史上最年少21歳で欧州議会に当選した女性。政治家になったのは「向き合うべき現実に直面しているから」

NO YOUTH NO JAPANのメンバーが、世界のU30世代をインタビュー。日本国内のU30がアクションを起こすためのヒントを探っていきます。第1回は、史上最年少で欧州議会議員に当選したキラ・マリー・ピーター・ハンソンさんにお話を聞きました。
|

政治や社会について「知って、スタンスを持って、行動する」U30世代を増やすため、SNSなどで政治や社会について発信する『NO YOUTH NO JAPAN』(ノー・ユース・ノー・ジャパン)。U30世代の運営メンバーが、社会に対して声をあげる海外の同世代にインタビューをする連載を始めます。

第1回は、2019年に史上最年少の21歳で欧州議会議員に当選し、現在も議員として活動するキラ・マリー・ピーター・ハンソンさん。

Open Image Modal
キラ・マリー・ピーター・ハンソンさん
Riccardo PAREGGIANI

日本において被選挙権は、衆議院議員と地方議会議員で満25歳、参議院議員と都道府県知事では満30歳以上でないと認められていません。しかし、世界には、議員として活躍する25歳以下の若者が多くいます。ハンソンさんもそんな1人です。

彼女が政治の世界に足を踏み入れた理由、そして若い議員として抱える葛藤とは。

キラ・マリー・ピーター・ハンソン (Kira Marie Peter-Hansen)
1998年生まれ。デンマークのフレゼレクスベア出身。2019年のデンマーク地方選挙で、社会主義人民党から出馬。21歳3ヶ月で史上最年少の欧州議員となった。

ヨーロッパでは、小学校の授業で「どのように社会に貢献するか」を考える

ー 政治に関わり始めたのはいつでしたか?

15歳の時に、デンマークの社会民主党の青年部に入りました。家族と離れて学校の寮で暮らすようになったため、普段から家族としていた政治の会話が恋しくなったことがきっかけでした。

ー 日本では、子どもや若者が政治についてオープンに話す機会はあまり多くないと感じています。デンマークではどうですか?

一般的に、ヨーロッパの学校は子どもが政治について話しやすい環境です。小学校の時から「どのように社会に貢献するか」など、子どもが社会問題や政治参加について主体的に考えるような授業が行われます。そのため、子どもの頃から政治に対する関心が育まれやすいのです。

ちなみに、デンマークでは、高校や大学に「選挙バス」というものがあります。実家から離れて住む学生は、このバスに乗って地元の地方選挙の投票に向かいます。若者の政治参加が当たり前な状況を象徴しているかもしれません。

議員になったのは「向き合うべき現実に直面しているから」

Open Image Modal
左上:筆者の和倉莉央、右上:能條桃子、下:キラ・マリー・ピーター・ハンソンさん
NO YOUTH NO JAPAN

ー 立候補した当時は21歳でしたね。なぜ議員になろうと思ったのですか。

「良いキャンペーン(選挙運動)にしたい」という思いから、2019年の欧州議会議員選挙で、SF Ungdom(社会主義人民党)の青年部から立候補しました。最初はまさか当選できるとは思っていなかったのですが、男性の立候補者が撤退したことで、私が当選することになったのです。

ー ハンソンさんはよく「他の人が立ち上がるのを待たずに、自分で行動を起こすべき」とメディアで発信されていますよね。

実は、選挙活動中に友達がかけてくれた言葉なんです。当時私は、他の候補者より自分の方が議員に向いていると有権者を説得しなければならないことに重圧を感じていました。そんな時に「若者が政治に関わるべきだと言いながら、自分から関わろうとしないならば、私たちの世代は無力になってしまう」と背中を押されたのです。この言葉をきっかけに、「自分から行動しなければ」という意識が強くなりました。

ー 政治家としてのモチベーションは何でしょう?

モチベーションというより、「向き合うべき現実に直面しているから」という感覚ですね。

私が政治活動で力を入れていることの一つに気候変動対策があります。このまま気候変動が進めば、最も影響を被るのは私たち若い世代です。だからこそ、私たちの世代が、これまでの世代の間違いを正し、地球を守っていかなければならないという強い責任感を感じています。

Open Image Modal
第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が開催されていた2021年11月5日、開催地の英グラスゴーで気候変動対策を求めてデモ行進をする若者たち
Jeff J Mitchell via Getty Images

若い女性議員としてぶつかる壁も

ー 一方で、若い女性政治家として苦労を感じることはないのでしょうか?

自分より経験豊富な議員に囲まれていることにプレッシャーを感じます。学生の身で国の意思決定に関わるので、自分の知識に不安を感じることも多いです。また、他の議員にインターン生扱いをされないように大人っぽく見える服を着るなど、日常的な些細な気遣いに疲れることもあります。

多様性という点では、欧州議会では、私のような若い議員も増えてきて、デンマーク議会には障がい者の議員も現在2人います。しかし、人種やジェンダーの多様性はまだまだ不十分で、さらに推し進めていかないといけないと考えています。

ー ハンソンさんはSNSでよくオフショット写真を投稿したり、インスタライブを配信されていたりします。何か理由があるのですか?

政治家は遠い存在に思われがちなので、フォロワーと話せるインスタライブでは人間性を見せることを心がけています。私自身も政治とは別の分野の人と交流するとエネルギーをもらえますし、私を通じて政治に興味を持ってくれる若者がいると嬉しいなと思っています。

気候変動対策は、一人一人の意識向上だけではなく…

 ー 最後に、気候変動にまつわる話題について聞いてみたいと思います。Instagramで見かけたことがあるのですが、ヨーロッパのレストランでは、メニューにカロリーの代わりとして温室効果ガス排出量を提示していますよね。

デンマークではあまり見かけないのですが、他のヨーロッパの国ではあると思います。こうした取り組みによるCO2削減量は全体の中では微々たるものだとは思いますが、国民一人一人の意思決定をよりサステナブルにするためには、効果的だと思います。

このように、国民の気候変動への意識を変えることはとても大切です。2019年11月に欧州議会で発令された「気候非常事態宣言」も、気候変動の深刻さを国民に実感してもらえる良い警鐘になったと思います。しかし、意識だけでは難しいこともあるため、やはり政治の面でも大規模な解決策を練るべきだと思います。

ー具体的にどのような気候変動対策が考えられているのでしょうか?

欧州議会では現在、「気候法」を作っています。2050年までのカーボンニュートラルの達成を拘束力のある目標として法制化するものです。楽しみにしていてください。

<取材後記>

ヨーロッパでは、ハンソンさんの他にもたくさんの若い政治家が、実際の政治の舞台で活躍しています。欧州議会では珍しい「若い女性」であるにも関わらず、熱意を持って政治の中から気候変動に立ち向かっているキラさんは、日本のU30世代にとってもお手本にしたいロールモデルであると感じました。

(取材・執筆:和倉莉央 / NO YOUTH NO JAPAN)