乾燥したワカメを袋詰めする
障害者の自立に農業を活用する「農福連携」のように、水産加工業を活用する「水福連携」の取り組みがある。鳥取県米子市にあるNPO法人ライヴ(大田百子理事長)には主に精神障害のある33人が通い、漁業者と連携して水産物の加工販売に励んでいる。
近年、漁師の高齢化や後継ぎ不足により、水揚げ量が落ち水産加工をする人手も不足するなか、障害者が水産物の加工販売を行う。障害者にとっては海に触れることで精神的な安定にもつながる。
ライヴは2011年4月に設立した就労継続支援B型事業所。「水福連携」の取り組みは、漁師から乾燥ワカメの商品づくりの一部を依頼されたことがきっかけ。
翌年には県から補助金2500万円を受け、作業施設、水産物加工設備を設置。漁師からワカメを仕入れて独自商品の加工販売を始めた。今ではワカメのほか、めかぶ、もずく、あおさなど数種類の海藻の加工品を扱う。
また高級料亭の刺身に使われる、鳥取県沖の「白イカ」のスルメも加工販売。7~9月の白イカの漁獲期には、獲れると朝早く漁師から電話があり、職員と利用者が漁港に行ってイカの内臓などを取り除く下処理を行う。
商品はすべて天然物で無添加。味を追求するため、海藻を洗う水は毎日往復30分かけて山陰の秀峰・大山の湧き水をくんできて使う。干し作業にかかる手間も惜しまない。利用者は「衛生面に気をつけて作業している」「立ち仕事でもつらくない」と話す。
価格は、乾燥板わかめ(15㌘)540円、白いかスルメ(1杯)2000円など。関東圏・関西圏の小売店を中心に卸し、法人のウェブサイト(鳥取海幸.com)でも商品を紹介。昨年の総売上額は約800万円に上ったという。
大田さんは「多くの人に支えられてきた。特に漁師さんには利用者に作業を教えてもらっている。イカの下処理は手際よく、ワカメの部位による味の違いも分かるまでに成長した」と話す。
漁港には外部の者が入りにくい気質があるという。その中で、利用者のまじめな仕事ぶりが受け入れられ、一般では持つことが難しい「仲買権」(魚介類を漁師から直接仕入れる権利)を法人は付与されている。
利用者はそれぞれの状態に合わせて働いており、日数や時間数はまちまち。工賃は平均で1万7000円、最高は約7万円。
長光文一郎・事務長は「漁業者は良い漁をして水揚げ量を増やし、私たちは付加価値をつけて加工販売する。単に補い合うだけでなく、高め合っていく」と話し、工賃と漁業者の利益のアップを意識して取り組んでいる。
そしてその先にあるのは会社を作ることだ。「障害者は雇用される側とみられがち。だったら自分たちの会社を」と利用者から自発的に意見が出た。今はその準備期間中だ。
今年9月から県のモデル事業として、御崎漁港(鳥取県大山町)内で複数の障害者事業所が共同して水産物を加工販売する施設の運営が始まる。ライヴはその実施主体になる。
長光さんは「漁港に精神障害者が受け入れられていることこそがまさに水福連携」と強調する。
左から、職員の高濱とよ美さん、阪倉正展さん、大田理事長
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