産経新聞が伝えるところでは、米通商代表が12月1日に来日 TPP閣僚会合に向け意見交換との事である。
【ワシントン=柿内公輔】米通商代表部(USTR)は27日、フロマン代表が12月1日に日本を訪れ、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉などをめぐり日本政府高官と協議すると発表した。
目標とするTPP交渉の年内妥結に向け、12月7日からシンガポールで開かれる閣僚会合に先立ち、日米間で事前に調整する狙いがあるとみられる。米国で先日開かれた首席交渉官会合や日本で開催された日米2国間交渉の結果も踏まえ、日本側と突っ込んだ意見の交換を行う見通しだ。
日本版NSCが間もなく誕生し活動を開始する。そして、それに引き続き集団的自衛権行使認可により、自衛隊とアメリカ軍の一体化は加速する。現在議論されている秘密保護法案はそのための前提条件となる「日米のインテリジェンス協力体制」確立のためのものである。一義的にはこの一連の動きは安全保障体制を強固にし、日本の国土と日本国民の生命の安全と財産を守るためのものである。
しかしながら、決して忘れてはならないのは今世紀成長が期待出来る唯一の地域であるアジア・太平洋の平和を維持するという今少し広義な目的もあるという事である。この地域の平和が保障される事で経済成長が達成され、平和の維持に貢献した日米は繁栄の果実の分け前を受け取る事になる。TPPは域内成長戦略の切り札と理解しても良いかも知れない。大事な事は、日米同盟の深化による安全保障体制の強化とTPP加盟はコインの裏表の関係にあり、どちらか一方のみを進める事は出来ないという事実である。
■ 中国が沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海に防空識別圏を設定した背景とは?
中国は沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海に防空識別圏を突然設定した。これに対しアメリカ政府は即座に中国に対し通告なしで尖閣諸島上空をB52爆撃機二機を航行指す事で対抗した。こういう事態は充分予想されたにも拘わらず、中国は指を咥え傍観するしかなかった。全世界に対し恥を晒したといっても良いだろう。事はそれだけでは収まらず、従来どちらかといえば日中の二国間問題の位置付けであった尖閣領土問題(但し、日本政府の公式見解としては「領土問題は存在せず」)が多国間問題を飛び越え一気に国際問題に格上げされた。そして、更には「国際秩序に対する中国の挑戦」の如き認識に向かいそうな雲行きである。どうも、中国政府は取り返しの付かない大失敗をやらかしてしまった様である。
それにしても、訝しいのは外交巧者と称される中国が何故この様な暴挙に出たかである。何分国内問題が山積しており、国民の不満が鬱積し、ガス抜きが必要であったのかも知れない。そこで、江沢民政権下以降お馴染みの反日を尖閣利用でやろうという事である。或いは、経済力と軍事力の台頭に過剰な自信を持ち、今後の繁栄が確実なアジア・太平洋地域への進出を急いだ。今回の防空識別圏の設定はその第一歩という訳である。恐らく、これら2つが微妙に組み合わさっているのであろう。
■ 何故米中は対立するのか?
いうまでもなくアメリカは世界唯一の超大国である。一方、中国は遅れて来た大国と認識して良いだろう。この二つの大国が太平洋を挟んで対峙している訳である。一方、何度も繰り返して恐縮だが米中に挟まれたアジア・太平洋地域こそが今世紀の繁栄が約束された場所である。従って、両大国がこの地域の覇権を争い、激突するのも自然の成り行きではないのか?
■ 米中対立から日本は無傷ではおれない
そして、この両大国に挟まれた日本も当然火の粉を被る事になる。こういった事態を予見し、既に2000年の時点で第1次アーミテージ・ナイ報告書において日米同盟の非対称性の問題を指摘すると共に、幾つかの是正を提案している。現在議論されている秘密保護法案、それにより可能となる「日米のインテリジェンス協力体制」、まもなく活動を開始するNSCなどは全て2000年時点で日本が取り組むべき宿題であったという事である。秘密保護法案の取り扱い一つを取っても拙速であるとか、議論が足りないと批判する声が多い。しかしながら、安倍内閣は山の様に溜まった夏休みの宿題を8月30日となり漸く取組始めた小学生の様な状態なのである。批判はあっても、兎に角二日で仕上げ9月1日には学校に提出するしかない。そして、TPPも上記安全保障関連同様に拙速の批判を恐れずに取り扱うべきと考える。
■ バイデン米副大統領の日中韓訪問
バイデン米副大統領が来週日中韓の三国を訪問し政府トップと会談する。そして、この会談結果は今後の北東アジア(日中韓)の将来に大きな影響を与える事になる。日本のマスコミは中国による防空識別圏突然の設定に対するアメリカのB52爆撃機2機の尖閣諸島航行による対抗措置を「日本防衛」、更に矮小化して「尖閣防衛」と認識している様に思う。しかしながら、私はこの理解は間違っていると考えている。アメリカが即座に反応したのは、今回の中国による新たな防空識別圏の設定をアジア・太平洋地域の既存秩序に対する「挑戦」と受け取ったからではないのか? 仮にそうであれば中国の野心を放置すればTPPは根底から崩れてしまい、アメリカ外交戦略の中核を成す「アジア回帰」は絵に描いた餅に成り果ててしまう。アメリカとしては中国の挑戦を粉砕し、同盟国である日本、韓国を安心さすと同時に日本に対してはTPP交渉の年内妥結を催促する展開になると予測する。
■ 日本
バイデン米副大統領と安倍首相の会談の中身は「安全保障」における日米同盟の深化とTPPという2点に集約されるはずである。「安全保障」の部分は既に述べた通り安倍政権に代わり、日本政府は懸案事項を次々と前に進めておりアメリカ側として不満はないと思われる。従って、アメリカとしての対日支援の確約程度で話は終わると推測する。
一方、TPPについては交渉の年内妥結を要求されると予測する。TPP取り組みの基本的な考えは、以前公表した日本は何故TPPに加盟すべきなのか?で説明した通りである。現在までのところ、コメの減反政策を18年度に廃止など安倍政権として急所は押えている。留意すべきは、今後農家の不安を煽り「アメリカ陰謀説」を連呼する人間が多数出て来る事である。落ち目の評論家に取って「アメリカ陰謀説」は最後の稼ぎの場である。残念な事にこの手の「陰謀論」大好きな層に支持され、これにマスコミ、一部無責任な野党議員が加わり、更に支持層を拡大する展開になる。これが日本の将来に取って好ましくないのは当然である。
■ アメリカ陰謀説の滑稽
TPPの様な話が佳境に入ると必ず出て来るのが、「アメリカの謀略」であるとか、「アメリカによって搾取される日本」といった、所謂アメリカ陰謀説である。話としては多少面白いが、少し冷静になって考えれば如何に荒唐無稽か直ぐ分る。日本は第二次世界大戦により焦土と化した。そして、灰の中から再び立ち上がり今日の地位を確立する所まで登り詰めた訳である。ちなみに、人口が1億人を超える大国で一人当りのGDPが5万ドル前後を達成しているのは日米のみである。仮に、「アメリカの謀略」や「アメリカによる日本の搾取」があったとするならば、経済成長を達成し豊かな国つくりを目指す新興産業国はアメリカに頭下げ、「どうか、我が国に謀略を巡らせて下さい」とか「何卒、我が国を搾取して下さい」と要請すべしとの結論となる。
■ 中国
バイデン米副大統領と近習平主席の会談では当然今回中国が新たに設定した防空識別圏が議題の中心となる。バイデン米副大統領はこの事がアジア・太平洋地域秩序体制に対する重大な挑戦である事を説明すると共に、設定した理由を厳しく質問するはずである。その結果、中国は厳しい状況に追いやられる事となる。中国政府は多くの深刻な課題に直面している。これだけでも充分大変なところに、最近、「トルキスタン・イスラム党」を名乗る組織が「ジハード」宣言を行った。新疆ウイグル地区の問題が中国政府とイスラム過激派の戦いという新たなステージに移行したと受け止めるべきであろう。
国内中央、西部に問題山積なら、せめて東部の太平洋に進出しアジア・太平洋地域の成長の果実を国内に取り込みたいと中国が考えるのは当然である。しかしながら、今回の会談の結果によっては日米によって中国は完全にブロックされ、アジア・太平洋地域で孤立するかも知れない。中国が今後閉塞状況に陥る事態は充分あり得る。
一方、バイデン米副大統領は中国共産党首脳に対しTPP加盟の可能性を示唆するかも知れない。しかしながら、この事は必然的に中国に対し「政治の民主化」と「経済の近代化」を促す事となる。結論をいえば、中国共産党一党独裁体制から日本の様な民主主義体制への転換と、その政治体制に相応しい市場主義経済の採用という事になる。残念だが、第18期3中全会で共産党王朝延命のための対処療法を主に議論している近習平体制では対応は難しいだろう。中国は今後繁栄するアジア・太平洋地域を横目に孤立を深めるのではないだろうか?
■ 韓国
バイデン米副大統領と朴大統領が何を話すのか正直良く分らない。飽く迄私の想像であるが、朴大統領が就任して約1年が経過した。その間、アメリカと韓国の思惑に微妙にズレ、歪、が出ておりその辺りを調整するのではないだろうか? 過去1年の韓国外交を見る限り、「安全保障」ではアメリカとの同盟重視。一方、「通商」では中国との関係強化による中国依存の拡大。更に、対米、対中外交の成果を誇示しての対日批判による国民の人気取りといったところではなかっただろうか?
これに対しアメリカが憂慮しているのは「核」と「ミサイル」開発を決して止めようとしない北朝鮮の存在である。北朝鮮の意図は核弾頭を搭載したミサイルを日本などのアメリカ同盟国に向け恫喝する事である。今回中国の防空識別圏の設定がアジア・太平洋地域の既存秩序に対する「挑戦」であるのと同様、アメリカとしてこれを座視出来るものではない。北朝鮮に対し、アメリカは先ず韓国軍が防衛を担当しそれをアメリカ軍が支援する。更に、集団的自衛権行使認可により自衛隊がアメリカ軍を支援するスキームを構想していると聞いている。しかしながら、朴大統領就任後の1年を見る限り自国の防衛はアメリカ軍依存を継続し、日本の関与は拒絶という事の様である。アメリカとしてもそう何時までも甘い顔は出来ないのではないだろうか? 従って、バイデン米副大統領としては朴大統領に対し先ず日本との関係修復を促し、次いで、日本が今後進める集団的自衛権行使認可を容認し、韓国軍が前面に立っての国土防衛に意識を切り替える様に説得する様に思う。
朴大統領就任以降中国との関係改善を韓国外交筋は盛んに宣伝している。しかしながら、今回中国は韓国の識別圏変更要求をあっさり拒否している。中韓関係の深化というのは飽く迄韓国側の片思いに過ぎず、中国としては元々韓国など眼中になく、韓国からの要求を即座に断ったと理解して良いと思う。交渉の顛末を見て感じるのはとても独立した二国間の交渉とは思えない事である。韓国には失礼かも知れないが、冊封国が宗主国に対し要望し、却下されたとしか見えない。何れにしても韓国国民が朴政権の外交政策に疑問を持ち、不安を感じたのは確実である。
アメリカが韓国をどう見ているか? 勿論伺い知る事は困難である。しかしながら、この一年の朴大統領言動から早期のレイムダック化を予想したとしても何の不思議もない。政治に留まらず、最近の韓国関連経済ニュースは悲観的なものばかりである。韓国は事ある毎に背伸びし日本と張り合おうとする。これは必ずしも悪い事ではないが日本への誹謗中傷の度が過ぎれば問題となる。そもそも、日本はアメリカに取って「一級国家」(first-tier nation)だが、韓国は「二級国家」(second-tier nation)に過ぎないのではないのか?
本論に戻らねばならない。日本が今世紀も繁栄を願うのであれば足踏みをする中韓を尻目に前に進む事が必要である。具体的にはアメリカの要望に応え安倍政権はTPP早期妥結を目指すべきという結論になる。「色々問題がありそうだ」とか、「もっと良く考えてみるべきでは?」といった長屋のご隠居的な無責任な発言も今後多く聞かれる事になる。安倍政権は拙速により失うものと、時間をかける事で失うものの「得失」を客観的に評価し可及的速やかにTPP交渉の妥結を図るべきである。TPP交渉が仮に頓挫すれば対米関係が悪化し、そこに中韓が付け込み日本はその応戦という非生産的な戦いに巻き込まれ疲弊してしまう。