和田毅は福岡ソフトバンクのエースだった。新人王、最多勝1回、MVP1回。2012年、働き盛りの30歳でボルチモア・オリオールズに海外FA権を行使して移籍した。
しかし、スプリングトレーニングで左肘痛を発症、靭帯の部分断裂が見つかって5月にトミー・ジョン手術(肘靭帯の腱を移植、再建する手術)を受けた。この手術を受けると、1年は復帰することができない。
2013年5月にマイナーで復活登板を果たしたものの、成績は芳しくなく、オリオールズは和田を自由契約にした。今年はシカゴ・カブスとマイナー契約。カブス傘下のアイオワ・カブスに所属して、MLBへの昇進を目指すこととなった。
◆ポイント1:日本の一流投手はMLBで通用する
1995年に野茂英雄が、日本人2人目のメジャーリーガーになって20年目、多くの選手が海を渡った。今やプロ野球の有力選手にとって、MLBは次なるステージとして定着した感がある。特にトップクラスの投手は、MLBに挑戦するのが既定路線になりつつある。
野茂英雄以降、日本のプロ野球で50勝以上の成績を上げて、全盛期にメジャーに挑戦した投手の多くが活躍していることがわかる。その中でただ一人、渡米から3シーズンが経ってもMLBで数字を残していない投手が和田毅なのだ。
◆ポイント2:忍耐の3年を経て、復活の兆し
和田はこの3シーズン、MLBのすぐ下のAAAに属するチームで投げている。この成績を見ると、2014年になって急速に復活していることが分かる。特に4月の活躍はめざましいものだった。防御率0.68はマイナーリーグの全投手を通じての1位。
マイナーと言ってもAAAはチームのほぼ半数はMLBでのプレー経験がある選手だ。中には調整のためにマイナー落ちしているレギュラー選手もいる。こういう顔ぶれを相手にこの数字を残したのは十分に信用できる。
5月にやや調子を落としたものの、6月は再び復活しており、AAA屈指の投手であるのは間違いない。何よりも、中4~5日のローテーションをきっちりと守って投げているのが素晴らしい。和田の肘は完全復調しているのだ。
シカゴ・カブスは6月22日、和田毅をMLB昇格の前提となる40人枠に登録した。メジャー選手として契約を結びなおしたのだ。MLBの出場選手枠は25人だから、今すぐメジャーで投げることができるわけではないが、その前提となるステイタスを得たのだ。
◆ポイント3:和田毅に「暑い夏」がやってくる
シカゴ・カブスは6月28日時点で、ナショナルリーグ中地区で首位ミルウォーキー・ブリュワーズから15.5ゲーム開いた最下位。MLBでは、優勝の見込みが無くなったチームは、主力選手を他チームに放出し、若手の選手での再建を図る。カブスも再建モードに入ると見られている。
現在、ローテーションを守っている投手の内、エース格のサマージャ、ハメルは、すでに放出が既定路線。複数年契約のエドウィン・ジャクソンを除く選手も放出される可能性がある。トレード期限である7月31日までに商談をまとめて、これらの投手を売却したのちに、和田毅は晴れてMLBのマウンドに立つことになるだろう。
いわば、消化試合での登板になるが、ここで良い成績を残せば翌年のメジャー契約につなげることができる。和田にとっては暑い夏のさなかに正念場がやってくるのだ。しばらくはAAAでのマウンドが続く。和田は調子を維持してそのときを迎えてほしい。何より怪我や故障をしないでほしい。
今、MLBではNPB出身の投手が大活躍をしているが、すべて右腕投手だ。過去を振り返っても、救援はともかく、先発で活躍をした左腕投手はほとんどいない。和田は「日本人投手は右腕だけでなく、左腕も優秀だ」ということを証明するためにも、頑張ってほしい。
【データ】日本で50勝以上した投手のMLBでの成績
【データ】和田毅、アメリカでの成績
【データ】和田毅、2014年の成績
【データ】シカゴ・カブス先発投手陣
広尾 晃
1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。ライター。日米の野球記録を専門に取り上げるブログサイト「野球の記録で話したい」でライブドアブログ奨学金受賞。そのほか、プロ野球の名選手の記録を紹介する「クラシックSTAS鑑賞」などのサイトも運営。合わせて月間70万PVを集めている。著書に「プロ野球なんでもランキング」(イーストプレス刊)
(2014年7月2日「MLBコラム」より転載)