税金を無駄遣いする「大都市交通センサス」

「大都市交通センサス」を開始した1960年には、交通系ICカードは存在しなかった。
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11月19日まで、「大都市交通センサス」のアンケートが駅の改札口で配布されていた。「大都市交通センサス」とは、首都圏、中京圏、近畿圏の三大都市圏で、鉄道・バス等の大量公共交通機関の利用実態を調査する国土交通省の施策で、1960年より5年毎に実施されてきたものである。性別年齢住所などの基礎情報、定期券の有無などを聞いた後は、どの駅からどの駅まで移動したかを質問するというのが、アンケート(調査票)の内容である。

首都圏の鉄道客のほとんどはSuicaやPASMOといった交通系ICカードを利用している。たとえば、2015年3月末で、Suicaの累計発行枚数は5070万枚に達する。鉄道会社は、交通系ICカードの利用者一人ひとりが、何時にどの駅から乗車し何時にどの駅で下車したかを把握している。これを統計処理して得られた情報が、新路線の提供や駅ナカの店舗選定に利用されている。宇都宮線・高崎線・常磐線の旅客の多くが東京駅や品川駅まで移動していることがわかったから、「上野東京ライン」を開通させたというのが一例である。

365日毎日の利用実態が交通系ICカードでわかるのに、5年に一度、3日間だけ、調査票調査を実施して、どれほど新しい情報が得られるだろうか。「大都市交通センサス」では通勤・通学などの移動の目的を質問しているが、交通系ICカードの毎日の利用状況を分析すれば容易に推測できる。性別年齢住所などの基礎情報は定期券や記名式の交通系ICカードであれば、完全に把握できている。残るのは、出発地から乗車駅までの交通手段くらいだが、バス利用の情報も交通系ICカードで収集可能である。

アンケートを受け取っている人はほとんどいなかった。だから、適切にサンプルが抽出されているかもわからない。その上、調査期間が限られているのだから、輸送需要構造等の分析を行うといっても精度は期待できない。国土交通省は、ジェイアール東日本コンサルタンツという会社に「大都市交通センサス」の処理を委託しているようだが、JR東日本からSuicaのデータを購入したほうが、的確に輸送需要構造等が分析できる。

「大都市交通センサス」を開始した1960年には、交通系ICカードは存在しなかった。しかし、この10年で交通系ICカードは必需品となった。「大都市交通センサス」で得られる情報の価値は、情報通信技術の発展とともに大きく低下した。もはや、税金の無駄遣いであり、今回を最後にすべきだ。