「トランプ優位」で迎える「スーパー・チューズデー」

候補の数が減少する中、トランプ氏の「勢い」は衰えるどころか、むしろ強まっているのが現実である。
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FORT WORTH, TX - FEBRUARY 26: Republican presidential candidate Donald Trump speaks at a rally at the Fort Worth Convention Center on February 26, 2016 in Fort Worth, Texas. Trump is campaigning in Texas, days ahead of the Super Tuesday primary. (Photo by Tom Pennington/Getty Images)
Tom Pennington via Getty Images

ネヴァダ州共和党党員集会が2月23日に行われ、実業家兼テレビパーソナリティのドナルド・トランプ氏が45.9%の得票率で勝利を収めた。2位となった23.9%のマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出)を22ポイントも大きく引き離しての圧勝となった。3位は21.4%のテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)であったが、トランプ氏の得票率はルビオ、クルーズ両氏の得票率の合計45.3%を上回る圧勝となった。

ネヴァダ州党員集会が終わったことで、初戦であった2月1日のアイオワ州党員集会、2月9日のニューハンプシャー州予備選挙、2月20日のサウスカロライナ州予備選挙とともに2月に行われる「序盤州(early states)」4州すべての戦いが終わった。

「序盤州」での3連勝

「序盤州」4州の戦いを終えて、トランプ氏は3勝1敗、しかも3連勝と「勢い」をつける形で共和党大統領候補指名獲得争いを優位に展開している。各候補の獲得代議員数をみると、トランプ氏は82人で、17人のクルーズ氏、16人のルビオ氏、6人のジョン・ケーシック・オハイオ州知事、4人の元脳神経外科医であるベン・カーソン氏らを大きく引き離している。

今回の共和党大統領候補指名獲得争いには当初17人もの候補が出馬していたが、現在はわずか5人にまで絞られており、ケーシック、カーソン両氏の撤退も時間の問題と考えられ、トランプ氏を軸にクルーズ、ルビオ両氏がトランプ氏についていけるかが当面の焦点となってきた

トランプ氏は初戦であったアイオワ州党員集会で保守派のクルーズ氏に敗北したものの、その後はニューハンプシャー州予備選挙、サウスカロライナ州予備選挙、ネヴァダ州党員集会を制して3連勝を収めた。3連勝は地域的には、北東部ニューイングランド地方のニューハンプシャー州、南部初の予備選挙が実施されたサウスカロライナ州、そして西部のネヴァダ州となり、それぞれ特徴があり、大きく異なる州で地域的広がりのある形でトランプ氏に対する強固な支持が存在していることが明らかになった。

トランプ氏に対する強固な支持は、こうした地域的広がりがあるだけではない。ネヴァダ州党員集会での各種出口調査では、トランプ氏は党内の支持層をまんべんなく取り込み始めていることも明らかになっている。保守派から穏健派、キリスト教福音派(エヴァンジェリカル)、若年層、高齢者、高学歴層、低学歴層、ヒスパニック系という様々な有権者層からの支持をトランプ氏は広げつつある。

ヒスパニック系からも支持

サウスカロライナ州は、内陸部はエヴァンジェリカルの有権者が多く居住する一方、沿岸部は軍人や退役軍人が多く居住しており、まさに共和党の中核的支持者が数多く居住している州として知られている。サウスカロライナ州は1980年以降、南部初の予備選挙を実施し始めてから、共和党大統領候補指名獲得争いで常に重要な役割を担ってきた。

1980年のロナルド・レーガン前カリフォルニア州知事(当時)から前回の2012年のニュート・ギングリッッチ元下院議長まで、過去6回のサウスカロライナ州予備選挙の勝者は、ギングリッチ氏以外、すべて最終的には共和党大統領候補の指名獲得に成功している。

アイオワ州党員集会ではクルーズ氏が同州北西部に多く居住するエヴァンジェリカルの有権者の支持を獲得して勝利したが、トランプ氏は、サウスカロライナ州予備選挙ではエヴァンジェリカルの有権者からの支持を受けて勝利できることを明らかにした。

また、トランプ氏は、昨年6月の大統領候補出馬表明時からヒスパニック系不法移民に対する厳しい発言を繰り返し行ってきたにもかかわらず、ネヴァダ州党員集会では、ヒスパニック系有権者の45%の支持を獲得している。本来であるならば、ヒスパニック系であるルビオ、クルーズ両氏のいずれかが優れた結果を出さなければならなかったが、ヒスパニック系有権者の間でもトランプ氏に大きく引き離されることとなった。

共和党主流派勢力は、候補の数が絞り込まれればトランプ氏に対抗できる「エスタブリッシュメント候補」が浮上し、トランプ氏の「勢い」を止めることができるとの議論を展開していた。サウスカロライナ州予備選挙での惨敗後にジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事は撤退を表明し、ルビオ氏は共和党主流派が推す「エスタブリッシュメント候補」としてネヴァダ州党員集会で浮上していくことが期待されていた。

ところが、こうした期待は裏切られ、ヒスパニック系有権者の間でもトランプ支持が広がっており、トランプ氏の強さが益々鮮明になってきている。候補の数が減少する中、トランプ氏の「勢い」は衰えるどころか、むしろ強まっているのが現実である。

「勢い」を止められるか

共和党大統領候補指名獲得争いの次の主戦場は、3月1日の「スーパー・チューズデー」である。選出代議員数が155人に達するテキサス州や76人のジョージア州、58人のテネシー州をはじめ、南部諸州を中心に全米13州で一斉に予備選挙、党員集会が行われる。2月の「序盤州」4州で3連勝したトランプ氏がその「勢い」を持続したままで「スーパー・チューズデー」を乗り切った場合、もはやいずれの候補もトランプ氏を止めることは相当困難になるであろう。

トランプ氏とともに共和党大統領候補の指名を争い、ニューハンプシャー州予備選挙での敗北後に撤退を決断した穏健派のクリス・クリスティ・ニュージャージー州知事が「スーパー・チューズデー」を6日後に控えた2月26日、テキサス州でトランプ支持を表明したことは、共和党主流派勢力に大きな衝撃を与えている。また、トランプ氏のネヴァダ州党員集会での勝利翌日の2月24日には、複数の共和党下院議員もトランプ支持を初めて表明しており、現職の共和党下院議員の中からもトランプ支持の動きが出始めている。

「スーパー・チューズデー」の約2週間後の3月15日に実施されるオハイオ州、フロリダ州、イリノイ州、ミズーリー州、ノースカロライナ州などでの予備選挙では、勝者がすべての代議員を獲得する「勝者総取制度(winner-take-all system)」に移行する。トランプ氏の独走を阻止するためには、3月15日の前に「勢い」を止めることが必要となる。 

最近トランプ氏は、保守系有権者がクルーズ氏から離反することを狙い、クルーズ批判を強めている。トランプ氏はネヴァダ州党員集会での勝利演説の中で支持者に対して、「今後の2カ月は素晴らしいものとなるだろうが、2カ月も必要ないかもしれない」と自信満々で語った。共和党の大統領候補を指名するためには、全国党大会に派遣される合計2472人の代議員の過半数に相当する1237人の代議員の獲得が必要となる。

2008年のジョン・マケイン上院議員(アリゾナ州選出)、2012年のミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事がそれぞれ大統領候補の指名を獲得した勝ち方と比較すると、今回のトランプ氏の方がより力強い勝利を重ねてきている印象を筆者は強く受けている。「序盤州」で3連勝したことで共和党大統領候補指名獲得への道筋が最も鮮明に見え始めているのはトランプ氏ではないだろうか。

足立正彦

住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト。1965年生れ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より現職。米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当する。

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(2015年2月28日フォーサイトより転載)