自民党の小泉進次郎・農林部会長は11月23日に東京都内で講演し、「TPPが事実上消えた」と述べ、アメリカを含めた環太平洋経済連携協定(TPP)の発効が絶望的になったとの見通しを示した。朝日新聞デジタルなどが伝えた。
アメリカのトランプ次期大統領は21日(日本時間22日午後)、2016年1月の就任初日に実行する政策を示したビデオメッセージを公表し、「TPPからの離脱の通知を出すつもりだ」と、選挙後に初めてTPPについて言及した。
■小泉氏「私はTPP交渉にすぐ参加すべきと言った」
小泉氏はトランプ氏の発言に関し、「私は(自民党が)野党の時から、TPP交渉にすぐに参加すべきだと言っている少数派だった。党内は反対の大合唱ですから、私は選挙で農協中央会から推薦をもらうことはできませんでした」と、自身はTPP推進派だったと語った。その上で小泉氏は、「今、TPPが事実上消えた。米国が入る形では消えた」と述べ、TPPの発効が不可能になったとの見通しを示した。
TPPの発効には、加盟12カ国の国内総生産(GDP)の85%以上を占める6カ国以上の批准が必要となる。アメリカは加盟国全体のGDPのうち60.4%を占めており、アメリカが離脱すれば、現行のTPPの発効が不可能となる。
■TPP発効、事実上不可能に 閣僚の反応は?
TPPをめぐっては、参加12カ国の首脳会合が19日にペルーの首都リマで開催された。安倍晋三首相は21日(日本時間22日午前)の記者会見で、「アメリカ抜きでTPPの発効を目指すという意見については12か国の会議では議論にならなかった。TPPはアメリカ抜きでは意味が無く、根本的な利益のバランスが崩れる」と訴えた。
トランプ氏と会談し、「信頼できる指導者と確信した」と評した安倍首相にしてみれば、トランプ氏のTPP離脱発言は、はしごを外された格好だ。
トランプ次期米国大統領と握手を交わす安倍首相
安倍内閣の閣僚はどう反応したのだろうか。
菅官房長官は22日午前の会見で、「まだ(オバマ)現政権が続いているわけですから、しっかり見守っていきたい」「米国やほかの署名国に対し、国内手続きの完了を働きかける」と述べ、引き続き批准を求める姿勢を示した。
岸田文雄外相は22日の参院TPP特別委員会で、「トランプ次期大統領は選挙戦中もさまざまな発言をしてきた。新政権が具体的にどういった政策を行うのか、今の段階で予断を持って申し上げるのは控える」と発言した。
その上で、「TPP首脳会合では、アメリカも含めて国内の手続きを進めていくことの重要性を確認し、経済的・戦略的な重要性も確認したところだ。今はまず、わが国も各国と連携しながら国内手続きを進め、機運を盛り上げるべきだ」と答えた。
石原伸晃TPP担当相は、22日の閣議後会見で、「ひるむべきではない」「立ち止まることはできない」と発言。「戦後日本の発展を考えたとき、『自由貿易』『ブロック経済と対峙』は、どんな状況になろうと日本国の運営上、必要だ」と述べ、今国会でTPP協定の承認案と関連法案の成立を目指す考えを強調した。
■トランプ氏 TPPではなく、2国間のFTA(自由貿易協定)を志向か
大統領就任初日にTPPを離脱すると明言したトランプ氏だが、一方で「雇用と産業をアメリカに取り戻す公平な2国間貿易協定の交渉を進めていく」と、同じビデオメッセージ内で述べている。
トランプ氏は大統領選で「アメリカに不利な自由貿易が雇用を喪失させた」と訴え、多国間の自由貿易を否定。製造業が衰退した中西部の「ラストベルト」と呼ばれる地域に暮らす労働者層の支持を集めた。
2国間のFTAは、アメリカとしては相手国に圧力をかけやすい。一方、日本側にしてみれば、アメリカ産牛肉の関税引き上げや農産物などの市場開放など、TPP以上の譲歩を迫られる可能性がある。