◇ ゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長(3月8日辞任)、レックス・ティラーソン国務長官(3月13日辞任)、ハーバート・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)(3月15日辞任報道、正式発表は22日)の3人が次々と辞任した。
◇ この間、トランプ大統領は金正恩委員長との会談を独断で了承したほか、通商拡大法232条およびスーパー301条により中国との貿易摩擦が表面化した。これらの決定はいずれも多くの有識者が強い疑念を抱くものばかりであり、政策運営は一段と混迷の度合いが深まり、ますます予想不可能なものとなっているとの見方が支配的である。
◇ トランプ政権は昨年1月の発足以来、内政、外交、人事、予算等あらゆる面において以前の米国では考えられない支離滅裂で予測不能な政策が実施されている。これまで世界秩序形成をリードしてきた米国の姿勢とは大きく異なるこれらの政策決定により、国際社会における米国の信頼は急落している。
◇ トランプ大統領の支持者は政策運営上の深刻な問題点を殆ど気にしておらず、トランプ大統領の支持率は昨年4月以降、40%前後でほぼ安定的に推移している。
◇ トランプ大統領は支離滅裂な政策運営に対する国内外の有識者からの批判や国際社会における米国の信頼低下は殆ど眼中になく、選挙区のトランプ支持者層が喜ぶことを短期的な視点で次々と打ち出し続けていると見られている。
◇ 昨秋以降の半年間でワシントンDCの中国に対する雰囲気は非常に暗く、否定的な見方になった。その背景は、中国がルールに基づく国際秩序を蝕んでいるほか、南シナ海における挑発的な行動により国際法や国際規範に対して直接的に挑戦しているといった、中国に対する厳しい批判である。そうした中国に対する不満と不信が累積している状況下で、中国を批判するティラーソン国務長官スピーチや国家防衛戦略等政府公式文書等が次々に公表され、国民感情が反中方向に傾いた。
◇ 通商拡大法232条、スーパー301条の制裁措置に対抗して中国政府は迅速に一連の報復措置を発表した。これらは一見米国に対して厳しい姿勢をとっているように見えるが、その中身を見ると、米国側に対する配慮が伺われる。これは報復合戦がエスカレートし、貿易摩擦が激化して貿易戦争に発展しないよう配慮しているように見える。
◇ 大統領独自の判断で朝鮮戦争以来初めてとなる米朝首脳会談実施という重大決定が下された。しかし、現在トランプ政権は内部に朝鮮半島問題に精通したプロがいない状況にある。しかもティラーソン国務長官ら穏健派の中核人物が政権を去っており、北朝鮮に対する姿勢は一段と強硬路線に向かうことが予想されている。
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(2018年4月24日 キヤノングローバル戦略研究所「混迷の度を深めるトランプ政権と米中貿易摩擦・北朝鮮問題<米国出張報告(2018年3月4日~21日)>」より転載)