トランプ政権の予算案、「勝者と敗者」明暗くっきり

「これはアメリカ・ファーストの予算案だ」
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U.S. President Donald Trump speaks during the Friends of Ireland Luncheon at the U.S. Capitol in Washington, D.C., U.S., on Thursday, March 16, 2017. As the Trump administration vows to upend international trade accords, including pulling out of the North American Free Trade Agreement, German Chancellor Angela Merkel's government has redoubled its support for multilateral trade arrangements. Photographer: Olivier Douliery/Pool via Bloomberg
Bloomberg via Getty Images

アメリカのトランプ政権は3月15日、2018年会計年度(2017年10月-18年9月)予算案の概要を発表した。国防費や、国境の壁建設などの国境警備費は拡充し、国務省や環境保護局(EPA)などの予算を大幅に削減する。

ドナルド・トランプ大統領は初の公式予算案を3月14日に提示し、公共支出の優先順位を決定するにあたっての基本方針を根本から変えた。トランプ氏は、現在貧困層対策や科学研究促進、環境保護対策などの予算540億ドル(約6兆1020億円)を削減し、その分を国防関連に回そうとしている。これが実現すれば、高い評価を受けている連邦政府のプログラムのいくつかは、完全に廃止となる。

「今回の予算削減はきわめて合理的なものだ」と、予算案の発表と同時に出した声明でトランプ氏は語った。「どの政府機関も最大限に効率化をはかり、無駄な支出をなくして無駄な支出をなくし、アメリカ国民に公正なサービスを提供する」

大統領本人が予算案を提出できない。提出権限は議会にある。大統領が提示する予算案は従来、議会との交渉を始めるにあたってのたたき台の役割をしていたが、連邦議会の「通常の手順を踏んだ」予算決定プロセスは長年機能していない。トランプ大統領の予算案はむしろ、所信表明と捉えるべき性質のものだ。

「これはアメリカ・ファーストの予算案だ」と、行政管理予算局(OMB)のミック・マルバニー局長は15日記者会見の場で述べた。「我々は大統領自身の言葉を使った。大統領演説内容を読んで検討を重ねた。大統領の意図する政策がどのようなものかを調査し、それらを数値化したものだ」

勝者――予算増加で恩恵を受ける側

軍事産業 トランプ大統領の予算教書により、最も恩恵を受けるのが明らかなのは軍事産業と軍隊だ。540億ドル(約6兆1260億円)もの予算増額となり、ほぼ何に使っても構わないのだろう。予算の投入先の例として予算教書で挙げられているのが、「重要な武器弾薬の在庫確保」、「即応能力の再構築」、「さらに戦闘能力を高めた統合軍」、「F35統合打撃戦闘機の更なる導入」だ(F35部隊の増強には何兆ドルもの天文学的費用を要することが明らかになっている)。

「今回の増額分だけで、ほとんどの国々の国防費全体を上回るものだ。さらにアメリカの歴史上、国防省の1年間当たりの予算増額としては最大のものとなるだろう」と、予算教書には記されている。

移民を捕まえて国外追放したい人々 予算教書では3億1400万ドル(約354億8200万ドル)を投じて新たに国境監視員を500人採用し、移民税関捜査局の職員を1000人増員することが提案されている。

国境の壁 トランプ大統領の望みは、国土安全保障省の予算を26億ドル(約2938億円)増額することだ。その内のかなりの金額が「南部国境沿いに物理的な壁を、計画、設計、建設」するために使われることとなるだろう。もちろん、実際に壁を建設するとなると26億ドルでは完全に不足する。「ローマは一日にして成らず」という諺がある。

敗者――廃止、または予算が大幅に削減される側(ひどい!)

貧しい人たち トランプ予算案は低所得層の住宅光熱費援助プログラムを排除する。このプログラムは、限定された貧しい人たちが暖房や冷房に使う費用を援助するものだ。

「この住宅光熱費援助プログラムは、同じような所得層に向けた他の所得援助プログラムに比べて影響力が少なく、有効な成果を示すことができていない」と、トランプ予算案には示されている。この予算案では、コミュニティサービス包括補助金(CSBG)も除外されることになる。この補助金は、高齢者や身障者に食事を提供する「ミールズ・オン・ウィールズ・プログラム」にも資金提供をしている。この2つのプログラムが除外され、合計42億ドル(約4765億円)の削減となる。

暖房援助プログラムを運営する団体「国立エネルギー援助ディレクター協会」のマーク・ウルフィ理事長は、この予算案は愚かなものだと語った。

「政府が実際に意図しているのは、国境の壁や陣営が優先している他のことに予算が必要なので、LIHEAPや、CSBGにその42億ドルを捻出させようということです」、ウルフィ氏はメールでこう語った。このプログラムは毎年、610万戸の貧しい世帯の光熱費を援助している。そのうちの70%の世帯には少なくとも1人の子供か、高齢者か、障害のある人が住んでいる。

「凍えているおばあさんを助けるということに、どんな議論が必要だというのですか?」と、ウルフィ氏は語った。

オバマ政権も、暖房援助の削減を支持したことで話題になった。実際に議会は2011年の終わりに財政援助を大幅に削減した。しかし、この時は燃料費が値下がりし、暖冬により暖房のコストが減ったことで、いくらか相殺されている

ミールズ・オン・ウィールズ・プログラムは主に寄付から成り立っているが、協会の地方支部については、保健社会福祉省から受け取る国からの補助金の方が多いと指摘した。予算案の中には、この保険社会福祉省の名前さえ出てこない。しかし、この省の全体の割り当ては17.9%削減されることになる。

「まだ正確な影響はどうなるか分かりませんが、このように大きな成功を収めていて資金を補助金に頼っているプログラムは、アメリカの何百万もの弱者の高齢者に必要なケアを提供する、私たちの能力に大きな打撃を与えることになります。高齢者に必要なケアを提供することで、ヘルスケアの費用を何十億ドルも削減できるのです」と、エリー・ホランダ―氏(ミールズ・オン・ウィールズの代表)は、声明で述べた。

労働者 トランプ氏の予算案は、労働者の訓練や安全に関する多様な労働局のプログラム用資金を大幅に削減する。

NPO「ハビタット・フォー・ヒューマニティ」 トランプ大統領は、住宅供給・地域コミュニティ開発事業を廃止し、3500万ドル(約3900億円)の予算を節減するとしている。このお金は低所得者の住環境改善を支援するNPO「ハビタット・フォー・ヒューマニティ」をはじめ、貧しい人々のために家屋の建設、修理を行う団体に充てられる予算だ。

だが、心配はいらない。予算教書によると、親切なお金持ちたちが、貧しい人々に必要なあらゆる住宅支援をすでに行っているという。教書は「この事業は、慈善団体の取り組みと、その他のより柔軟な民間部門からの投資が重複している」と断言している。

科学 この予算教書で、科学界と生物医学学界を壊滅的に追い込まれると言っても過言ではない。

予算案では環境保護庁(EPA)の予算を大幅に削減(31.5%)するだけでなく、NASAの衛星計画を無条件で打ち切り、エネルギー省科学局の予算を9億ドル(約1020億円)削減し、 「先進技術車両製造計画」を廃止し、 国立海洋大気庁(NOAA)の予算を2億5000万ドル(約283億円)削減するほか、国立衛生研究所(NIH)の予算も60億ドル削られるとみられる。これによりNIHの予算額は過去15年間で最低の水準となる。オバマ政権時にの末期に先進療法の開発・導入を促進する「21世紀の治療法案」が可決され、NIHへの予算拡充が約束されたが、もはやその予算がなくなったどころの話ではない。

アメリカ生化学・分子生物学会の広報部長ベンジャミン・コーブ氏は、この予算案を「容認できない」と批判した。「両政党が長年支えてきた国立衛生研究所(NIH)や、アメリカの生物医学研究活動への支援が打ち切られることになります。アメリカの生物医学の研究活動は長い間、生物医学の分野で世界の最先端を走っているのです」と、コーブ氏は警告した。

ビッグバード この予算案だと、PBS ( 「セサミストリート」を放送する公共放送局)に資金提供をしている公共放送の企業を潰すことになる。

看護師に志望する人たち 医療専門家や看護プログラムの訓練の費用、4億300万ドル(約457億円)とはおさらばだ。

アーティスト 全米芸術基金はなくなってしまう。全米人道基金は、ケン・バーンズのドキュメンタリー映画「南北戦争」など多くの素晴らしい企画に資金提供をしてきたが、この基金もなくなってしまう。

勝者でも敗者でもない――未定 

社会保障とメディケア(高齢者、障害者向け公的医療制度) アメリカ政府はこの2つに最も多くの予算を費やしている。この2つの項目は書面から省略されている。補助栄養支援プログラムも省略されている。

リベラルの有力シンクタンク「予算・政策優先度研究所」(CBPP)は、過去の政権の支出は簡素だったとはいえ、これほど「強制的な」支出のプログラムすら含まないトランプ氏の予算案は異例だ、と指摘した。

「これとは対照的に、レーガン以降の政権はそれぞれ異なる方法で初期予算を提示しましたが、彼らの予算案はいずれも総支出、歳入、赤字(または余剰)にどう影響するか、全体像を予算年度の先まで見据えたものでした」と、リチャード・コーガン氏はCBPPのブログで語った。

トランプ氏は大統領選中、社会保障やメディケアの予算削減はしないと繰り返していた。「大統領はあなたとの約束を果たします。私がそのことを確認できます」と、マルバニー局長は記者団に語った。

トランプ氏はまた、メディケイドを削減しないことも繰り返し公約している。しかし、彼が現在進めている保健医療法案(トランプケア)は、このプログラムを880億ドル(約101兆円)削減し、何百万人ものアメリカ人から健康保険を奪うだろう。

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ALISSA SCHELLER/THE HUFFINGTON POST

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

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