1 「築地再生」の意味
市場問題PT報告書は、「築地の立地と築地ブランドを最大限生かした新しい築地市場の形成」(同105ページ)を掲げます。
築地市場は、改修すれば新しくなり、衛生管理や温度管理も向上します。当然のことですが、改修すれば、老朽化に伴う問題は解決します。
しかし、問題は施設の老朽化だけではありません。
報告書は、「卸売市場は斜陽産業の特徴を備えている事業である」(報告書1ページ)と厳しい指摘をした上で、仲卸業者数が平成元年から半減している状況について、仲卸の個性と多様性の減少であり、このままでは「築地ブランド」の衰退をもたらすと警告しています(報告書26ページ)。
斜陽産業の特徴を備える卸売市場が新しいビジネスモデルに脱皮するチャンスであり、「築地ブランド」の衰退につながる仲卸業者数の減少に対する処方箋として、築地改修が位置づけられています。
そのため、報告書は、「築地改修は、『築地再生』である」(報告書105ページ)と定義しているのです。
1.築地市場は、改修すれば新しくなり、衛生管理や温度管理も向上する。老朽化に伴う問題は解決する。
2.築地改修は、築地市場の再生である。現在の市場取扱量の減少傾向の中で、その傾向に底を打ち、そこから再生する。よって「築地再生」である。 (市場問題PT報告書105ページ)
2 「新しい築地市場」のコンセプト
新しい築地市場の特徴は、「仲卸を中心としたモノとカネが結合した市場であり、築地の立地と伝統を最大限活かした機能的で、観光資源にもなる『にぎわい』のある市場である」(報告書43ページ)としています。
報告書では、①市場機能の充実、②技術伝承の場、③観光拠点の3つを築地改修のコンセプトにしています(報告書106ページ)。
①市場機能の充実では、「仲卸を基本とする築地市場の魅力」を正面に据えています。仲卸の「目利きの技」は、仲卸業者が1人で身につけるものではなく、多種で大量の品揃えをする卸業者、築地市場を利用する料理人、寿司屋、魚屋さんなどの買受人との相互作用によってはぐくまれるものであるとしています。
銀座、赤坂などに近い築地という抜群の立地は、築地市場の大きな利点であると強調しています。施設面では、費用効果的なコールドチェーンや費用効果的な閉鎖型施設によって、「質が高く、費用効果的な品質保証を行う新しい築地市場」を実現するとしています。
②技術伝承の場では、ⅰ)学びの場、ⅱ)食のノウハウの交換の場、ⅲ)東京のグルメ産業を支える台所機能、ⅳ)技能の目利きと和食に対する食育の文化施設をあげています。
③観光拠点では、ⅰ)市場の歴史を引き継ぎ、体感するための場(歴史的な建物のリノベーション、かつて存在した時計台の設置)、ⅱ)ウォータフロント(隅田川・浜離宮)の魅力を付加できる可能性、ⅲ)船とともに楽しめる水都東京(桟橋を活かす)、ⅳ)市場で学ぶツーリズムの可能性に言及しています。
これらが重なるところを「食のテーマパーク」と称しています。「テーマパーク」というとディズニーランドのような遊園地を思い浮かべる人も多いかも知れませんが、それは違います。
報告書に描かれている築地市場の将来像は、あくまでも「仲卸を中心としたモノとカネが結合した市場であり、築地の立地と伝統を最大限活かした機能的で、観光資源にもなる『にぎわい』のある市場」です。
築地市場跡地に最も適した活用策は「新しい築地市場(つきじいちば)」
(市場問題PT報告書112ページ)
3 ウォーターフロントも活用する「新しい築地市場」の姿
築地は、多くの好条件に恵まれています。これらの好条件を活かすのが、報告書の描く「新しい築地市場」です。
①日本国内だけでなく世界にも有名なブランド価値を持った市場である。
②銀座などにも近く、公共交通機関が整備されている絶好の立地条件にある。
③首都圏という大消費地を後背地に持ち、市場としての条件に恵まれている。
(市場問題PT報告書112ページ)
これらの好条件を活かして、ウォーターフロントを活用した隅田川沿いのレストランの設置による収益の確保(隅田川からの入場可能)等により、市場外収入を得て、「新しい築地市場」として自立することが可能な改修案となっています。
卸売市場法との関係では、卸売市場法の下で「経営的に自立した新しい築地市場」の可能性と卸売市場の機能を有するが卸売市場法の規制から自由になって自立した経営を行う可能性の両方を検討すべきだとしています。
通常、卸売市場法に基づく「市場(しじょう)」だけではなく、同法の規制から独立した姿としての「市場(いちば)」も視野に入れた改修案になっています。
4 税金に頼らない独立した経営
改修した築地市場は東京都と「定期借地権」契約を含む経営の契約を締結し、民間企業が卸・仲卸に相当する業務を行う者と契約し、市場業務を行うことを想定しています。
この場合、開設者が東京都でなくなるため「新しい築地市場」は卸売市場法の中央卸売市場にはなりません。
むしろ、卸売市場法の枠から自由になり、都民に対して安全で安心な水産物の供給を行い、市場業務へのテナント料は低額に設定し、レストランなどの他の事業収入により、自立した経営を確立し、税金に頼らない独立した経営を行うことを目指す姿が描かれています。
(続く)
<「弁護士大城聡のコラム」より転載>