私たちは本来、性とは無縁ではいられない。たとえば多くの女性には、月経がある。毎月のことで深く考えず生理用品を選び、不快感があっても我慢するのがすっかり身に付いてしまっている。しかし、本当にそれは"最良の選択肢"なのだろうか。
世界、特に欧米では「セクシャルヘルス」の意識が高く、性の健康を自身で管理することが常識となっていて、そのための商品も数多く販売されている。自己管理することがQOLの維持につながるという発想だが、一方でここ日本では性教育が不十分だったり性をタブー視する風潮により、その考えが根付いていない。
これまで日本にはなかった、性に関する商品販売している女性たちを3回にわたって紹介する。彼女たちは"壁"にぶつかりながらも、日本の"セクシャルヘルス"向上を目指している。1回目は米国で「月経カップ」を開発・販売する女性だ。
生理用品のほとんどは「紙ナプキン」
最寄りのドラッグストアで、生理用品売り場の前に立ってみた。9割強が紙ナプキンで占められ、隅に置かれたタンポンの存在感は希薄。日本の生理用品市場は紙ナプキン一強状態にあることが一目でわかる。2017年1~3月期の、全国のドラッグストア、スーパーマーケットにおける生理用品のシェア率(週刊粧業調べ)を見ても、発表されている10位までのすべてが紙ナプキン。現在、タンポンを発売しているのはユニ・チャーム1社のみである。
国内で初めて紙ナプキンが作られたのは1961年。その後、たゆまぬ開発努力が続けられ、世界でも類を見ないほどの高品質な製品へと進化した。筆者は海外旅行中に現地で生理用品を購入したことが何度かあるが、スリムタイプでも日本の"夜用"ほどの厚みがあったり素材が粗雑でかぶれたりで、閉口するばかりだった。さらに、日本の紙ナプキンはバリエーションが豊かだ。たとえば大王製紙の「エリエール」ブランドでは3シリーズ計22種もの商品が展開されていて、ユーザーはサイズ、素材、羽付きor羽なし......など目的と好みに合ったものを選択できる。
私たちにはタンポンや布ナプキンといった選択肢も用意されているが、それぞれにメリット、デメリットがある。肌が弱くてかぶれやすいなら布ナプキンが適切だが、洗う手間がかかる。タンポンは経血が漏れにくいが、膣内が乾きやすく人によっては不快感が強い。その種類の多さ、使用の手軽さ、購入しやすさから紙ナプキンが断トツに支持されるのも納得だ。
しかしここにきて、生理用品界にサードウエーブが訪れている。「月経カップ」への注目が高まっているのだ。
例えて言うなら、ワイングラスの「台」部分を省いたような形状。指で折り畳んで膣内に挿入すると、そこでカップ部分が開いて子宮から排出される経血をダイレクトに受け止める。経血が漏れにくい、洗浄して繰り返し使える、ゴミが出ない点をメリットと感じた女性たちから支持されている。
スクーンカップ サイズ1(23ml) 実勢価格5370円、アマゾンなどネットショップで売られている(写真提供:スクーン・オーガニック)
布ナプキンをはじめとするオーガニックコットン製品ブランド「スクーン・オーガニック」代表の浅井さとこさんは、米国在住25年目。ニューヨーク大学でMBA取得後、コンサルティング会社勤務を経て、2002年に同社を起ち上げた。月経カップを独自開発し、「スクーンカップ」として世界30カ国以上で販売している。開発の際には日本人を含む何百人ものモニターの意見を取り入れて、アジア人にも使いやすい仕様を目指したという。日本でも2016年3月から、薬事法に基づいてスクーンカップの販売を開始した。主にネットショップなどで取り扱われている。
「欧米ではスクーンカップのユーザーが加速度的に増えていて、生理用品の主流になりつつあります。なぜなら、それによって生理中でも女性が快適に、しかもアクティブに過ごせるからです」と言うが、紙ナプキン一強状態の日本における販売にハードルを感じなかったのだろうか。
「これまでアフリカなどの途上国に当社のオーガニック布ナプキンを寄付する活動をしてきましたが、そうした地域では生理用品が行き届いていないがために学校に通えなかったり、それで勉強についていけなくなったりする少女が多いのです。その活動を通じて、繰り返し使える月経カップの存在を知りました」(浅井氏)
簡単に洗えてすぐまた使える
月経カップは、シリコン製が基本である。布ナプキンは洗剤と大量の水を使わなければ洗浄できず、乾燥にも時間がかかるが、月経カップはふだん使っている石けんなどを使って付着した経血を洗い流せば、すぐにまた使用できる。
経血量は個人差が大きく、一度のサイクルで19~252グラム、平均で82グラムという報告がある(花王調べ)。スクーンカップでは2種のサイズを展開し、小は23ミリリットル、大は30ミリリットル。多い人でも1日2~3回交換すれば事足りる。下着が汚れるのを恐れて頻繁にトイレに立ち紙ナプキンを交換する煩わしさから解放されるのだ。衛生状態をキープしやすく、さらに漏れを気にして活発な行動を控えることもない。これはアフリカの少女たちだけでなく、世界中の女性が求めているものだ。
「ただ、私が開発を始めた当時、米国国内で市販されていた月経カップの大半は、硬い、痛い、洗っても経血が残るなど仕様に問題があるものばかりでした。安価なものはバイオテストがされていないので、安全性に疑問があります。そこで当社のカップは日米の薬事法に基づいて、入念なバイオテストを繰り返し、その安全性を何重にも確認することにこだわりました」(浅井氏)
ひと口にシリコンといってもその質には幅がある。粘膜に直接触れるものだけに、低品質のものは使えない。スクーンカップでは医療用器具にも使われるグレードの高いシリコンを採用し、FDA(米国食品医薬品局)の審査を受けて、女性の膣内に入れても安全な商品として正式に認められた。
日本での販売にあたっては、その品質の確かさ、それに伴う安全性を打ち出すとともに、生理に制限されない自由なライフスタイルを推奨することが普及のカギとなると浅井さんは考えた。田中ひかる著『生理用品の社会史:タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房)では日本初の紙ナプキンが発売されて以降、社会における女性の役割が大きく変わったと指摘されている。それ以前の女性たちは、生理中は外出もままならない場合も多かった。社会に出て働くには、クリアしなければいけない生理の面倒が多すぎた。
販売開始後、月経カップはまず女性医師たちの間で急速に広まった。外来や手術に入ると自由にトイレに立てなかった医師らから、スクーンカップによって仕事に集中できる、というお墨付きを多く得た。同時に、経血が空気に触れないのでニオイの心配が減るという衛生面や、毎月紙ナプキンを購入しなくてよいという経済面のメリットを広くアピールし、それが女性向けのネットメディアでもたびたび取り上げられるようになり、じわじわと販売数を伸ばした。
「私はモノを売るだけでなく、女性のライフスタイルを応援したいと思っています。そのために、自分たちには選択肢があることを知ってほしい。紙ナプキンに不満がない女性は多いでしょう。スクーンカップは膣内にずっと挿入しておくものなので、そこに抵抗を感じる女性もいるはずです。けれど、米国ではティーンエージャーも気軽にスクーンカップを利用しています。スポーツに打ち込んだり、ファッションを楽しんだり、いつもどおりの生活ができますからね」(浅井氏)
米国のコンサルティング会社に勤めた後、2002年にオーガニックコットンベビー服の会社を起業した浅井氏(写真提供:スクーン・オーガニック)
最初は違和感を覚えるが...
最初は違和感を覚える人がいるのは事実だ。しかし、2~3サイクル使用すればほとんどの人が慣れるという。浅井さんはそれを、自転車に例える。誰でも最初から補助輪なしの自転車を乗りこなせるわけではない。乗れるようになるまでには、多少の失敗もある。けれど、乗りこなせるようになってしまえば、乗れなくていいとは思わない。行動範囲がぐっと広がる。
「仕事だけでなく、オフタイムも生理に邪魔されたくないですよね。生理中ということを忘れて海や温泉に行けますし、飛行機での長時間移動のときもスクーンカップは強い味方になります」(浅井氏)
日本では「生理は面倒なもの」「我慢するのが当たり前」という考えが根強い。しかし、そこから解放してくれるアイテムがあるなら、使わない理由はないのではないか。米国からやってきた「生理中も楽しんでいい」「生理であることを忘れていい」という波が今後どこまで広がるのか、引き続き注目していきたい。
(三浦 ゆえ :フリー編集&ライター)
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