アメリカのライドシェア(自動車の相乗り)サービス最大手で、業界をリードしてきたウーバー・テクノロジーズは、トラビス・カラニック最高経営責任者(CEO)=写真=を休職させることを決めた。CNNなどが報じた。
CNNによると、母親の死などが理由とされているが、「悪童」のイメージが強いカラニックCEOを経営から離し、セクハラ問題などが後をたたない社内文化の立て直しをする狙いがありそうだ。しかし、ヤフーファイナンスによると、経営立て直しの発表の席でも、取締役の1人から不適切な発言があったという。
ウーバーは、スマートフォンのアプリを使って、見知らぬ他人の車を呼び出し、タクシー代わりに使えるサービス。利用者にとっては、料金が通常のタクシーより安かったりサービスが良かったりするメリットがある。クレジットカードを事前に登録しておくため面倒で、タクシーだと不安なこともある支払いも避けられる。
「イノベーション恐怖症」の日本は別として、アメリカなど世界各国では、どこかへ出かけるときに「ウーバーを使って他人の車に相乗りする」という文化が広がりつつある。一方、「運転手」側は、空いた時間に自家用車を使って収入を得ることができる。
運転手は地元の普通の人たちで、自主的にキャンディーをくれたり、街のオススメの場所を教えてくれたりするので、観光客が新しい土地の人と交流するきっかけにもなる。運転手のサービスの評価もスマホ一のボタン1つでパッと出来る。自分の時間や持ち物を共有する意味で「シェアリングエコノミー」という新しい経済の潮流とされてきた。
ただ、パワハラやセクハラが続出する同社の企業文化もたびたびアメリカのメディアで指摘されてきた。人事部がセクハラ被害をきちんと取り合わなかったという告発もあった。また、過激な発言で知られるカラニックCEOがウーバーの運転手に暴言を吐く映像も出回った。
そのためウーバーはカラニックCEOの休職を決断。女性で、スイス食品大手ネスレ幹部のワン・リン・マルテロ氏を取締役に加えるとブルームバーグなどが報じた。
ヤフーファイナンスによると、マルテロ氏の人事を発表する集まりで、ウーバー取締役の1人でハフポスト創業者でもある、女性のアリアナ・ハフィントン氏が「様々な統計から、女性の取締役が1人増えれば、次も女性が取締役が加わる可能性が高い」と発言。経営に多様性を持たせることで、セクハラ文化を一掃する決意を示した。
ところが、ヤフーファイナンスが入手した会議の様子の録音を聞くと、その場で男性幹部の1人でもあるデイビッド・ボンダーマン氏が「(女性取締役が増えれば)おしゃべりが増えるともされていますね」と口を挟んだ。
ハフィントン氏は戸惑いながらも、「デイビット!」と応じたが、驚きあきれる出席者であふれていたという。
アメリカの大手メディアやソーシャルメディアでいっせいに批判が広がっている。ボンダーマン氏は謝罪したという。
自分の車に誰かを乗せれば、面白いビジネスが生まれ、人の動きが活性化する——そんな独創的な発想で生まれたウーバーだったが、企業規模と影響力が大きくなった分、サービスとは別に「社内文化」への厳しい視線がそそがれている。