なぜTwitterには音楽戦略が存在しないのか?

米ビルボードが発表する年間チャートトップ100過去5年分で、Twitterのアカウントを持っていないアーティストはわずか2%。
|

Open Image Modal

ビジネスメディアのフォーブスが「What Happened To Twitter's Music Strategy?」(Twitterの音楽戦略に何が起きたのか?」という、音楽ビジネスに関心のある人の興味を惹く記事を公開しました。

記事は、いかにTwitterが開発してきた音楽製品が失敗だったのかを説明することから始まり、かつて手がけた音楽サービス「#Music」に触れ、Twitterが公開したサイト「music.twitter.com」が最たる例だと説明します。

一方でフォーブスはTwitterが現在の音楽シーンとの親和性が高く、消費者の音楽消費に与える影響力に触れます。

Twitterの音楽業界へのインパクトに、アーティストのソーシャル戦略の加速があげられます。米ビルボードが発表する年間チャートトップ100過去5年分でTwitterアカウントを持っていないアーティストはわずか2%で、全世界のTwitterフォロワーランキングでトップ10中6人がアーティストという状態です。

その他にもツアーするアーティストは、Twitter上でQ&Aを行うなどフォロワーと直接双方向のコミュニケーションを図っています。消費者側も非Twitterユーザーに比べてTwitterユーザーは音楽購入への関心が高く、Twitterが音楽との親和性は無視することはできません。

ここからが記事の核心部分です。

これほど音楽に影響力を与えているTwitterが音楽について決算発表で触れることが無いのは、彼らの短期/長期戦略において音楽が未だに不明瞭な領域であるに違いないとフォーブスは結論付けています。

例えばTwitterは前述のTwitter #Musicアプリや、Twitterデータの音楽マーケティングへの利用をインディーズ・レーベルの300 Entertainmentと締結するなど、消費者向けクリエイター向けのツールを提供してきましたが、これらはすでに立ち消えしたか、スケールする力を証明できていない段階にあるのか、その後の詳細についてTwitter経営陣からの発言はありません。

ここで奇妙な矛盾が発生する。

Twitterは音楽に多大な影響を及ぼす優れたハブの一つだ。しかし、数々の実験的製品の失敗によって、業界のリーダーたちはTwitterの成長戦略において「音楽が欠落している」ことを受け入れざるを得ない。

このようにフォーブスは記事を締めくくっています。

この記事が公開された同日に、コマース部門のトップを務めてきた、チケット販売最大手チケットマスターの元CEOネイサン・ハバード(Nathan Hubbard)がTwitterを退職することが明らかになりました。ハバードはライブ・ネイション傘下のチケットマスターでCEOを6年強努め、デジタル戦略やチケット転売戦略などを強化してきた人物でした。

チケット販売という業界と音楽業界と強い繋がりを持った人材がいただけに(しかもハバードはコマース部門の責任者!)、新しいTwitterと音楽の連携サービス、例えばライブチケットがTwitterから購入できる連携などに期待してしまいましたが、実際には現在のTwitterの戦略では実現することはありませんでした。

フォーブスの記事で述べられていませんが、Twitterと音楽業界との連携は、膨大な数のツイートだけにとどまりません。2014年に米国で音楽のチャートを運営するビルボード社と提携し、Twitter上で話題の楽曲をリアルタイムでランク付けする「Trending 140」チャートを開始しました。

またSNS上に投稿される音楽関連情報を解析する音楽ビッグデータ専門のスタートアップ企業「Next Big Sound」(Pandoraが2015年に買収)、「Seed Scientific」(Spotifyが2015年に買収)、「Semetric」(アップルが2015年に買収)などの成長もTwitterの存在抜きでは語ることはできません。

最近のアップルやグーグルの音楽ストリーミングサービスの動向を見ていると、キュレーションやプレイリストを駆使して、Twitterなど外部のSNSに頼らなくても音楽をリスナーに共有し続ける方向へと進んでいる気がします。

そう考えると、フォーブスの記事もTwitterの音楽ビジネスへの出遅れ感を危惧しているのでは、と思ってしまうほどです。ですがTwitterが存在する限り、音楽に関する情報を投稿する人は後を絶たないでしょう。音楽業界内では、Twitterが音楽事業を真剣に取り組むことに待望論を抱いている人もいるかもしれません。

音楽ストリーミングが世界的な音楽視聴の中心となり始めた今、プレイリストやキュレーション、さらにはリアルタイム動画やVRまでリスナーの耳と目を満足させる新しいカタチのエンターテインメントが生まれています。

アップルやSpotify、Facebookなどに遅れることなく、急速に変革し続ける音楽業界においてTwitterがこれからもその一部となり続けられるか。Twitterがクリエイターや音楽業界のためのツールとなり続けるのか、リスナーのための新たなエンタメのカタチを生み出せるのか。

Twitterに残された時間はそれほど多くないはずです。

ソース

image by Anthony Quintano via Flickr

(2016年6月5日「デジタル音楽ブログ All Digital Music」より転載)