BBCの幼児向けチャンネルに障害者
子どもたちが観ているテレビ、ある時、私は、右腕の肘から先がない女性が出演していることに気づきました。彼女は半袖のシャツを着て、手のない右腕を隠そうともせず、不自由そうなそぶりも全く見せず、他の出演者と同じようにテレビに映っていました。
イギリスに住み始めた時から、私の子どもたちは、シービービーズ(Cbeebies)をよく観ていました。シービービーズというのは、BBCの幼児向け番組のみを放送しているチャンネルです。日本のNHKのEテレに近い感じです。朝の6時から夕方7時まで、毎日放送していて、対象年齢は6歳くらいまで。イギリスの子どもたちにはおなじみのチャンネルです。日本でも、「チャギントン」や「ポストマンパット」など、シービービーズで放送されている番組をご存知の方もいると思います。
その幼児向けチャンネルに障害者が出ています。彼女を初めて見て、私はドキッとしました。内心、戸惑いましたが、テレビの中の彼女は、そんな私の気持ちをよそに、視聴者から送られてきたカードを楽しそうに紹介していました。
子どもたちの様子をちらっと見ました。気が付いていないのか、特に何も言わずに、テレビを観ていました。
なぜ腕のない女性がテレビに?
彼女について興味を持った私は調べてみました。彼女の名前は、ケリー・バーネル。過去には、彼女のテレビ出演が、イギリス国内で大きな議論を巻き起こしたこともわかりました。
2009年にシービービーズで彼女の出演が始まった当初は、
「子どもが怖がって、夢に出ると泣いている。」
「彼女の姿を幼い子どもに見せる必要があるのか。」
と、保護者の苦情が殺到したそうです。
しかしケリー自身の意見は、
「知らないことが偏見につながる。差別になる。私自身が、子どもと一緒に障害について話すきっかけになりたい。」
と、苦情に対して驚きや戸惑いさえも感じていなかったようでした。
苦情や批判を乗り越えて、今も幼児向けチャンネルに出演を続けている彼女のことを、子どもと話さないのはもったいないと思いました。
5歳の娘から見た障害
「ケリーってどう思う?」
私は5歳の娘に聞いてみました。
「好き。だってかわいいから。」
娘はケリーの手がないことに気づいていないのかも、と疑問に思い、私は直接言ってみることにしました。
「ケリーは片方の手がないよね。」
娘ははっとした顔をして、
「そうだあ。」
と、顔が暗くなりました。泣きそうです。
「どうして、ケリーは手がかたっぽないの?」
と娘は私に聞いてきました。
「生まれた時からないんだって。そういう人もいるんだよ。でも、元気だし、他の人と同じようにやっているよね。」
生まれつきの障害であることを知り、ケリーはそれでも元気、ということに安心したようでした。こわばっていた顔がほっとした様子になりました。
新しいことを発見するたびに「なんで?」と聞いてくる、いつもの質問と同じようなやりとりでした。障害のことも、理由が娘なりに納得できれば、そういうものだ、とそのまま受け入れているようでした。
8歳の息子から見た障害
8歳の息子にも聞いてみました。
「ねぇ、ケリーってどう思う?」
「ああ、腕がないの、ちょっと怖い。」
下の子ではなく、上の子が怖いと思っていたことは意外でした。
「じゃあ、もう観たくない?テレビに出てほしくない?」
「うーん。あんまり観たくない。」
そう言った後、少し考え込んでいました。私は息子が何を考えているのかわからず、黙っていました。
一生懸命考えている表情で、息子が口を開きました。
「でも、この人テレビに出られなくなったら、お金もらえなくなって、食べ物も買えなくなるよね?」
「そうだね、テレビに出るために歌や劇の勉強をいっぱいして、今テレビに出るお仕事しているからね。困ると思う。」
「シービービーズに出るのは難しいんだよね?」
「そうだね、テレビに出るお仕事をするために、勉強している人はたくさんいるからね。その中から選ばれなくちゃいけないから、シービービーズに出るのはすごいことだよね。がんばらないとできないね。」
「うん。やっぱりケリーもテレビに出ていいと思う。」
障害があるからという理由で彼女を認めないのは良くない、と自分で気づいたようでした。
子どもに理解させるのは難しい、まだ早い。そんなことはありませんでした。大人が勝手に難しく考えているだけのようでした。
ケリー・バーネルへのインタビュー
野口由美子(ブログ Parenting Tips)