企業間の取引関係を探る-持合ネットワーク構造を用いた分析:基礎研レター

企業間の株式保有形態は、株式持合関係に限らない。

1――特定企業の問題公表による他企業への影響度把握に、株式持合関係が役に立つ

10月初旬、神戸製鋼所がアルミ・銅製品の一部製品につき、検査証明書のデータを書き換える等、不適切な行為があったことを公表した。同社の株式は、公表翌営業日に22%、公表翌営業日から5営業日累計では40%も値を下げた(図表1)。

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筆者は、企業間の株式持合い関係を用いて上場企業間のネットワークを捕捉することで、特定の企業による問題公表が、他企業の株価に与える影響を分析している。

以前実施した分析において、問題公表企業と直接株式持合関係にある企業(以下、直接企業と記す)に加え、直接企業と株式持合関係にある企業(以下、間接企業と記す)にも、影響が波及することを確認した(以下、直接企業と間接企業の総称を評価対象企業と記す)。前回分析した以下3事例に、神戸製鋼所の事例を加え、再評価を試みる。

(1)東洋ゴム :免震ゴムの認定にあたり、試験データの一部が改ざんされていたことを公表

(2)東芝  :不適切な会計処理があった可能性と、特別調査委員会の設置を公表

(3)東芝 :米国の原子力発電事業における特別損失計上の可能性を公表

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まず、評価方法や利用データは前回と同様である。具体的な評価方法や利用データに御興味のある方は先のレポートを参照いただきたい(*1)。

図表3は、問題公表企業および評価対象企業が発行する株式の平均相対収益率の推移を表す。相対収益率とは、各株式の収益率がマーケット全体の収益率(TOPIX収益率)を上回る収益率である。問題公表企業および評価対象企業それぞれの相対収益率を求め、分類毎に単純平均したものが平均相対収益率である。

また、折線グラフ上の各マーカーは平均相対収益率が統計的有意に負であることを意味する。

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問題公表企業が、問題公表の翌営業日から大きく下落するだけでなく、評価対象企業の平均相対収益率も、問題公表の2営業日後から負に転じる。

更に、直接企業は問題公表の3営業日後以降、間接企業は問題公表の4営業日後以降において、平均相対収益率が統計的有意に負となる。やはり、直接企業だけでなく間接企業にまで、特定の企業による問題公表の影響が波及すると考えられる。

2――株式持合関係により取引関係が探知できる

なぜ、評価対象企業に波及するのだろうか。その答えは、企業が互いに株式を持ち合う理由にある。

上場企業が、他の上場企業の株式を純投資以外の目的で保有する場合(所謂、政策保有株式)、有価証券報告書で、銘柄毎の具体的な保有目的を開示することが求められている。

そこで、神戸製鋼所とその直接企業(20社)を対象に、有価証券報告書(直近)の記載内容を調べ、その結果を図表4に示す。

図表4を見ると、神戸製鋼所と直接株式持合関係にある企業とは、業務提携関係もしくは継続的取引関係にあることは明らかである。本来企業価値の向上のために活用すべき資本を投じて、株式を保有しているのだから、主要な取引先であることは容易に想像できる。

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企業間の取引関係を公開情報から把握する事は容易ではない。しかし、株式持合関係に着目すると、その保有目的から、企業間の取引関係を探知できる可能性が高い。

特定の企業による問題公表後、評価対象企業の株価収益率が相対的に低迷する傾向が確認できるのは、株式持合関係がその企業にとって重要な取引関係を内包しているためと考えられる。

企業間の株式保有形態は、株式持合関係に限らない。一方の企業のみが株式を保有する関係(片持合)もある。片持合の場合も、取引関係と大きく関係していると考えられることから、今後は、片持合も含め、分析を進めていきたい。

なお、当レポートの「平均相対収益率」、「直接企業」、「間接企業」は、それぞれ前回レポートの「累積超過収益率」、「距離1」、「距離2」に対応する。

関連レポート

(2017年11月16日「基礎研レター」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

金融研究部 主任研究員