解雇された料理長がレストランのツイッターアカウントで「復讐」!問題ないの?
クリスマス前にレストランを解雇された料理長が、店のツイッター公式アカウントを使って、「復讐」するという騒動が英国で起きた。CNNなどによれば、きっかけはレストラン「プラウ」の料理長ナイトさんが、クリスマス休暇を願い出たところ、解雇されてしまったことだという。
怒ったナイトさんは、店のツイッター公式アカウントにログインし、次のような内容を続けて投稿した。「ついさきほど、料理長をクビにしたことをお知らせいたします」「クリスマスの1週間前ですが!」「残念なことに彼は、『家族との約束があるので、この週末とクリスマスに休暇を取りたい』と要求してきました。私たちは、それで彼をクビにすることにしたのです」「彼には7カ月半の娘がいますが、それが何か?」
店のアカウントを使って、わざと挑発的なツイートをしたというわけだ。これらの投稿は何千回もリツイートされるほど波紋を呼んだ。アカウントは10月にナイトさんが店のために開設したが、店側は彼を解雇した際、アクセスできないようにしていなかったという。
オーナーは、店が混む日に休まれては困るという事情があり、事前にナイトさんにも伝えていたと話しているということだが……。もし日本で同様の「復讐」が行われたとしたら、法的にはどんな問題があるのだろうか。清水陽平弁護士に聞いた。
●「復讐」行為がはらむ2つの問題点
「この事件は、大きく分けて、2つの問題を含んでいます。
それは、(1)公式アカウントに退職後にログインをしているということと、(2)雇い主を攻撃あるいは揶揄する投稿をしていることです」
清水弁護士はこのように指摘する。それぞれどんな問題なのだろうか。
「まず、ひとつめの問題である『公式アカウントに退職後にログインをしている』という点から見ていきましょう。
ポイントは、不正アクセス行為の禁止等に関する法律(以下、『不正アクセス禁止法』といいます。)に抵触するかどうかです」
元料理長の行為は、不正アクセスになるのだろうか?
「不正アクセス禁止法は、簡単にいえば、アクセス管理者のパスワード・IDを承諾なく使用してアクセスする行為や、設定されているセキュリティを突破してアクセスする行為を禁止しています。
違反した場合には、3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます(同法11条)」
アカウントを開設し、管理していたのはナイトさんだったようだが、それでも不正アクセスと見なされるのだろうか?
●業務用アカウントの管理者はあくまで会社側
「ここで、アクセス管理者というのは、誰にアクセス権を与えるのかを決定する者のことであり、会社等の場合には、管理の主体はあくまで会社とされています。
『アカウントは10月にナイトさんが開設した』ということですが、店の公式アカウントだということなので、このアカウント開設は業務として行っているものと評価できます。そうすると、アクセス管理者はあくまで店側である、ということになります。
つまり、たとえ自分が公式アカウントを立ち上げ、それまでずっと管理をしてきたものだとしても、会社退職後に公式アカウントにログインをすると、それを特別に許可されているといった事情がない限り、不正アクセスをしたものと扱われることになります」
そうなると、ナイトさんが行ったことは、日本では「不正アクセス」に該当すると言えそうだ。もう一つの問題点はどうだろうか?
●復讐目的だと「正当な言論」とは見なされない
「次に、ふたつめの問題、『雇い主を攻撃、あるいは揶揄する投稿をしていること』という点を見ます。これは、名誉毀損や侮辱に当たらないかという問題です」
ズバリ、該当するのだろうか?
「具体的に、どのような内容を書いたのかということが問題となるものですので、一概にこれらに当たるというわけではありません」
表現が名誉毀損などに当たるかどうかについてはケースバイケースで、様々な事情が考慮されるため、伝えられている情報だけで断定するのは難しいようだ。ただ、報道によるとナイトさんは実際にクビになったようで、こうした発言が「事実」だという可能性もあるはずだ。それでも問題となり得るのだろうか?
「誤解している方が多いので指摘しておきますが、本当のことだからといってそれをインターネット上に晒してよいのかというと、よいとは言えません。
たしかに、発言内容が本当のことであれば、違法性が阻却される(≒違法でなくなる)余地が出てきます。しかし、発言の目的が『復讐』にあるとすると、正当な言論ということが難しく、違法性も阻却されません。
なお、名誉毀損に当たる場合は『3年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金』とされており(刑法230条1項)、侮辱罪の場合は『拘留または科料』とされています(刑法231条)」
さらに、清水弁護士は、こうした投稿で営業秘密にあたる情報を漏らせば、不正競争防止法違反となる可能性も指摘する。また、投稿で会社に損害が出た場合には、会社から損害賠償を請求される可能性もあるという。
いくら「店に一言いってやりたい」と思っても、こうしたやり方は許されず、逆に全てを台無しにしてしまいかねないと言えそうだ。
清水弁護士は「会社の対応に不満があったとしても、こんなやり方をしては、余計なリスクや新たな紛争を生み出すことになってしまいます。主張はきちんと正面からされたほうが良いのではないでしょうか」とアドバイスを送っていた。
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【取材協力弁護士】
IT法務、特にインターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定に注力しており、平成24年には東京弁護士会の弁護士向け研修講座の講師も担当。
事務所名: 法律事務所アルシエン
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