鳥貴族対鳥二郎裁判:アメリカだったらどうなるか

単に紛らわしいからと言って、損害賠償や差止めが認められるわけではありません。まず、商標権についてはどうでしょうか?

「『鳥貴族』とそっくり? ロゴ使用禁止求め『鳥二郎』を提訴」なんてニュースがありました。

焼き鳥チェーン最大手「鳥貴族」(大阪市)が、ロゴマークやメニューがよく似た焼き鳥店を営業され損害を受けたとして、京阪神で「鳥二郎」を展開する経営会社に対し、ロゴの使用禁止や約6千万円の損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。

鳥二郎は西日本でのみチェーン展開しているようで、私は現物が見られないですが、テレビ報道から判断する限り紛らわしいのは確かなようです。しかも、鳥二郎は鳥貴族の店舗と同じビルの真下や真上のフロアで営業することが多いそうです。"二郎"というネーミングも(少なくとも無意識的には)鳥貴族の姉妹店という印象を与えているかもしれません。実際、テレビ報道では、間違えて入ってしまった、姉妹店かと思ったとインタビューに答えている人がいました。

しかし、単に紛らわしいからと言って、損害賠償や差止めが認められるわけではありません。

まず、商標権についてはどうでしょうか? 「鳥二郎」と「鳥貴族」は商標としては類似しないと思われます。主に鳥料理を売っている飲食店なので識別力のない「鳥」の部分を除いて判断すると「貴族」と「二郎」が類似する要素はまったくありません。また、ロゴ、特に象形文字ぽい鳥のフォントですがこれも類似とまでは言えないと思います。配色も異なるので全体的な印象も異なります。

さらには、鳥二郎側(株式会社秀インターワン)は鳥二郎ロゴを既に商標登録しています(5698660号)。これに対して、鳥貴族側が異議申立を行なっています(現在進行中なので特許庁まで行かないと資料は閲覧できません)。(特許権の場合とは異なり)商標権を取得したということはその商標を使用できる権利があることを意味するので、(異議申立が認められない限り)鳥貴族側は苦しいです。おそらく裁判では不正競争防止法(2条1号1項および2項)で争うのだと思いますが、商標が類似していないとなるとこれまた鳥貴族側は苦しいです。

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その他、テレビ報道によると、メニューの構図、ウェブサイトの構成や文章、店内の雰囲気、従業員の制服などが類似しているそうです。

しかし、メニューの構図やウェブサイトの構成はアイデアであって著作物ではないので著作権法では守られません。また、文章については、鳥二郎側は明らかに鳥貴族を意識しているものの文章を微妙に変えているので著作権侵害を主張するのは厳しいと思います。

では、店の全体的雰囲気等はどうでしょうか? 米国であれば、「トレードドレス」という特別な権利で商品・サービスの全体的なイメージが保護されることがあります。「トレードドレス」に関する有名な判例に、テキサスのローカルなメキシコ料理店のTwo PesosとTaco Cabanaによるものがあります。下の写真(裁判の証拠資料)からわかるように、店舗名や配色は違うものの、全体的イメージはよく似ています。裁判所は「トレードドレス」に基づきTaco Cabanaによる差止と損害賠償を認めました。

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しかし、日本では「トレードドレス」を直接的に保護する法律はありません(不正競争防止法で一部カバーされ得ますが)し、今までに「トレードドレス」的な権利が裁判で認められたケースもないようです。

ということで、報道されている情報から判断する限り、正直、鳥貴族側はちょっと苦しいと思われます。

想像ですが、鳥二郎側には専門知識のある知財アドバイザーがいて、権利侵害にならないぎりぎりのレベルでやっているのだと思います。感情論としては「やらしい」ですし、鳥貴族側にとってもおもしろくない話ですが、消費者としては競争によって安くておいしいものを食べられるようになることに越したことはないので、このケースは自由競争のひとつと考えるべきだと思います。

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(2015年4月27日「栗原潔のIT弁理士日記」より転載)