アメリカのドナルド・トランプ大統領はこれまで、「イスラム過激派のテロ」という表現の使用を避けたバラク・オバマ前政権を繰り返し批判してきた。しかしトランプ氏は初の外遊に訪れたサウジアラビアで、トランプ氏は「イスラム原理主義の脅威」という表現で非難を表明し、前任者の先例に従った。
トランプ氏は5月21日、サウジアラビアの首都リヤドで開かれた、イスラム教スンニ派が主流の55カ国による首脳会合「アメリカ・アラブ・イスラム・サミット」に出席した。
「これは異なる信仰や宗派、文明間の争いではありません。これは、人命を奪い去る野蛮な犯罪者と、あらゆる宗教の、命を守ろうとする真っ当な人々との闘いです。善と悪との闘いなのです」と、トランプ氏は演説した。しかし大統領就任前には、イスラム教に対し痛烈な批判を浴びせていた。
「だからこそ、イスラム原理主義の脅威、イスラム主義者、イスラム教徒のあらゆるテロ行為に正面から立ち向かうことです」と、トランプ氏は続けた。「罪のないイスラム教徒の殺害、女性の抑圧、ユダヤ人の迫害、キリスト教徒の虐殺に対し、団結して対処するのです」
「アメリカ・アラブ・イスラム・サミット」は、年1回開催される首脳会合だ。大統領は演説中に 「イスラム教のテロ」という言葉を1度だけ用いたが、イスラム原理主義者を「野蛮な犯罪者」と呼び、国内の原理主義者を排除するようアラブ各国に呼びかけることに演説の大半を費やした。
トランプ大統領はホワイトハウスが公開した準備原稿を急遽変更し、「イスラム原理主義の脅威...イスラム教のあらゆるテロ行為に立ち向かう」と発言した。
トランプ氏大統領はかつて、「サウジアラビア政府が2001年9月11日のテロ攻撃に関与していた」と発言したこともあるが、同国に対し、全体的には比較的融和的な姿勢をとった。
「我々は説教をしに来たのではありません。生き方や、行動や、目指すべき姿、信仰のありかたについて指図するために来たのでもありません」と、トランプ氏は述べた。「我々がこの場にいるのは、共通の利益や価値観に基づく協力関係を築くためであり、我々皆のために、より良い未来を模索するためです」
大統領就任後初の外遊で、トランプ氏は温かい歓迎を受けた。サウジアラビアの人権問題や、女性、宗教的少数派に対する抑圧に関して圧力をかけることは避けた。またトランプ氏は今のところ、訪問に込めたメッセージから人々の注意をそらしかねない議論を巻き起こさないよう、過激な公式コメントやツイートを控え、予定に忠実に行動している。
中東問題を専門とする研究者ヴァリ・ナスル氏は、ホワイトハウスが大統領の演説で連帯を高めることを意図したとみる一方、テロリズムのような課題についてイスラム社会がこれまでに行った対策に感謝を示さなかったことで、トランプ氏の演説は「上から目線で恩着せがましい」と受け取られる可能性がある、と釘を刺した。
「自分たちの宗教をどのように解釈するべきか、あるいは原理主義に対抗すべきかどうかについて他者から口を出されるのをイスラム教の人々は望んでいません」と、ナスル氏は21日、CNNの番組内で語った。「イスラム教徒の大半が原理主義には反対しています。原理主義に苦しめられているのは彼らなのです。ですからアメリカの大統領が、イスラム教徒は原理主義に無関心で何の対処もしてこなかったかのように指摘すると、イスラム社会との間にすれ違いが生まれるのです」
トランプ政権はまた、大統領演説で、政権がここ1週間にわたって直面している自ら招いた危機的状況――ロシア関連の調査をめぐるジェームズ・コミーFBI長官の更迭や、トランプ氏がIS対策に関連する機密情報をロシア外相らに公表した問題――から世間の関心をそらすことも狙っている。
また今回の演説で、トランプ氏が大統領選で主張した反イスラム的な発言を帳消しにする狙いもあった。
大統領選に立候補する前から、トランプ氏はたびたび「イスラム過激派のテロ」というフレーズを使用しないオバマ前大統領を非難していた。アルカイダやIS(イスラム国)を自称する組織を指して「イスラム過激派」という言葉を用いると、そうした組織にあたかも宗教的な正当性があるかのような印象を与えるため、この表現は用いない、とオバマ前大統領は語っていた。
オバマはようやくイスラム過激派のテロという言葉を口にするのか? もしこの言葉を使わないなら、面目のなさを恥じ、即刻辞任すべきだ!
オバマはいつ「イスラム過激派によるテロ」という言葉を口に出すんだ? 彼には言えないんだろうが、それを言わない限り問題は解決しないぞ!
イスラム過激派に対する私の認識が評価されるのはありがたいが、私は評価などいらない。私が望むのは、強靭で用心深い対応だ。賢くならなければ!
「誰の助言にも耳を傾けないというのが、トランプ氏について最もよく言われる批判のひとつだ。彼はとても頑固で、自分の思った通りに行動する人だ」と、2016年大統領選でトランプ氏と共和党候補の座を争ったリック・サントラム元上院議員(共和党、ペンシルバニア州)は21日、CNNの番組で語った。「トランプ大統領が誰かの意見に耳を傾けているのは明らかだ。選挙戦から就任初期までとは様子が違う」
トランプは3月、「イスラム教徒は我々を憎んでいると思う」と発言した。また、ワールド・トレード・センターが攻撃を受けた9.11テロの際に「イスラム教徒が歓声を上げるのを目にした」と主張したほか、2015年には「イスラム教徒のアメリカ入国を、完全に徹底的に停止するべきだ」と訴えた。
トランプ政権は反イスラムのイメージを払拭しようとしているが、こうした発言はトランプ大統領につきまとい続けている。政府は現在、イスラム主流国6カ国からアメリカへ向かう訪問者や難民の入国を禁止するトランプ氏の大統領令を擁護している。入国禁止令はイスラム教徒を対象とするものではないというのが政府側の主張だが、裁判所側はトランプ氏自身による選挙中に発言を繰り返し指摘し、この主張に疑問を投げかけている。
オバマ政権時代、ホワイトハウス広報部長と国務省報道官を務めていたジェン・サキ氏も、トランプ氏の演説が、完全な方針転換を示しているのかどうかは疑わしいと指摘している。
サキ氏はCNNの番組で「演説をリセットする機会にしようとしていますが、すべての亀裂が修復できるわけではありません」と語った。「イスラム圏の人々が注目しているのは、トランプ氏の行動だと思います。トランプ政権は入国禁止令にこだわり続けるのか? トランプ氏はアメリカ国内での論調を変えるのか? 2週間後にオハイオ州で開かれる集会で、彼はどんなことを言うのか?」
トランプ氏がサウジアラビアで行った演説を作成したのは、ホワイトハウスのスティーブン・ミラー大統領補佐官だ。ミラー氏はイスラム圏からアメリカへの入国を禁止する大統領令の作成も手がけている。
ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。
▼画像集が開きます
(スライドショーが見られない方はこちらへ)