外山恒一氏に集まる右翼から左翼まで 「政府転覆」を狙っているのか?

外山恒一氏は今、全国を地道に回って集会を開いている。話を聞いているとどうも「政府転覆」を大まじめに考えているようだ。
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Taichiro Yoshino

覚えているだろうか。2007年4月の東京都知事選挙。政見放送で「どうせ選挙じゃ何も変わらないんだよ!」と叫んで中指を突き立てていた男を。YouTubeにアップロードされた政見放送が全国的に話題になった外山恒一氏(43)は今、全国を回っている。話を聞いていると「政府転覆」、つまり社会を根底から変えようと大まじめに考えているようなのだ。

■「在特会、全否定しない」

12月22日の夜、東京・文京区民センター。100人ほどの聴衆を前に、スキンヘッドの外山氏が司会を務めるトークセッションが開かれていた。右翼も左翼も寄稿する論壇誌を不定期に発行している外山氏。壇上に並ぶのは寄稿した「国際共産主義者」から「極右思想家」まで様々な肩書がつく4人。外山氏は「ファシスト」だ。

外山氏が机にひじを着いてマイクを持ち「で、どういう社会を目指してるの?」と問いかける。と、眼鏡をかけた青年「極右活動家」が「明日の天皇誕生日をみんなこぞってお祝いする社会」と言い、黄色い柄シャツの「極左活動家」が「世界同時革命で資本家をやっつける」と答える。外山氏は「進行、何も考えてないんだけど」「適当にだべっててよ」といなしながら、緩くセッションが進行していく。YouTubeの裏返った声で絶叫する姿を期待した人は、裏切られた気持ちになるかもしれない。

話題が変わり、「在特会」のヘイトスピーチについて問われた外山氏は、こう答えた。

「いたたまれないし、やめてほしいけど、全否定しないのは、彼らが反帝・反スタ(反帝国主義、反スターリニズム)だからですよね。彼らが偏差値が低いからといって、偏差値エリートの立場からバカにしている傾向があって、そこは乗れないんだな」

会場の参加者は外山氏をどう見ているのか。聞いてみた。

大学の卒論で、在日コリアンのアイデンティティーとネット右翼の誕生みたいなことを書きました。極右の位置にいる人だけど、尊皇心や愛国心についてはニュートラル。対立状態を望んでいるようなところに興味を持ちました。

(東京都内在住、大学4年生の女子・22歳)

全国ツアーでは関西地区で街宣車に着いて回りました。今回も大阪から外山さんの車に同乗して来たんです。僕は中学3年間、引きこもりで過ごしました。大学では1人で学生運動やってます。何のためにというか、運動そのものが表現の一手段です。既成秩序とか決められた目的というのがイヤなんです。

東京都知事選の政見放送は当時高校生で、YouTubeで見ましたけど、全然笑えなかった。自分は少数派なんだってこと、まともなことを言っていると思いました。奇抜だから好きなんじゃない、自分の考えることを、すごく理論的に言っている。近い方向のような気がします。

(花園大学3回生、西村修平さん・24歳)

地方から上京してきて、政治に興味あったんで政治サークル探してたんですけど、新歓でいちばん感じいい対応してくれたところに入ったら、そこが保守系の「国策研究会」だったんです。まあでも違和感は感じないってことは、僕は保守的なんじゃないですか。外山さんの集会は、左翼の人の話も聞けるから勉強にはなりますね。

左右の枠組みが意味をなくしている今、ファシズムは現代の有効な思想としてありうるんじゃないでしょうか。でも外山さんが本当にファシズムなのかは、もう少しよく見ていかないといけない。ファシズムの可能性を拡張するものかもしれないし、全然違うものにファシズムの看板を掲げてるだけかもしれない。

(早稲田大学3年生、男子・21歳)

彼のすごいところは決して価値観を強要しないところ。ああ見えてバランス感覚に長けているから、いろんな思想の人が集まってくる。既成概念や社会に疑問を持つ人ばかり。さらに思想も議論もネットで済ますことにも疑問を持っている。集まることに意味はあると思いますよ。

(神奈川県座間市在住、ケアマネジャー、餅田明さん・50歳)

終了後の懇親会には約30人が参加し、場所を変えて朝まで続いた。

■反管理教育運動が原点

外山氏が最初に話題になったのは高校生のときだ。生徒を管理しようとする学校の方針になじめず高校は転校を繰り返した。3校目の福岡県立高校で、「長野や広島の高校生と接触したり、冬休みに自転車で旅行をしながらビラをまいて宣伝したりした」(朝日新聞西部本社版1989年4月22日付夕刊)ら、高校生の政治活動禁止を理由に無期停学となり、3年の春に自主退学した。当時の思いをつづった著書が話題となり、管理教育に疑問を持つ高校生らから共感の手紙が200通ほど届いたという。

ただ、反管理教育の運動をめざした高校生らの拠点作りや、今で言うニートのような人々が集まる「だめ連」の福岡版の活動などが「単なる交流のサロンになってしまった」ことに怒り、もっと先鋭的な運動の組織化を目指して仲間と対立、分裂を繰り返した。

2001年に、以前交際していた女性を殴ってけがをさせたとして傷害罪で刑事告訴され、在宅起訴された。初公判で裁判官に職業を問われて「革命家です」と答え、最終意見陳述では、丸めたFAX用紙に中島みゆきやブルーハーツの歌詞をしたため、メロディーつきで朗読して裁判官に制止された。この公判中に弁護士事務所を侮辱したとして名誉毀損罪でも告訴された。いずれも実刑判決を受け、計2年、服役している。

服役中、ファシストに転向したのだという。ヒトラーの?と驚くと外山氏は「ヒトラーのファシズムは劣化版。原点はイタリアです」と答えた

出所後、2007年の東京都知事選に立候補。政見放送で「反体制知識人」との触れ込みで「こんな国はもう滅ぼせ。今はただ、スクラップアンドスクラップ」「我々少数派にとって選挙ほど馬鹿馬鹿しいものはない」「もはや政府転覆しかない」と、議会制民主主義を否定する言葉を連呼した。約1万5千票の得票で落選したが、YouTubeで拡散した政見放送で、全国的にも名前が知られることになった。

■全国ツアーの目的は

2013年夏の参院選では宣伝カーで全国を回り、原発を推進する候補の選挙カーに着いて回って「こんな国、滅ぼしましょう原発で。原発を推進する自民党を応援します」と大音量で演説して回った。本業のストリートミュージシャンとして地元・福岡の繁華街で稼いだ資金を元手に、年2~3回「全国ツアー」と称して、ときに「トークライブ」、ときに「外山恒一と飲む会」と称する会合を47都道府県を回って開いている。もっとも地方都市になると参加者が4人、または1人なんていうこともある。

それでも「右翼も左翼も交流させて影響を与え合わせよう、その結果、ファシズムになるはず」「学生運動が盛り上がらないと社会を変えられない、突破口が開けない。途方もないことに見えるけど」と語る。

閉塞感あふれる社会を、根底からひっくり返してしまう。外山氏は今、そんな野望のための下準備を大まじめに続けているのかもしれない。

それが大きな流れとなるのか、不発に終わるのかはまだ予測がつかない。ただ、今の政治や社会に強い不満を抱く、知性のある人たちが、思想を超えて集まり、議論を交わして交流を深めていることは、無視できないような気がする。