アメリカ・ニューヨーク州マンハッタン地区の裁判所の陪審員団は5月9日、ドナルド・トランプ前大統領に対し、コラムニストのE・ジーン・キャロル氏への性的虐待と名誉毀損で総額500万ドル(約6億7600万円)の損害賠償金支払いを命じた。
キャロル氏は、ニューヨークの高級デパートの試着室で1990年代半ばに性的暴行を受けたとしてトランプ氏を訴えていた。
事件から30年近く経っているにも関わらず、キャロル氏が訴訟を起こせた背景には、性的暴行の被害を受けたサバイバーたちの活動がある。
ニューヨーク州では2022年、何十人ものサバイバーたちの働きかけのおかげで「成人被害者法(Adult Survivors Act)」が成立した。
この法律のもと、時効が過ぎた性的虐待の被害者は2022年11月24日〜2023年11月24日の間、加害者や加害者を守った機関を一度だけ訴えることができるようになった。
法律の実現に尽力した1人、アリソン・ターコス氏は「E・ジーンがあの法廷に立てたのは、サバイバーたちが諦めることなく徹底的に闘ったおかげです」とハフポストUS版に語った。
「サバイバーたちが闘って法律を変え、この訴訟の扉を開けたことを忘れないでほしい。法律が変わらなければ、今回の評決は下されなかったでしょう」
法改正に要した時間は3年以上。アクティビストたちは、13年間のロビー活動の末に2019年に成立したニューヨーク州の「未成年被害者法(Child Victims Act)」を参考に、活動を続けた。
成人被害者法の成立に携わったサバイバーで、音楽ライター/プロデューサーであるドリュー・ディクソン氏は、評決を聞いて涙を堪えるのに苦労したと語った。
「同じサバイバーである仲間の活動家たちとともに、E・ジーン・キャロルが訴訟を起こす道を作れてとても感動しています。彼女の勇気と人間性、優雅さ、傷つきやすさを、言葉で表現することはできません」
ディクソン氏は「サバイバーたちは、信じられないほど強い意志力で活動してきた」とも述べる。
「トラウマは時間が必要なものであり、時効の規定に科学的な根拠はない、心理学で明らかになってきたことと一致していないと主張し、法律の必要性を強く訴えてきました」
ターコス氏も、レイプ事件の民事訴訟を起こしている。その経験から、裁判では被害者が孤立を感じ、トラウマを再発する可能性があると指摘する。
警察や検察官や裁判官の中には、被害者に対する偏見や誤解を抱いている人や、トラウマについての知識がほとんどない人たちが少なくない。
キャロル氏の裁判でも、こういった偏見が露呈した。
トランプ氏の弁護士は、キャロル氏に「あなたはノーと言いましたか?なぜ叫ばなかったのですか?なぜ警察に連絡しなかったのですか?」と質問。トランプ自身も、キャロル氏は「自分のタイプではない」と述べてレイプを否定した。
トランプ氏の弁護士の質問に対し、キャロル氏は「私は1943年生まれのサイレントジェネレーションです。私たちの世代の女性は、警察に連絡するのではなく、用心しろと教えられました」「叫ぶ女性もいれば、叫ぶことができない人もいる」と答えた。
キャロル氏は、ターコス氏やディクソン氏らサバイバーの闘いのおかげで、被害を訴えることができた。
評決が言い渡された後の声明で「この勝利は私だけでなく、信じてもらえずに苦しんだすべての女性のためのものです」と述べた。
性的暴行では、被害者が孤立してしまうことも少なくない。しかしディクソン氏は、コミュニティには大きな力があると強調する。
「私たちはお互いを支え、団結することで、少しずつ段階的に文化を変えて正義を実現できます」
「ドナルド・トランプは、スターは何をしても許されると言いました。彼は何百万年もそうだったと言ったのです。しかし、もはやそれは正しくありません」
ハフポストUS版の記事を翻訳しました。