トランプ大統領誕生へのシンガポール首相祝辞「米国民は自分たちを代表するベストと感じた大統領を選出しました」

この率直な内容でトランプ氏の当選確実直後に間髪入れずに出してきたのは、シンガポールらしいです。
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Singapore's Prime Minister Lee Hsien Loong speaks in Singapore September 2, 2014. Lee has been diagnosed with prostate cancer and will undergo surgery to remove his prostate gland on Monday, his office said on February 15, 2015. Picture taken September 2, 2014. REUTERS/Edgar Su/File photo
Edgar Su / Reuters

シンガポール首相の祝辞

2016年11月9日(日本時間)、次期米国大統領にドナルド・トランプ氏が選出されました。アメリカの主要メディアで初めてAP通信が「トランプ氏が当選確実」と報じてから、わずか1時間半後に、シンガポールのリー・シェンロン首相が、お祝いのメッセージを自身のFacebookにのせています。私の訳を付けます。

ドナルド・トランプ次期大統領にお祝いを伝えます。トランプ氏の立候補は驚かせるものでした。選挙戦の局面において、トランプ氏は意表を突き、その旅は最終的にはホワイトハウスへとつながりました。

議論が巻き起こる荒れ模様の選挙の季節は、アメリカ国民をひどい分裂にさらしました。多くの人がこの結果を祝福し、一方、他の人が驚き落胆するのは理解できることです。しかし、6月の英国のEU離脱(Brexit)のように、トランプ氏の勝利は先進国での広範なパターンの一部です。現状への強い欲求不満と、一体感への再主張となんとかして体制を変化させたい強い願望を、反映したものです。

米国有権者は、自分たちを代表するベストと感じた大統領を、選出しました。シンガポールはこの決定を完全に尊重いたします。シンガポールと米国の強固なつながりを深めるために、我々はアメリカ合衆国とこれからも共に働き続けます。 リー・シェンロン

Facebook: Lee Hsien Loong

どちらの候補が当選してもメッセージは用意されていたとは思いますが、この率直な内容でトランプ氏の当選確実直後に間髪入れずに出してきたのは、シンガポールらしいです。

#補足: なお、選挙前にTime紙からリー・シェンロン首相がインタビューを受けていますが、Time紙が「クリントン氏が大統領になる仮定のもと」でインタビューを行っており、今からみるとシュールです。

首相のメッセージでは、米国を客観的に見ています。主要な指摘は2つ。2つ目の指摘は、自分自身も先進国であるシンガポールにも、今後跳ね返ってくる可能性があります。

1. 今回の選挙が米国民の分裂を招いた。

2. Brexitやトランプ大統領は、現在の先進国で見られる現象。

米国と中国との大国の間でバランスをとるシンガポール

シンガポールは人口561万人の小国でありながら、埋没せず独立を維持するため、地理条件や経済関係を活かして、大国の間でのバランサーを志向する外交方針です。大国従属に陥らず、大国や近隣諸国の中でバランサーとなる政策をとってきました。

安全保障や外交政策では米国と強固な結びつきを持ち、経済的には中国を成長エンジンにしながらも、依存しない絶妙な舵取りを行っています。

南シナ海での中国との摩擦

「航海の自由」と「法の支配」

中華系移民が国民の3/4を占めるシンガポールですが、移民4世以降が国民の中心となってきているため心理的距離がおかれ、増えすぎた中国人移民に国民感情として必ずしも歓迎していないのが実態です。そして政治的にも、南沙諸島問題への扱いで、中国政府系機関紙 環球時報と在中国シンガポール大使館との間で、議論が公開書簡で起こっています。

シンガポールによる南沙諸島への関心は、領土問題の当事国ではないのでどの国にも加勢はしないとしながらも、南シナ海での「航海の自由」を維持できなければ、貿易国として国益に関わるとの考えがあるためです。また、シンガポールは、紛争は「法の支配」のもとに客観的に解決されるべきとの考えです。

ハブ国家であるシンガポールが繁栄するには、周辺貿易国が活発に活動できる平和な状態が望ましいです。アジアが平和であるためには、(中国のみが存在感を持つのではなく)アメリカの積極的なアジアへの関与が必要だとリー首相は明言しています。また、日本は日米安全保障条約を通じて、アジアで存在感を持って欲しいと、発言してきています。

環球時報は、シンガポールへの非難の中で、「"中国から経済的な果実を得ているにもかかわらず"、安全保障と政治的課題について米国と日本に同調するシンガポールの戦略は、初めから失敗が分かっている」という匿名の識者のコメントを載せています。

TPP拒否のトランプ氏と、推進してきたシンガポール

ハブ国家のシンガポールは、貿易推進のためにTPPをすすめてきました。しかしながら、米国雇用を守ることを理由に、PTTの否定が、トランプ政策の目玉の一つです。トランプ氏は「シンガポールのような国々はアメリカの仕事を盗んでいる」と発言しています。バクスターヘルスケアが199人を解雇し、仕事をシンガポールに移転したとの主張です。

また、法人税を15%に下げる、というトランプ政策は低税率で企業を誘致してきたシンガポールのお株を奪うものです。

米国にも中国にも依存せずに、自国の独立を保ちたいシンガポールにとっては、今後ますます難しい舵取りを迫られることは間違いありません。

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