トランプ大統領によるシリア攻撃、それを支持する日本の思考停止。

展望なき軍事介入がどれほど長期にわたって悲劇を生み出し、どれほどの人命を奪うか、私たちは知っている。
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A TV monitor displays a broadcast of the congressional speech by US President Donald Trump at a foreign exchange brokerage in Tokyo on March 1, 2017. Tokyo shares ended the morning session higher, but the key indexes pared some early gains as investors kept a close eye on President Trump's congressional speech for fresh details on his economic growth plans. / AFP / TORU YAMANAKA (Photo credit should read TORU YAMANAKA/AFP/Getty Images)
TORU YAMANAKA via Getty Images

あの時の悪夢が蘇るようだ……。

それは、2003年に起きたイラク戦争。大量破壊兵器などなかったのに、国連を無視して始められたイラク戦争。そんな「間違った」戦争を始めたアメリカをいち早く支持した、当時の小泉純一郎首相。

そうして、現在。

トランプ政権は、シリアのアサド政権が化学兵器を使ったと断定し、「一線を超えた」と非難。4月7日未明、アサド政権軍の空軍基地をミサイル攻撃した。

「化学兵器の使用と拡散を防ぐことは米国の安全保障上、重要な国益だ」

シリア攻撃に踏み切った理由を、トランプ大統領はこのように述べ、「すべての文明国に、米国に加わるよう」求めている。

そんなトランプ大統領に対し、国連決議もないままの攻撃は「国際法違反」という批判が世界中で高まっているわけだが、安倍首相はやはりいち早く「支持」を表明。

シリア軍が化学兵器を使ったという証拠を持っているわけでもないのに、7日、「米国政府の決意を支持する」と表明した。

更に9日にはトランプ大統領と電話会談し、アメリカが「同盟国や世界の平和と安全のために強い関与をしていることを高く評価する」と伝えている。また、北朝鮮情勢について緊密に連携していくことを確認したという。

北朝鮮情勢。

これもイラク戦争の時のひとつのキーワードだ。

イラク戦争前、当時のブッシュ大統領はイラン、イラク、北朝鮮を「悪の枢軸」と目指しで批判。その約1年後、アメリカはイラクを攻撃してイラク戦争が始まった。

同時期の日本は、02年9月の日朝会談で正式に認められた「日本人拉致問題」に大揺れに揺れ、「反北朝鮮」感情はこれまでにないほど高まっていた。

イラク戦争開戦を前に反戦デモが盛り上がる中、「北朝鮮の拉致問題でアメリカに助けてもらわなきゃいけないんだから、イラク戦争は支持すべき」なんてことを言う人もいて驚いたことを覚えている。

それは直訳すれば、「拉致された日本人を助けるためなら、イラク人はたくさん死んでもいいよね」ということだ。今思えば、トランプ大統領の「ディール(取引)」という言葉が浮かぶ。人命は、そんなふうに取引されるものではない。

さて、北朝鮮は今回のシリア攻撃を受け、アメリカを非難。

「一部では、米国のシリアへの攻撃がわれわれに対する『警告』の性格を持つと騒いでいるが、それに驚くわれわれではない」と強調し、アメリカに対抗していく姿勢を打ち出している。

一方、シリア攻撃を受け、自民党の下村博文氏は「北朝鮮がいろいろな行動を起こさない抑止力になる部分もあるのでは」、高村正彦氏も「『ならず者国家』に対しても一定の抑止力になればいい」と語っている。

が、この発言はあまりにも軽率ではないだろうか。なんといっても、化学兵器使用の確たる証拠などないのである。

それなのに攻撃を支持し、「あわよくば北朝鮮も大人しくさせて」と期待しちゃってるなんて、あまりにも「雑」である。イラク戦争開戦の「判断の誤り」の反省はどこにも見られない。

ちなみに安保理の緊急会合でボリビアの国連大使は、イラク戦争開戦前、当時のパウエル国務長官が「イラクに大量破壊兵器がある」と発言する写真を掲げ、「この写真を覚えておかなければならない。歴史から学んだことを思い出すことが重要」と訴えている。

パウエル氏は、当時の判断を「人生の汚点」と振り返っているという。

翻って、この国はどうか。

政府は、とりあえず思考停止の対米従属と「これで北朝鮮がビビったらラッキー」くらいの反応。これまで、「勘違い」で多くの人命が奪われたイラク戦争の検証も怠ってきた。今回の攻撃を受け、歴史から学ぶ気もあるのか疑わしい状況だ。

イギリスでは昨年、イラク戦争の検証をするチルコット委員会が膨大なページ数の報告書を出し、誤った戦争だったことを認めた。

そのイギリスは13年、議会にて、泥沼化したイラク戦争参戦への反省から、アサド政権への軍事介入を否決している。が、今回の攻撃は「適切な攻撃だ」と評価しているのだが……。

「テロリストが喜ぶだけ」「更なる混乱を生む」「っていうか、支持率が低迷してるトランプ政権の支持率アップのための攻撃じゃないの?」

そんな声があちこちから聞こえる。

もちろん、化学兵器の使用は決して許されない。が、証拠もないまま国連決議もなくミサイルを打ち込むなど、それこそ「ならず者」のすることではないか。

イスラム国(IS)は、イラク戦争後の泥沼から生まれた。

展望なき軍事介入がどれほど長期にわたって悲劇を生み出し、どれほどの人命を奪うか、私たちは知っている。というか今まさに、その悲劇を難民化した人々の姿などによって毎日のように目にしている。

ミサイル攻撃だったら、ある意味で誰だってできる。そうじゃない解決策を生み出すことこそが、トップに求められていることではないのか。

とにかく、世界の秩序はトランプ大統領によってがらりと変わった。なんだかとても嫌な予感がするのは、私だけではないだろう。

(2017年4月12日「雨宮処凛がゆく!」より転載)