ショートカット化する日本/ムダも余裕も隙もない"最適化"社会へ

今回の新語・流行語大賞の候補語を知ったとき、なんだか窮屈な気分がしました。

大人になってから、「最初はパー」で勝ち急ぐ人はめっきり見かけなくなりました。勝負は目の前の瞬発的なものだけでないと気付いてくるからかもしれません。

ふとそんなことを思いながら家まで歩いて帰る途中で、2015年ユーキャン新語・流行語大賞の候補語50語が発表されたことを知りました。公式サイトによれば、選ばれる基準はある程度定まっているようです。

1年の間に発生したさまざまな「ことば」のなかで、軽妙に世相を衝いた表現とニュアンスをもって、広く大衆の目・口・耳をにぎわせた新語・流行語を選ぶとともに、その「ことば」に深くかかわった人物・団体を毎年顕彰するもの。(新語・流行語大賞より)

スマホの画面でサイトにアクセスし、ランダムに目に入った50語。そのいくつかには規則性があるような気がしました。違和感というかつっかかるようなものを明確な理由もなく感じたのです。

・ドラゲナイ

・はい、論破!

・結果にコミットする

・I AM KENJI

・I am not ABE

・レッテル貼り

・早く質問しろよ

・とりま、廃案

・ミニマリスト

・ルーティン

・フレネミー

・おにぎらず

全部をいちいち取り上げませんが、「はい、論破!」「とりま、廃案」にはこの先のコミュニケーションを想像するのが難しいですし、「レッテル貼り」「I am not ABE」などは勝手に相手や自分の性質や立場を決めてイメージが固定されてしまう。「早く質問しろよ」というのもなんだか決められたプロセスを最短距離で行きたい思惑がみてとれます。

「結果にコミットする」「ルーティン」なんかも無駄のない動きを定める必要性、「ミニマリスト」は持たない暮らし。「おにぎらず」は握らないおにぎり。握るプロセスを省いても見た目がいい感じになります。クックパッドも「時短和食の新定番」とするほど。1991年に『クッキングパパ』で紹介されていたレシピなのにこの2015年に多く流れる言葉になったのは、いまの社会を反映していると思いました。

こういった言葉やそれを通じたコミュニケーションが凝り固まり、最適化されていくなかで、先日取材したライターの武田砂鉄さんの言葉が頭に残っています。

「文章を書くうえで、こうやったら読者にわかりやすいだろうと、交通整理をしすぎるべきではない、と感じています。誰しも自分の頭の中で考えていることは混沌としているし、その瞬間ごとに飛躍を繰り返しているはずです。今回の本では、その変化をそのまま文章に落とし込んでみる方法を探索しました。

読む人に配慮して、サービス精神ばかりが目立つ文章は、尖っている言葉を丸くする行為にも思えます。『これくらいなら分かってくれるでしょ』と読者をナメていると感じることも多い。世の中にいたずらにあふれる言葉を考察するこの本では、考察を展開していくときに、『1』の次に必ずしも『2』が来ないような構成を徹底しました」(武田砂鉄さん)

武田砂鉄と藤原新也が語る「わかりやすさ」への抵抗感 〜現在を躍進させる「言葉」を取り戻せ! | 現代ビジネス [講談社]

フラット・シェア・オープンといったネットの特徴のもとに設計されたメディアは浅く広くページビューを獲得してきましたが、最近では「狭く深く」に向かう雰囲気があるように思います。これまでネット時代に築かれてきたビジネスモデルから脱却することで、そのような新しいメディアの姿も生まれてくるのでしょう。

今回の新語・流行語大賞の候補語を知ったとき、なんだか窮屈な気分がしました。

新しい言葉や今年受容された言葉を讃える賞があるならば、「代理店が一生懸命流行らせようとしたけれど流行らなかった言葉大賞」みたいな賞があってもいいかもしれません。半分冗談ですが、もう少し言葉についてしつこく考え、ムダも余裕も隙も許容されるような(むしろそれらが楽しい)社会を想像していきたいと思いました。

(2015年11月13日「メディアの輪郭」より転載)