PRESENTED BY 日本財団

「自分を『超』好きだから、違いを乗り越えられた」RYUCHELL(りゅうちぇる)さんが息子に伝えたい「自分を愛するということ」

違いを楽しむにはどうしたら良い?「超ダイバーシティ芸術祭」のアンバサダーを務めるRYUCHELLさんと「身長100cmのママ」伊是名夏子さんに聞きました。
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伊是名夏子さん(左)とRYUCHELLさん(右)
SOTA OHARA

「男の子なのになんで、バービー人形で遊んでるの?」

幼稚園の頃から、こうからかわれ続けたというタレント・アーティストのRYUCHELLさん。しかし、周囲との「違い」が今、「個性」として彼を輝かせています。

そんなRYUCHELLさんがアンバサダーを務めるのが「True Colors Festival 超ダイバーシティ芸術祭 -世界はいろいろだから面白い-」。1年間にわたって、音楽やダンス、ミュージカルなどパフォーミングアーツの力で、障害・性・世代・国籍・言語など、「ダイバーシティ」の豊かさや楽しさを伝える試みです。

言葉で言うのは簡単だけれども、実際はとても難しい「違いを認め合う」ということ。「どうして自分は周りと違うんだろう」と劣等感を感じてしまったり、マイノリティに対してつい心の壁を感じてしまったり…。

RYUCHELLさんはどうやって「周囲とは違う自分」を愛することができたの?違う立場や境遇にいる人をどうしたら理解できる?

RYUCHELLさんと、生まれつき骨の弱い障害がある「身長100cmのママ」伊是名夏子さんに聞いてみました。

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RYUCHELLさん
SOTA OHARA

自信なかった幼少期 違ったからこそ輝けた

――RYUCHELLさんは、子どもの頃からいわゆる「女の子らしい」と言われる洋服や遊びが好きだったのですね。

RYUCHELL:周りから「派手だね」「女の子っぽい」と言われ続けて、自分に自信が持てませんでした。でも昔から自分のことが「超」好きだったから、ここまでやって来れたと感じます。そして今になってみると、違いはすべて全て僕の個性として生きている。人と違ったからこそ輝けたんです。

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伊是名夏子さん(左)とRYUCHELLさん(右)
SOTA OHARA

――伊是名さんは骨が弱い「骨形成不全症」という障害で、身長100センチと小柄で電動車いすを使っています。他の人との違いを、ネガティブに捉えたことはありますか。

伊是名:小さくて、歩くこともできませんが、不思議とそれを悪いことだと思ったことがないんです。小さいからこそ「かわいいね」と言ってもらえることも多いですし、「歩けない」ということは「歩かなくてもいい」ってことでしょう?(笑)

6歳と4歳の子どもの母親としても、抱っこや公園での外遊びなど、できない事は多いです。それでも子どもたちは私が大好き。それに、2人同じように育てているつもりでも、性格は正反対。彼らを見ていると、どんな子も違うのだから自分も違っていいんだと安心します。

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伊是名夏子さん
SOTA OHARA

多様な出会いや情報が「柔らかい大人」を作る

――マイノリティに対して抱きがちな「心の壁」を乗り越えるには、何が必要でしょうか。

伊是名:一緒に過ごす時間の長さが、大きな力になると感じます。子どもの時から、マイノリティ・マジョリティに関わらず、いろいろな人と一緒に時間を過ごし、互いに「慣れる」機会があるといいなあと。

私の父は昔から、よく外国人を自宅に招いていました。頭に布を巻いた人、豚肉を食べない人などを見て不思議に思いましたが、話せば楽しくて。「世の中にはいろんな人がいる」ということを自然に学んだんです。幼少期からいろいろな人と会う経験をすることで、子どもの視野や選択肢も広がると思います。

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RYUCHELLさん
SOTA OHARA

RYUCHELL:伊是名さんのような出会いの機会がない時は、情報として「違い」を知ることも一つの方法だと思います。今は、何でもすぐに検索できる恵まれた時代ですよね。

僕は行ったことのない国など、普段関わりのない人の生活をネットなどで調べるのが好きです。障がいのある人たちについても、あらかじめ知識を持っていれば心理的な壁は低くなります。いろいろな世界を知るほど、自分に対して批判的な人の背景を想像し、彼らを思いやれるようにもなる。「こころの柔らかい大人」になれるような気がします。

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伊是名夏子さん
SOTA OHARA

――RYUCHELLさんと、パートナーのぺこりんさんとの間に生まれたお子さんは現在、1歳7カ月ですね。子育てで大事にしていることはありますか。

RYUCHELL:今は息子が可愛くてしょうがないんですが、将来、僕と同じように違いに悩むかもしれない、と考えることもあります。そんな時、人生を切り開くパワーの源は、自分を好きになることだと思うんです。だから自己肯定感を育てるのが子育て最大のテーマ。息子には日ごろから「ぺこりんのお腹の中にいる時から、君が来てくれて嬉しかったんだよ」と話しかけています。

タトゥーやコラムへ批判も 違い認める余裕を失った社会

RYUCHELL子育てをきっかけに、社会には「育児は母親主体、父親はサブ」といった「当たり前」がまかり通っていることも実感しました。僕たちは男と女ではなく、ぺこりんとRYUCHELLとして子どもを育てているつもりなんですが…。

長男とぺこりんの名前のタトゥーを入れたことを指摘されたり、「子どもが生まれたら黒髪にしなきゃね」と言われたりもしました。「当たり前」から外れた振る舞いを、批判する人は必ずいるんです。

伊是名よく分かります。私もコラムなどで「車いすでの電車移動が大変」などと書くたびに「昔に比べたら、電車に乗れるだけマシ」「頑張っている駅員を責めるな」といった、コメントをもらうことがあるんです。

でも、そういう方々こそ「社会の当たり前」とか「理不尽さ」で自分らしさを押し殺してきてしまったのでは、と思うんです。だから、周りにも自分と同じことを求めてしまうし、自分と違う人を非難してしまうんではないでしょうか。

マイノリティ・マジョリティに関わらず、みんなが無理することなく、自分らしく生きられるのが、本当のダイバーシティなのかなと思います。

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伊是名夏子さん(手前)とRYUCHELさん(右)
SOTA OHARA

自分を好きになるためには、自分を知る必要がある

――「ダイバーシティ」と言う言葉は広がったものの、多くの人が他人ごととして受け取りがちです。どうすれば、自分ごとに捉えることができるようになるでしょう。

伊是名:ダイバーシティと言うと大げさですが、実は誰もが『女性』『高齢者』『子ども』『外国人』など何らかのマイノリティの要素を持っています。すべての人に関係のあることなんです。

RYUCHELL:その通りだと思います。たとえ自分を「普通」だと悩んでいる人も、それもその人の個性であり、ダイバーシティの立派な一員です。

「パパなのに金髪で、パパなのに女の子っぽい」。そんな僕がメディアの前に立ち続けることで『世の中にカラフルな人間がいてもいい。自分の個性を大切にして』というメッセージを伝えたいと思います。

伊是名:RYUCHELLさんがそんな風に、自分のすきなことを大事にして楽しんでいる姿が、お子さんにとって何よりも大切なことだと思います。RYUCHELLさんとぺこりんさん、そこがすごく素敵ですよね。

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RYUCHELLさん
SOTA OHARA

―― 一方で、RYUCHELLさんのように「ありのままの自分」を愛せる人ばかりじゃないと思うんです。そういう人はどうしたらいいでしょう。

RYUCHELL:「RYUCHELLは芸能人だからそういう生き方ができるんだよ」って言われることもありますが、僕はデビュー前からこの格好。「一般人だから」「芸能人だから」というのはあまり関係ないと感じます。

どんな人でも幸せになりたいなら、自分を受け入れて愛するのが大切だと思うんです。

自分を好きになれないと悩む人には「まず自分自身を知るところから始めて」と伝えたいです。若い子たちには「これ好きかも」と思ったことには挑戦してほしいし、興味を持ったことは調べるなど、自分を好きになるために時間を使ってほしいですね。

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伊是名夏子さん(左)とRYUCHELLさん(右)
SOTA OHARA

多様な人と出会うチャンス「超ダイバーシティ芸術祭」

今回の対談は、「True Colors Festival 超ダイバーシティ芸術祭」のイベントの1つであるミュージカル「ホンク!~みにくいアヒルの子~」の観劇後に行われた。ミュージカルに出演したパフォーマーは全員、何らかの障害のある人たちだ。

RYUCHELLさんも伊是名さんも「車椅子や歩行補助器が活かされたパフォーマンス」に最初は驚きつつ、気付けばストーリーに惹き込まれていたと話す。

「他の兄弟たちと外見が違って苦しんでいた主人公のアヒルの子アグリーですが、自分が白鳥だと分かった後も、アヒルの家族と暮らし続けます。人はどうしても、自分と似た人が集まる場所を居場所にしがちですよね。それでも、自分の生き方を見つけて貫こうとするアグリーの姿に感動しました」とRYUCHELLさん。

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「ホンク!~みにくいアヒルの子~」
冨田了平

一方で、二人とも、ミュージカルを「親」目線でも楽しんだようだ。

 「アグリーが、いろんな人と出会いを通して成長していくストーリーがとてもいいなと思いました。やっぱり『可愛い子には旅をさせよ』というのは本当ですね。でも『我が子にはできるだけ苦労させたくない』とも思ってしまう親心もあって(笑)」伊是名さんがそう話すと、RYUCHELLさんも「めっちゃわかります」と親心をのぞかせた。

今回、伊是名さんは6歳と4歳のお子さんとパートナー、ヘルパーさんも一緒に一緒に劇を楽しんだ。

「何が子どもの人生に影響を与えるかは分かりません。だからこそ、こうした舞台や海外旅行など、多様な価値観に触れる機会をなるべく多く作ってあげたい」と話す。

RYUCHELLさんも「息子には映画や絵本、演劇などを通じて感性を育み、柔らかい大人に育って欲しい。違いに対してオープンになれる素地はあると思います」と笑顔で語った。

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「ホンク!~みにくいアヒルの子~」
冨田了平

同芸術祭ではこれからも、ろう者と健聴者が共演するパフォーマンスや、ファッションショー、コンサートなどのイベントが開かれる予定だ。また、これらのイベントもあらゆる人々が楽しめるよう、さまざまな鑑賞サポートも提供する。

伊是名さん、RYUCHELLさんが勧める「多様な人との出会い」を気軽に体験できるイベントとして、足を運んでみてはどうだろうか。

(取材・文:有馬知子 写真:SOTA OHARA)

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True Colors Festival
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