テンポよく展開される舞台、華やかな衣装、光と音が織りなす幻想的な演出に息をのみ、釘付けとなります。「杜の賑い」は、伝統芸能の継承や人財の育成、地域活性化を目的とし、30年以上も続けられているJTBのオリジナルイベントです。
■「交流人口を増やすことで地域活性化を促す」観光戦略推進部長 市原秀彦
観光戦略チーム 観光戦略推進部長 市原秀彦
JTBが「杜の賑い」に取り組むのは交流人口を増やすことを目的にしています。交流人口増により地域活性化を促し、地域の自信と活力を復活させる。それによって魅力ある地域の確立と発展に寄与するというのが、「杜の賑い」の根本的な考え方です。この理念のもと、「杜の賑い」の地域における問題意義を4つ挙げることができます。※図版参照
「杜の賑い」は観光商品の開発にとどまることなく、伝統文化の保護と継承者の人財育成、地域活性化を目指す事業であるのが特長です。
■伝統芸能を磨き、地域の誇りを醸成する
「杜の賑い」は1981年に観光のオフシーズン対策として、JTBとしてのオリジナリティがあり、地域の魅力を発信できる商品に育てようと開発されました。着想は地域に隠れてしまっている、または地元の人も気づいていない魅力的な伝統芸能を披露するイベントとして"鎮守の森の宴"からです。観光客を送り出すだけでなく、地域の観光資源を生かした企画で受け入れる、いわゆる"着地型観光"の最初の商品だったと考えることもできます。
「杜の賑い」が毎年開催されている沖縄では、出演者同士がジャンルや団体の枠を超えて強く協力し合い、新しいエンターテインメントを生み出そうという機運が年々高まっています。リピーターのお客様も多く、固定ファンや観客の中から新たな入門者を獲得している出演者の方も多くいらっしゃいます。また、お見送りなどでの出演者と観客の交流、バザールの出展者、宿泊施設や交通機関と観客との交流、出演者同士の交流など、地域に大切な伝統文化において、さまざまなレイヤーで交流人口を生み出せる点が、「杜の賑い」の特色だと思います。
現在、「杜の賑い」は地域の伝統芸能を磨き、国内で発信することによって地域の誇りを醸成する役割を担っています。今回の「杜の賑い秋田・男鹿」には、大勢の外国人留学生にご来場いただき、大変な好評を得ることができました。「杜の賑い」は日本の伝統芸能のショーケースであり、言葉の壁を越えて楽しんでいただける非言語公演の側面もあります。インバウンドのコンテンツとして十分な可能性を秘めており、将来的には「杜の賑い」を世界に発信することで日本人が自国の文化に誇りを感じ、世界における日本のプレゼンスを高める一助となれば、と考えています。
「杜の賑い」のコンセプトとは?
「杜の賑い」は「地域に埋もれた、あるいは忘れ去られようとしている郷土の祭りや芸能を見つけ出し、掘り起こし、時と場所を選ばず一堂に集めて展開し、旅の中でお楽しみいただく」をコンセプトに、1981年に誕生。地元自治体や観光関係機関と連携し、これまで120回以上のイベントを開催しました。近年は沖縄で年1回、その他の地域で年1回の年2回開催のペースで実施しています。
■〝退屈さ〟を払拭させる、演目を20分から3分に短縮化することの意味とは? 演出家 鷹の羽辰昭
演出家・鷹の羽辰昭
祭りや伝統芸能をいかに魅力的なコンテンツに再構築し、次世代に伝えることができるかが、「杜の賑い」の成功のカギだと考えています。演出は開催の約半年前にスタートし、開催地を中心とする地域を巡ってさまざまな伝統芸能を掘り起こしていきます。ほとんどの伝統芸能は、儀式としてひたすら"変えないこと" を目的に何百年も演じられています。まずそれをいつものように実演してもらい、例えば20分ある演目をこことここをカットして3分に短縮しましょうと提案します。当たり前ですが、十中八九「とんでもない」と拒否されます(笑)。しかし、「杜の賑い」の趣旨を丁寧に説明し、根気強く交渉してなんとか実現していく。実際に短縮版でやってみてもらえると、多くの場合は「なるほど」と納得してもらえます。
しかも、演者は鋭く観察されていることを意識し、動きが格段によくなるケースも多いのです。初めは苦労しますが、伝統芸能の魅力を多くの方に理解してほしいという目的で強く連携し、途中からは演者の方にも楽しんで取り組んでいただいています。
■歌舞伎が手本。伝統芸能を現代風にアレンジすることの大切さ
伝統を受け継いでいくためには進化させなければいけません。伝統芸能という言葉には堅苦しく、退屈であるというイメージがつきまといます。伝統芸能は当時最先端の芸能だったにもかかわらず、いつからか進化をやめてしまったせいで人気を失ってきてしいました。なぜ歌舞伎が今も人気かというと、常に進化し続けているからだと思います。そのような視点で伝統芸能を見つめ直し、再構築していくことで、今後も若い世代に受け継がれ、魅力はさらに増していく。伝統に新たな風を吹き込まれ、次世代につながる力も強くなると信じています。
地域の伝統文化を保護し、進化のきっかけを与える。それが伝統芸能の継承の一助となれば、「杜の賑い」の演出家としてこんなにうれしいことはありません。
■開演は勇壮ななまはげ太鼓! 伝統芸能をふんだんに盛り込んだ夢舞台
10月初旬の土日に「杜の賑い秋田・男鹿」が開催されました。会場の男鹿市民文化会館には、県内外から大勢の観客が詰めかけ、地元の特産品を販売する野外のバザールも盛況。世界最大の和太鼓の演奏や竿燈の実演が会場をさらに盛り上げます。
いよいよ開演。観客席に突然現れたなまはげの集団による和太鼓の演奏に始まり、ステージの上では3分~5分の演目が次々とテンポよく繰り広げられていきます。演目は秋田県内に受け継がれる踊りや民謡、獅子舞、盆踊りなどが中心ですが、阿波踊り、佐渡おけさなど他県の芸能もふんだんに盛り込まれています。
開演は勇壮な なまはげによる迫力満点の和太鼓演奏。秋田・男鹿市を中心に江戸から明治にかけて活躍した「北前船」をテーマに、伝統芸能の伝播に沿って全国各地の演目が披露されていきます。
由利高校民謡部は地元の民謡、秋田おばこと秋田大黒舞を披露しました。
軽快な阿波踊りで会場を盛り上げた阿呆連。
琉球舞踊の美しい動きには思わず見とれてしまいます。
力強いエイサーのパフォーマンスに大きな拍手が贈られていました。
佐渡おけさのしなやかな踊りは観る者を魅了します。
■公演後に生まれる、出演者と観客の交流、出演者同士の友情
15団体による約30演目がギュッと凝縮されたステージはフィナーレを迎えました。公演後、ホールの外で出演者全員が観客をお見送りし、出演者と観客がふれあい、写真撮影で盛り上がって「杜の賑い」は最高潮となります。地元の「秋田大学よさこいサークル よさとせ歌舞輝」と「由利高校民謡部」は、ひときわ元気です。観客と交流したあとは、出演者同士で記念撮影に興じ、異なる団体が一緒に阿波踊りにチャレンジして盛り上がるなど、会場はいつまでも熱気に包まれていました。
「よさとせ歌舞輝」のメンバーは、「全国デビューができた」とうれしそうです。「普段は接点のない他の地域の方々、他の芸能に携わる方々と一緒に1つの舞台を創り上げる貴重な体験ができました。この体験を今後の活動に活かしていきたい」との声には、みんなが頷いていました。
「由利高校民謡部」のある生徒は「普段の発表の場は老人ホームが中心ですが、今回は全国から訪れた幅広い年代のお客様に観ていただけてうれしかったです」と笑顔で話します。観客だけでなく、出演者も「杜の賑い」という場を心から楽しみ、あらためて地元の祭りや伝統芸能の魅力を確認する機会になっているようです。
■他ジャンルとのコラボで、若者のモチベーションUPも
沖縄ではこれまで「杜の賑い」が30回以上開催され、近年は毎年1月に巨大な沖縄コンベンションセンターで開催される恒例イベントとして人気を高めています。宮城豊子琉球舞踊研究所を率いる宮城こずえさんは、「杜の賑い」は特別な舞台だと話します。
「約3000席の会場で4公演、約800人が出演する沖縄の『杜の賑い』は沖縄の伝統芸能に関する最大規模のイベントです。当研究所の生徒にとっても、『杜の賑い』への出演は大きな目標であり、伝統芸能に誇りをもって取り組むためのモチベーションになっています」
12年前、宮城さんは師匠であり母である宮城豊子さんに加え、宮城豊子さんの孫でありこずえさんの姪との3世代での共演を果たしました。5歳だった少女は高校3年生になった今も、舞踊に精力的に打ち込んでいるそうです。
「伝統芸能の後進の育成、そして芸能を進化させる役割が『杜の賑い』にはあると思います。共演をきっかけにしてエイサーなど他のジャンルの芸能とコラボする機会も増え、私たちが取り組む舞踊の魅力をいかに広く伝えるかという努力もするようになりました。そういう意味では新たなよい刺激を受けていると感じます」
■「観光客の誘致だけではなく、若い継承者の育成にも寄与」秋田県知事 佐竹敬久
秋田県知事 佐竹敬久様
「観光行政的に見ると、非常にいい時期にいい催しをやっていただき、誘客につながった点が評価できます。それに加え、文化の発展に大きく寄与する点が『杜の賑い』ならではの魅力です。秋田県には国指定の重要無形民俗文化財が全国最多の16(「杜の賑い秋田・男鹿」開催当時。2014年3月に1件追加指定され、現在は17)あります。竿燈のような有名なものだけでなく、狭い地域で細々と続けられ、地元の方々だけが目にするものも多い。
そのような伝統文化がオールジャパンの壮大なテーマをもったイベントの中で披露され、観光と結びつく点でも意義は大きい。秋田県民にとっても秋田の伝統文化を一気に鑑賞できる絶好の機会です。さらに、全国からの多くのお客様に披露できることは、伝統文化を残そうと苦心している方のモチベーションアップにつながり、若い継承者の育成にも寄与することでしょう」
■JTBのもつネットワークを活用し、地域交流を広げる
「地域の再生には地元の文化への理解が不可欠です。特に伝統文化は地域のプライドであり、その伝統文化を軸にした地域交流にこそ、地域活性化の可能性を感じています。地方自治体は自身の地域における伝統文化の情報は持っているものの、それを生かして魅力的なイベントに仕上げたり、他地域とリンクさせて可能性を広げることについては不得手です。その点、全国区津々浦々にネットワークを広げ、大小のイベントを開催しているJTBは頼もしい存在。地方自治体の伝統文化が全国へ、そして世界へ発信し、地域交流を広げていくために、 JTBの高い情報収集能力、そしてコンテンツ開発のノウハウに大いに 期待しています」
■「交流人口を拡大し、定住人口の増加につなげる」男鹿市長 渡部幸男
男鹿市長 渡部幸男様
「秋田そして男鹿の伝統芸能が、北前船というテーマのもと、全国的なイベントの中で取り上げられた意味は大きい。斬新かつ迫力のある舞台に仕上がっていて、出演者の方々も会場の熱気を楽しみ、生き生きとしたパフォーマンスを繰り広げていたように思います。出演者と観客が一体となって盛り上がる様子に感動しました」。渡部市長は舞台上での挨拶で「男鹿市は地域交流を広げていきたい」と強調しました。
「男鹿市の活性化のために重要なのは、交流人口を拡大することで、定住人口の増加につなげることであると考えています。他地域から男鹿市に来ていただき、男鹿市の魅力を体感し、地元民と交流していただく。それが地域の活性化を促す最も効果的な形だと信じ、文化やスポーツを軸とする交流人口の創出に力を入れてきました。それだけに『杜の賑い』のような宿泊を伴う全国的なイベント開催は非常にありがたいです。男鹿市は秋田県の中央部に位置するので、男鹿での交流人口が増えれば、自然と秋田県全体にもその効果が波及します。『杜の賑い』は秋田全体の活性化にもつながったと思います」
■高い組織力をもつJTBは地域活性化の応援団
「男鹿市は伝統文化を磨くための施策にも力を入れていますが、今回『杜の賑い』を観て、伝統芸能も演出次第で新たな魅力が引き出され、コンテンツ力を発揮することに気づかされました。このようなイベントを実行できるJTBの高い組織力を再認識すると共に、地域活性化の応援団として、心強い存在であると実感しました。今後はJTBと連携を強化して、交流人口を増やしていきたいと考えています」
(※記事中の肩書きは取材当時のものです)
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