東洋経済オンライン・佐々木紀彦編集長「紙の転載ばかりのウェブは失敗する」

「東洋経済オンラインが成功した一番の要因は、紙と切り離したこと」。同サイトの佐々木紀彦編集長は、そう断言した。6月5日、都内のイベントスペース「阿佐ヶ谷ロフトA」で開かれたトークショーの一幕だ。このイベントで相方を務めたのは、ハフィントンポスト日本版編集長の松浦茂樹だ。実は二人は、この場が初対面。日本版のローンチから約1ヶ月を迎えるのを記念して、「ウェブニュースメディアの育て方」をテーマにイベントをすることになり、松浦が対談相手に指名したのが佐々木氏だった。
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Kenji Ando

東洋経済オンラインが成功した一番の要因は、紙と切り離したこと」。同サイトの佐々木紀彦編集長は、そう断言した。6月5日、都内のイベントスペース「阿佐ヶ谷ロフトA」で開かれたトークショーの一幕だ。このイベントで相方を務めたのは、ハフィントンポスト日本版編集長の松浦茂樹だ。実は二人は、この場が初対面。日本版のローンチから約1ヶ月を迎えるのを記念して、「ウェブニュースメディアの育て方」をテーマにイベントをすることになり、松浦が対談相手に指名したのが佐々木氏だった。

昨年11月、佐々木氏は東洋経済オンライン編集長に就任すると同時に、大幅なサイトのリニューアルを敢行していた。急激にアクセス数を伸ばし、ビジネス誌系のウェブメディアでは、アクセス数でトップに立った。今年3月には、PCとスマートフォンを合わせて月間5300万PVを突破している。

東洋経済オンラインが、ここまでヒットしたのは、どんな背景があったのか。イベントでの佐々木氏と松浦のやりとりから抜粋しよう。

■「オリジナルであれば遠慮する必要はない」

佐々木氏:ウェブって論理より感情のメディアだと思います。紙だと、論理を積み重ねた方が知的に見えたり、あんまり言い切らない方が「〜〜かもしれない」「〜〜の一方で」とか、両論併記にしていった方が中立的かつ知的に見えるんです。でも、ウェブはそういうことをやっていると「早く結論に行け」「ウダウダうるせえんだよ!」ってなっちゃう。ウェブってむしろ政治家のスピーチと似ているんです。政治家のスピーチを、政策論だけを真面目に語る人の話は誰も聞かない。それよりもまずは、インパクトのあるエピソードをドカンと最初に持ってきて、中盤くらいで政策などを語りますよね。

松浦:そうですね。僕も一番感じたのは、紙とウェブでは文字の消費の仕方が違うというところです。そこも含めて見せ方を変えて行かないといけないですね。

佐々木氏:だから紙の転載ばかりやるウェブメディアは、ほぼ確実に失敗するんですよ。なんで、「東洋経済オンラインのPVがこれだけ伸びたんですか?」ってよく聞かれるんですけど、一番の要因は紙と切り離したことですね。ブランドも意識も考え方も切り離したのが一番大きかったと思うんです。他の出版社や新聞を見てても、それがなかなかできないんですよ。

松浦:新聞は一記事あたりの文字数が少ないから、ある程度の親和性があるんですけど、雑誌は厳しいですよね。社内的にはその辺はどうクリアしたんですか?

佐々木氏:紙の編集部とネットの編集部の仲が悪いところも多いんですが、うちはそんなことはなかったんです。私が編集長になったときに、「紙とネットを切り離す」と決めたんで、それで押し切りました。あと、オリジナルコンテンツを作ったということが大きかったですね。メディア系の会社って、紙の方が出世コースじゃないですか。新聞記者なんてウェブに行くと嫌がる人がほとんどですよね。ウェブが紙の下、というか従属物とみなすような考え方があります。それって「コンテンツを紙から借りてこないといけない」という構造にあると思うんですよ。「紙から転載で持ってこないといけない」と思うと、あちらに頭を下げたり「お願いできませんか」という関係になってしまう。それを絶対になくすために、東洋経済オンラインでは、ほとんどの記事をオリジナルで作ろうと思ったんです。それを決めたのが大きかったですね。現在では転載は一割程度しかありません。自分達でウェブオリジナルのコンテンツを作れるようになれば、何も遠慮することはないんです。

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「紙とウェブを明確に切り離す」というのが、佐々木氏が示したオンラインメディアが成功する鉄則だった。このほか、イベントでは「メディアの中立性」の問題から「ヤフートピックスからどう人を呼び込むのか」など、様々な話題が出ては、活発な質疑応答がなされていた。

質問の際に明らかになったのだが、会場を埋め尽くした観客のほとんどが、ウェブや紙媒体の記者・編集者。「業界関係者ばかりだね」と、佐々木氏と松浦が苦笑する場面もあった。明治28年の創刊から118年を迎える老舗経済誌「東洋経済」。そこからネットへ飛び出した「東洋経済オンライン」の成功に今、人々の注目が集まっている。

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