日本は何故TPPに加盟すべきなのか?

世界で今世紀、成長が期待出来る唯一の地域はアジア・太平洋である。従って、日本が今世紀も繁栄の継続を望むのであれば、アメリカに協力する事で、この地域の平和と繁栄に協力し、その結果として成長の果実の分け前にありつかねばならない。
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先週15日からマレーシアのコタキナバルにおいて、第18回のTPP包括交渉が開始され、今週23日より日本が正式に参加している。ついては、良い機会でもあり、日本がTPPに加盟する意義や今後注意すべき点を考えてみたい。

安倍政権に求められるのは確かな経済成長の達成

日本がこれからやらねばならない事、やるべき事は前回の記事、日本の進むべき道とは?で説明した通りである。国防のための防衛力の強化、中東安定化のための貢献、質の高い雇用の創出、財政規律回帰、いずれも日本の恒常的な経済成長があって初めて可能となる。従って、決められない政治の原因となっていた衆参の捻れが解消した今日、安倍政権は「成長戦略」をより具体的に国民に説明し、日本経済を成長に向け着実に進めて行く事が望まれる。

財務省6月貿易統計が示すもの

財務省6月貿易統計が昨日発表された。今年上半期の対米輸出は対中輸出を上回っている。アメリカ経済の堅調、中国経済の不調から判断して通年で対米輸出と対中輸出額の差が更に開く事は確実である。2011年は対中輸出が対米輸出を上回った。2012年はほぼ均等。問題は2014年以降どうなるか? であるが、シャドーバンク問題を含め、連日のネガティブなBBC News報道内容や、同様に中国の将来を憂慮する国内報道に接する限り、対米、対中輸出の差はこれからも乖離すると予測される。日本に取って、アメリカが安全保障のパートナーであるだけではなく、通商、投資の最重要対象国になる訳である。TPPの是非は別としても対米経済連携強化は必然である。

「成長戦略」の具体的中身とは?

世界で今世紀、成長が期待出来る唯一の地域はアジア・太平洋である。従って、日本が今世紀も繁栄の継続を望むのであれば、アメリカに協力する事で、この地域の平和と繁栄に協力し、その結果として成長の果実の分け前にありつかねばならない。経済の主役は飽く迄民間企業である。従って、政府はアメリカを筆頭にアジア・太平洋地域との戦略的な通商関係の構築と経済連携の深化を図る事で主役、民間企業を力強く側面支援すべきである。露骨にいえば政府が民間企業に「稼ぎの場」を提供するといっても良いのかも知れない。そして、TPPは、そのための理想的な「チャンス」という事になる。

アメリカ陰謀説の滑稽

TPPの様な話が佳境に入ると必ず出て来るのが、「アメリカの謀略」であるとか、「アメリカによって搾取される日本」といった、所謂アメリカ陰謀説である。話としては多少面白いが、少し冷静になって考えれば如何に荒唐無稽か直ぐ分る。日本は第二次世界大戦により焦土と化した。そして、灰の中から再び立ち上がり今日の地位を確立する所まで登り詰めた訳である。ちなみに、人口が1億人を超える大国で一人当りのGDPが5万ドル前後を達成しているのは日米のみである。仮に、「アメリカの謀略」や「アメリカによる日本の搾取」があったとするならば、経済成長を達成し豊かな国つくりを目指す新興産業国はアメリカに頭下げ、「どうか、我が国に謀略を巡らせて下さい」とか「何卒、我が国を搾取して下さい」と要請すべしとの結論となる。

国内農業を犠牲にするという考えは間違い

TPPといえば産業界が笑い、一方、その犠牲となって国内農業が泣くといった定型的なトーンで語られる事が多い。上記説明した様に、総論としてTPPを日本経済にとってのチャンスと捉えること自体は誤りではない。しかしながら、最終的な合意内容の着地点は現時点では五里霧中であり、TPP加盟が、即、日本の産業界にプラスであるかどうかは定かではない。同様、農業部門に不利益があるとか、日本農業が壊滅するとか全く判断出来るステージではない。しかしながら、国内農業が批判されるべきはウルグアイ・ラウンドに関係して国内農業の競争力強化を目的に6兆円強の国費が投入されたにも拘わらず競争力向上は達成されていない点である。

国内農業の産業規模と補助金、農水省予算のアンバランス

農水省資料によれば今年度の予算は3.3兆円である。一方、産業としての国内農業の生産額は全体で4.7兆円に過ぎない。しかも生産量は右方下がりに下がり続けている。4.7兆円の農産物を生産するのに3.3兆円の国費の投入を続けるというのは、財政規律回帰に舵を切らねばならない日本政府には最早無理である。ちなみに、トヨタ自動車の売り上げは一社で20兆円弱である。国内農業を守るために、トヨタに代表される国内産業の未来を閉ざす様な判断を安倍政権が下さない事を期待する所以である。国内農業が今後TPP加盟の犠牲になるか、否かは定かではないが、日本の財政が国内農業の犠牲になっている事は間違いない。

日本国民は税金を食べさせられている

世界の米(生産量、消費量、輸出量、輸入量、価格の推移)を参照すると、2011年ベース、為替が1ドル82.16円換算で10KG当りの米価は下記の通りと表示されている。

タイ米:431円

ベトナム米:386円

カリフォルニア米:690円

ちなみに、日本のスーパーで10KG入りの米は大体5,000円位と思う。タイ米、ベトナム米のざっと10倍以上という事になる。そして、これを可能にしているのが輸入税778%という、実質の「輸入禁止」である。これ以外にもバター(360%)、砂糖(328%)、小麦(252%)など、米への高関税を正当化した結果、日本で米、パン、麺類を食べる事は税金を食べる事に等しい。この状況は本来是正されるべきものであって、TPPの犠牲というのは筋違いというのが私の基本的な考えである。

農業関連構造改革は安倍政権の試金石

断っておくが私は国内農業に対し個人的な悪意があるわけではない。戦後長きに渡り自民党は地方や農家に「公共事業」や「補助金」として金をばら撒く事で「票」を得、結果として長期政権を維持した。しかしながら、最早そのシステムでは日本はやって行けないと言っているのである。従って、自民党に取って痛みを伴う事になるがTPPをきっかけに国内農業の構造改革に着手し、農業問題を突破口に他の「既得権益」に切り込めるか否かが、安倍政権の試金石になると注視している。