日本代表はパス・サッカーを諦めるべきなのか

U-19日本代表がアジア選手権準々決勝で北朝鮮を相手にPK戦の末に敗れ、日本は4大会連続でU-20ワールドカップ出場を逃してしまった。
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NAY PYI TAW, BURMA - OCTOBER 17: Japan players show their dejection after losing through a penalty shoot out after the AFC U19 Championship quarter-final match between Japan and North Korea at Wunna Theikdi Stadium on October 17, 2014 in Nay Pyi Taw, Burma. (Photo by CFP/Getty Images)
CFP via Getty Images

U-19日本代表がアジア選手権準々決勝で北朝鮮を相手にPK戦の末に敗れ、日本は4大会連続でU-20ワールドカップ出場を逃してしまった。日本は既にU-17ワールドカップ出場権も逃しており、年代別の大会ではアジア予選突破が難しくなっているようだ。北朝鮮との準々決勝。日本は技術力で上回ってポゼッションで優位に立ち、特に前半の北朝鮮は日本のパス回しに全くついていけない状態だった。一方、北朝鮮は日本のプレッシャーでほとんど攻撃の形を作れない。

序盤戦、日本は何度も決定的なチャンスを掴んだ。10分には井手口陽介のFKがポストを叩き、26分には南野拓実のスルーパスに反応したオナイウ阿道がフリーで抜け出したが、シュートは左にそれる。こうしたチャンスで1点でも取れていれば、簡単に勝てた試合だろう。だが、日本チームはどうしてもシュートを決められなかったのだ。すると、次第に北朝鮮も日本のパス回しのリズムに慣れて、パスをカットしてカウンターに繋げられるようになってくる。そして、FKからのこぼれ球をゴール前に入れられ、日本の守備陣はあっさりと先制ゴールを献上してしまう。

1点を追う日本。後半もそれなりにチャンスは作ったが、シュートがまたもポストに嫌われたり、北朝鮮のGKチャ・ジョンフンの好守に阻まれたりと得点できず、金子翔太が仕掛けた強引なドリブル突破で得たPKを南野が決めて追いつくにとどまった。少ないピンチの場面で、相手にシュートを許してしまう守備の問題もあったし、前半ターゲットとして機能していたオナイウを退けて、北川航也を入れたのにほとんど機能しなかったことなどゲーム戦術のミスもあった。

だが、基本的な問題点は、あれだけボール支配率で上回ってパスを繋ぎながら、PKの1点にとどまったことだろう。もちろん、サッカーというのは、どんなに攻めても点が入らないことはある。確かに、相手GKは当たっていたし、シュートがポストに当たる不運もあった。だが、「攻めてはいても点が取れない」というのは、この北朝鮮戦だけのことではなかった。このチームの、あるいは日本サッカーの本質的な問題なのだ。

日本がPK戦で散った後、もう1つの準々決勝、カタール対中国の試合を見た。後半は豪雨に見舞われる中でのゲームだったが、試合内容も両チームに1人ずつの退場者を出す大荒れで、点の取り合いの末に4対2でカタールが勝った。日本の試合と比べると、きわめて大雑把な試合だった。速く、長いボールを蹴り込んで、前線の選手の個人能力でゴール前までボールを運び、遠目からでも強引にシュートを打つ。「カタールが上回った」というより、中国のDFがボールコントロールに失敗して自陣で相手FWに渡してしまうような致命的なミスを繰り返したことが勝敗を分けた。

ああいうチームに勝ちきれないのかと思うと、まったく情けない。日本チームが緻密にボールを繋いで攻めようとするが攻めきれず、相手の大雑把ではあるが、速くて強いFWを抑えきれずに得点を許してしまう。それが、今のアジアでの戦いの現実なのだ。

では、どうするのか、である。パスを緻密に繋ぐ手間のかかるやり方は諦めて、アジアの多くのチームがやっている大雑把な攻撃で対抗する選択もあるかもしれない。今のやり方よりよほど効率的だろう。日本には大型FWは少ないかもしれないが、日本の選手のキックの精度はアジアの中では高い部類に入るのだから、そういうやり方だって、やろうと思えば可能だろう。

だが、そんなサッカーでアジアの大会で優勝しても意味はない。そんなやり方では、世界の舞台で惨敗を喫するだけである。やはり、今のパスを繋いで組み立てる緻密なサッカーを、さらに突き詰めていくべきだろう。修正すべき点はいくつもある。いくら、「パスを繋ぐサッカーを突き詰めるべきだ」と言っても、当然、他のやり方もできなくてはならない。90分間同じようなリズムでパスを繫ぎ続けたら、当然相手もそのリズムに慣れてしまう。

時にはロングボールを蹴り込むことも必要になるし、強引なドリブルも有効だろう。その点、今回のUー19は(も?)あまりにも一本調子だった。「判断力」を強調していた鈴木政一監督だったが、そういうゲームの中での判断力があまりに乏しかった。北朝鮮戦の日本代表は攻め急ぐことなくしっかりボールを回していた。暑さの中の試合であること、相手は引いて守っていることなど、コンディションやゲームの流れの中で、「慎重に、攻め急がないで戦う」という選択は間違いではない。だが、それも場面や状況によるはずだ。

1点を先制された前半の追加タイムは「1分」と表示された。だが、その1分間、日本チームはやはり中盤でパスを繫ぎ続け、そのまま前半終了の笛が鳴ったのだ。「判断力不足」は明らかだろう。だが、最も基本的に不足しているものは何なのか。それは、相手がどんなに守りを固めてきても、それをパスで崩し切ってしまうだけのパスの精度とスピードだろう。

日本が20メートルから30メートルの正確なパスを繋いでサイドチェンジをする。だが、パスのスピードが十分でなければ、相手のDFにはスライドする時間が与えられる。結局、いくらサイドを変えても、常に分厚いDFの壁が前に立ちはだかって、パスを通すスペースは消されてしまう。パスのスピードをもっと増してワンタッチでパスを回して相手に対応できないようにする。あるいは、スペースやパスコースを消されていても、狭いスペースにパスを入れるだけの精度を高めていくこと。それが、目指すべきものだ。

日本はパス・サッカーで北朝鮮の守備を崩せなかった。だからといって、パス・サッカーを捨てるというのは正しい選択ではない。もちろん、ロングボールなどのバリエーションは必要だが、基本的にはパス・サッカーをさらに突き詰めていくべきだろう。パスの精度とスピードを高めていくことである。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

(2014年10月18日「後藤健生コラム」より転載)