企業からの関心も高いです。今の課題は、米国だけではなく、これを世界規模にスケールしていくことだと考えています。より多くの国の、より多くの生徒に対して、UDACITYをどう提供していくのか。グローバル展開においても、企業との協業が鍵を握ると思っているので、技術的ニーズや人材への需要がある企業と組んでいきたいですね。

−日本におけるUDACITYの今後の展開について聞かせてください。

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日本市場におけるパートナーであるリクルートはとても協力的で、最も人気のある「コンピュータサイエンス入門」や、Sebastianが教鞭をとる「ロボット工学における人工知能」を含む17の講座を、日本語字幕付きで提供できています。ただ、まだまだ英語のままのコンテンツも多いですし、言語の壁を取り払いたいですね。日本の生徒の皆さんをよりよくサポートする方法を模索していきたいと思っています。

−最後に、キャリアアップしたいと願うUDACITYの生徒、またこれから生徒になるかもしれない人に対するメッセージをお願いします。

UDACITYという名称は、「Audacity(大胆さ)」という言葉から来ています。自分を信じて、勇気を持って、次のステップに踏み出すこと。新しい一歩を踏むことは常に難しいことですし、いつもうまくいくとは限りません。でも、どんな人も、常に学ぶ必要がありますし、今より向上する必要があります。恐れずに勇気を持って努力すれば、自分に驚かされると思います。失敗したとしても、チャレンジを続けている限り、成長することができますから。

この記事の筆者:三橋ゆか里

オンラインショップ、UIコンサルティング会社などを経て2009年に独立したフリーのITライター。日経デジタルマーケティング、Japan Times、The Bridge、Web担当者Forumなどで幅広く執筆。NumeroやHanakoなど女性誌のIT関連記事も手掛ける。

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(2014年11月28日HRナビより転載)