連載「世界の家庭料理をめぐる旅」、今回はトルコ!
だんだん寒くなってきましたが、皆さんいかがお過ごしですか?
「食を旅するイラストレーター」織田博子です。
いろいろな国をめぐり、現地の人と料理を作り、地元の市場をめぐり、ともに食卓をかこむ旅をしています。
「世界の家庭料理」の魅力的な世界を、イラストと文章で伝えていきたいと思います。
家庭料理を食べに、トルコ・イスタンブールまで行ってきちゃった!
トルコ・イスタンブールの家庭にお邪魔してきました。
トルコは中東に位置するイスラム教国。
日本とは遠く離れた国でありながら、親日国であることでも知られています。
マルマラ海に面し、紀元前から海や陸の交易が栄えた港・イスタンブール。
ローマ帝国、オスマン帝国が栄え、様々な文化や人種が行き交ってきました。中央アジアの遊牧民、ヨーロッパの商人、アフリカの諸王国の人々...。
その多彩さは、世界三大料理に数えられるトルコ料理にも如実に表れています。
トルコ料理ってどんな料理?
日本でもっとも身近なトルコ料理といえば、巨大な肉がグルグル回る「döner kebabı(ドネル・ケバブ)」。トルコ語で「回るケバブ」という意味です。
肉にスパイスをかけて焼くシンプルなケバブは、いかにも中央アジアの遊牧民の食文化を感じさせます。
また、トルコは地中海、黒海、エーゲ海に面しているため、オリーブやトマト、レモンといった食材も多く使われます。
オリーブオイルはたっぷり使う。
モチみたいにのび~~~~るアイス、「Dondurma(ドンドゥルマ)」!
アイス好きの私が愛してやまないのは、トルコのアイスクリーム「ドンドゥルマ」。
ランの根の粉末「salep(サーレップ)」を混ぜ、よく練る。するとモチのように伸びるアイスの出来上がり。
濃厚な味わいと不思議な食感が楽しい。
ドンドゥルマを買うと、必ずこの手にひっかかります。
家庭料理を食べに来たのに...「断食月」?!
東京から飛行機で11時間、イスタンブールに到着。
バスの車窓から見える青い空(19時でもまだ明るい!)、ボスポラス海峡の波のキラキラした光、レンガ作りの赤い屋根の家々、街行く人は、イスラム教国のイメージとはかけ離れた自由な恰好...。まるでヨーロッパのような雰囲気。
しかし、いたる所に「ラマダーン 2014」の文字が。「ラマダーン※...断食月⁉」
街を見渡しても、街中で堂々と食べている人はいない。う~ん、ヨーロッパ風だけどやっぱりイスラム教国なんだなぁ...。
※ラマダーン...ヒジュラ歴(イスラム教の暦)における第9番目の月。この月の日の出から日没まで、イスラム教徒は断食を行う。
今回家庭料理を作ってくれるグルチャさんの家は、イスタンブール北部の下町・ベシクタシュにある。ノラ猫がのんびりあくびをしながら寝転がる静かな小道。アパートの扉を開けると、階段のフロアにまでいい匂いが漂っている。
家のドアを開け、フレンドリーに迎えてくれたグルチャさん。
グルチャさんは、照明を輸出する会社でマネージャーをしているキャリアウーマン。外国へ出張することも多いとか。
そして、食卓にはすでにおいしそうなご飯がずらりと並ぶ!
でも、太陽が沈むまでは断食が続くので、しばしおあずけ。
夕日に輝くボスポラス海峡、赤い屋根のイスタンブールの街並みが一望できる素敵なテラス。そこでくつろぐ、グルチャさんのルームメイト、パキスタン人のアリさんとアリさんの友達のフランス人ジェドさん。トルコ、パキスタン、フランス、日本人が英語で話す、不思議な光景。
「今日、忙しくて朝ごはん食べれなくて」とグルチャさん。「屋台でスナックを買って食べていたら、ハッと気づいたの。『今日、ラマダーン初日じゃない!』あわてて、スナックを後ろに隠したわ」
う~ん、ラマダーンって意外とラフな感じ?
あたりは徐々に暗くなり、近くのモスクからアザーン(礼拝の時間を知らせる歌)が聞こえる。「さぁ、ラマダーンが明けたから、イフタールしましょう!」
イフタールとは、「断食を終える食事」のこと。トルコでは皆でワイワイ食べるのが良いとされていて、友人や知人、知らない人まで招いて豪勢な食事を食べることを楽しみにしているとか。
断食なんてついてない...と思ったけど、逆に良かったかも!
さぁ、「いただきまーす!」
大きなテーブルにずらりと並ぶ料理。グルチャさんはベジタリアンなので、全て野菜や乳製品でできている。
最初は「レンズ豆のスープ」。タマネギやニンジンの甘味、豆の風味が感じられる、素朴ながら力強い味。空腹にやさしい味のスープがしみこむ。
目立つのは大きなうずまき型のパイ「Börek(ビョレク)」。
ザクッと豪快に切り分けてもらった。
ビョレクは、大きな餃子の皮のような生地にチーズや肉や野菜を包み、オーブンで焼く料理。
サクサクとした皮の中に、濃厚な味わいのチーズ。グルチャさんのレシピは肉なしだけど、かなり満足感のある一品。おいしいのでついついもう一つ、もう一つ...とパクパク。
口が重くなったら「Cacık(ジャジュク)」。ニンニクと塩の効いたヨーグルトにキュウリをトッピングしたサラダ。さわやかな口当たり。
パプリカにお米や野菜を入れ、焼いた「dolma(ドルマ)」。赤や緑の色が見た目にも華やか。パプリカ以外に、ズッキーニを使うという遊び心が効いた一品も。
しましまに剥いたナス、タマネギ、トマトをたっぷりのオリーブオイルで炒め、ナスにタマネギとトマトを挟んで冷やした「İmam bayıldı(イマーム・バユルドゥ)」。
意味は「お坊さんの気絶」!
あまりにもおいしそうなにおいがするので、イマーム(イスラムのお坊さん)が気絶してしまったという昔話に由来するのだとか。なんとも強烈なインパクトの名前。
「なんだか、ナスばっかりになっちゃったわ」と笑うグルチャさん。
素揚げしたナスにトマトベースのソースをかけた「Şakşuka(シャクシュカ)」はどっしりとしたナスのうまみが際立ち、ナスのサラダはナスのフルーティな味わいを感じられ、イマーム・バユルドゥは野菜のうまみがしみこんだコッテリした味わいながら、冷やしているため後味さっぱり。ミントの風味も効いてる。
ナスにこんな多彩な味があるなんて!
こんな豪華な食事の後に、さらにデザートまで!
米粉のプディングにシナモンとマスティックをかけ、冷やした「Sakızlı Muhallebi(サカズ・ムハビリ)」。やさしい口当たりと甘み。
母から娘へ、受け継がれていくレシピ
この日は、グルチャさんのお母さんが遊びにきていて、私たちと一緒にご飯を食べていた。
「このレンズ豆のスープ、おいしい!」と大喜びのお母さん。
仕事で外国を飛び回り、流ちょうな英語をあやつるグルチャさん。そんなインターナショナルな彼女も、母の家庭料理の味を受け継ぎ、自分なりにアレンジしていく。
こんな、母と娘のやりとりの中で、トルコの多彩な食卓は育まれたのだなぁ、と思った一言だった。
グルチャさん、ごちそうさま!
レシピ
イマーム・バユルドゥ
野菜をたっぷり使った「気絶するほどおいしい」レシピ。冷蔵庫で冷やして食べるのもおすすめ。
トルコ料理らしい色鮮やかで楽しい見た目の料理です。
- なすの皮をしましまにむき、塩大さじ1/2を入れた水に30分ほどつけておく。
- オリーブオイルにみじん切りにしたにんにくを入れ、香りが出るまで炒める。
- 千切りにしたたまねぎをきつね色になるまで炒め、トマトを加えて炒める。塩大さじ1と砂糖小さじ4を振りかける。
- なすの水気をよく拭き、真ん中に切れ目をいれる。
- 3、4、ししとうをフライパンに並べ、2カップの水を加える。ふたをして弱火で柔らかくなるまで煮る。
- お好みで冷蔵庫で冷やす。
- トマトと玉ねぎのソースをナスの切れ目に入れ、ししとうや1cmの長さに切ったイタリアンパセリを載せ、フライパンの中にあるソースをかけてできあがり。
- Afiyet olsun(トルコ語で「めしあがれ」)!
information
食べたくなってしまった人は、KitchHikeサイトをチェック!トルコ旅行の思い出作りに是非♡
- この記事のメニュー:Mediterranean breeze
- COOKプロフィール:トルコ人のGulsahさん
- 価格:35$
- 場所:トルコ・イスタンブール
文章・イラスト:食を旅するイラストレーター 織田博子
世界を旅し、各国の家庭料理や人びとを描いています。作品集はこちら
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(2014年8月13日「KitchHike マガジン」より転載)