最近のトランプ劇場は、スカラムッチ氏の広報部長の任命に幕を開け、スパイサー報道官の辞任、プリーバス主席補佐官の辞任、その後任として海兵出身のケリー氏の主席補佐官就任、そして、Fワード連発で、当のスカラムッチ氏の10日での解任をもって幕というテレビのコメディー並みのゴタゴタ劇を先月末に上演したのは読者の記憶にも新しいと思う。
上演後、座長は、大統領就任後は休まないと言っていたのだが、高齢で流石に疲れたのか今月の20日まで17日間の長い夏休みに入ったので、その間、劇場はインターミッション(中休み)と思いきや、12日に、州による非常事態宣言にまで発展し、死傷者をだした東部バージニア州のシャーロッツビルでの極右白人至上主義者による大規模集会での大混乱が発生し、それに対する大統領の発言が白人至上主義者やネオナチを容認するか、しないかで二転三転して物議をかもしている最中の18日に、なんとトランプ政権の黒幕とも屋台骨とも言われ、トランプ氏を大統領に当選させた中心人部であった主席戦略官・上級顧問であったバノン氏が政権から離脱した(解任とも辞任とも言われるが、離脱後のバノン氏の言動をみるに解任に近いようである)。
トランプ劇場は休まないのである。さすが、エンターテイナー大統領である。公約のほとんどは実行できていない(公約に関連する法案の成立はゼロ)が、この手の話題には事欠かない、まさに劇場政権である。
茶化すのはここまでとして、今回の件も含めて就任半年を迎えたトランプ政権の本質を検討してみたい。そもそもトランプ政権は、獲得選挙人でトランプ候補が上回り(トランプが304、クリントンが227)、得票率でクリントン候補が上回る(トランプが46.0%、クリントンが48.1%)というねじれた構造のもとで誕生している。基本的に各州で勝利した候補が選挙人を総取りする制度(ネブラスカ州とメイン州を除く)なので、トランプ候補が多くの州で勝利を収めた結果、獲得選挙人77人の差で当選したわけである。この選挙でトランプ候補の獲得した州は、極端に言えばオールドインダストリーでありグローバル化に適応できていない州であると言えよう。
言い換えれば、今回トランプ候補に投票した人々は、すでに言われていることであるが、ラストベルト(ミシガン州・オハイオ州・ウィスコンシン州・ペンシルベニア州、ウエストバージニア州などを含む米国北東部からに中西部位置する、石炭、鉄鋼などの重工業、自動車などの製造業が競争力を失ったことで衰退した工業地帯の総称)の労働者に代表される、グローバル化が進むなかで「置いてきぼりになった」下位ミドルクラス以下の保守的な白人労働者たちであり、彼らが、本当に自分たちの居場所がなくなり、忘れ去られるのではないかという危機意識を強くする中で、それをポピュリズムという手段で上手にすくい上げたトランプ候補が勝利したと言う構図である。
トランプ氏は、大統領就任演説で集まった「置いてきぼりになった」と感じている支持者に向かって、語気を強めて「The forgotten men and women of our country will be forgotten no longer」と語って、会場からの万雷の拍手を受けている。また、民主党がオバマ政権で、LGBTや移民などのマイノリティの権利、女性の権利としての中絶の容認などを始めとした多様化した、選択可能な開かれた社会を築くという理念先行を加速化したために、それについていけない、必ずしも共和党員ではない保守的な人々が、理念を述べることなく、雇用など目先の利益に焦点を当てたトランプの支持に流れたこともトランプ候補の当選に寄与したと言えよう。
ここで、トランプ支持者を少し細かく見ていきたい。単純化をするとトランプ大統領の支持者は3つに分類ができるのではないか。
まず、機軸となる支持者は、仕事喪失の危機にあるラストベルトの白人労働者であろう。彼らは、象徴的にヒルビリー(田舎モノの意、レッドネックとも言われる)と呼ばれる、伝統的な保守的キリスト教信者で男女とも白人優位の男性優位主義者であり、「置いてきぼり」になった低教育・低収入の白人労働者といえよう。彼らは家庭や社会で再生産されるので必ずしも中年以上ということはなく、若者も含まれる。労働意欲が著しく低下した人々もいるが、多くは決して先鋭的ではなく普通の労働者といえよう。これがグループ①である。
次にあげられるのは、小さな政府と低い税金(国民を干渉する強い政府を嫌う)を当然と考える人々である。本来の共和党は、小さな政府、規制緩和、減税を指向するので、実業界での支持は強いのであるが、最近はこれに加えて、ポピュリズムとも草の根運動とも言われる共和党内部ではじまったティーパーティームーブメント(トランプ氏と最後まで共和党の大統領候補に座を争ったクルーズ氏の支持母体である。
この背後には大富豪でリバタリアンであるコーク兄弟が設立したAFP(Americans for Prosperity)がある)への参加者が挙げられる。2009年のオバマ大統領当選以降、強力な保守的政治勢力となっている。彼らは、大きな政府と政府の過干渉を嫌う。彼らは、保守派で国内を向く孤立主義であり、ヒルビリーの人々と重なるところもあるがより政治的関心の強い人々である。これがグループ②である。
最後は、多数とはいえないが、政権から離脱したバノン氏の強い影響を受けている新興のオルト・ライト(Alternative Rightの略語。日本のネトウヨに近く、SNSを中心として活動し、比較的若い支持者が多い)とKKKやネオナチといった伝統的な白人至上主義者で、移民などマイノリティを排除しようとする過激な集団である。
この集団が、先日のシャーロッツビルの事件を引き起こした主犯である。オルト・ライトの中心人物で、シャーロッツビルでの極右集会にも参加したリチャード スペンサー氏は公然と「アメリカは白人男性だけのものだ」と言い、トランプ氏の大統領選での勝利に「ハイル・トランプ! ハイル・白人! ハイル・勝利!」)という人物である。これがグループ③である。
中編では、トランプ大統領の公約とこれらの支持グループの対応関係を見てみよう。