橋下徹大阪市長の従軍慰安婦に関する発言や、沖縄の風俗活用に関する発言が、外交問題に発展するかもしれないという指摘が各所から出ている。中国や韓国ではない。米国との間でである。
しかし、ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏は、米政府はこの問題に対して、現段階では「割って入りたくない」という意図があると読み解いている。
これまで数々の問題発言のあった橋下氏だが、いつも沈静化してきた。今回の橋下氏の発言は、日本国内だけでなく、海外でも大炎上中であると、ロバートソン氏が17日に放送された、東京MXテレビの「ニッポンダンディ」で言及。その原因を、橋下市長の発言内容が、うまく英語に訳されていないことであると指摘した。
ロバートソン氏の指摘を検証する前に、橋下氏の発言を振り返ってみよう。
まず事の発端は、5月13日の登庁前のぶら下がり会見である。橋下氏は、従軍慰安婦の問題について下記のように述べた。
慰安婦の方に対しては、優しい言葉をかけなければいけないし、優しい気持ちで接しなければいけない。意に反してそういう職業についたということであれば、配慮をしなくてはいけない。
しかし何故、日本の従軍慰安婦問題だけが世界的に取り上げられるのか。その当時、慰安婦制度というものを各国の軍は持っていた。これは、良いこととは言えないが、当時はそういうものだった。
ところが何故、欧米で、日本の従軍慰安婦問題だけ取り上げられたかというと、日本はレイプ国家だと、国を上げて拉致してそういう職業につかせたレイプ国家だという点で、世界は非難している。もっと日本人は世界にどう見られているかということを認識しなくてはいけない。
(2013/5/13 橋下徹大阪市長 登庁時 ぶらさがり取材より)
この発言を受けて、同13日の登庁後ぶら下がり会見において、記者からの「従軍慰安婦は必要だったと思うか」という質問に、下記のように答えたことが、米軍の風俗活用の問題に発展した。
橋下:当時の状況としては、そういうこと(従軍慰安婦)を活用していたことは事実。それを、良しとするかどうかは別で、意に反してそういう職業につかなければならなかった、意に反してですよ。自らの意志でそういう職業についていた人もたでしょうし、現代社会もそういう風俗業というものが職業としてあるわけですから、自らの意志でそういう職業についた人は自らの意志でしょうということになりますけれども、意に反してそうせざるを得なかった人たちに対しては、配慮が必要だと思います。
記者:意に反してということであっても、(従軍慰安婦は)必要であったということですか?
橋下:意に反するかどうかにかかわらず。軍を維持するとか軍の規律を維持するためには、そういうことがその当時は必要だったでしょうね。
今は認められないでしょう。でも、慰安婦制度じゃなくても、風俗業というものは必要だと思いますよ。
沖縄の海兵隊・普天間に行った時に、司令官の方に、もっと風俗業を活用して欲しいといったんですよ。しかし、司令官は凍りついたように苦笑いになってしまって、米軍では OFF LIMITSだ。禁止だというふうに言うから、そういう建て前みたいなことを言うからおかしくなるんですよ、法律の範囲内で認められている中で、性的なエネルギーを合法的に解消できる場所というのが日本にはあるんですから、もっと真正面からそういうことを活用してもらわないと、海兵隊の猛者みたいな性的エネルギーをコントロールできないじゃないですか。建て前じゃなくてそういうところをもっと活用してくださいよと、言ったんですけれども、いやそれは、行くなというふうに通達を出しているし、これ以上、この話はやめようと打ち切られました。だって風俗業はあるじゃないですか。認めているんですから。法律の範囲で。
これらの橋下氏の発言について、ロバートソン氏は、欧米諸国が「従軍慰安婦」を「sex slave(性の奴隷)」と、また、風俗を「sex industry(性産業)」であったり「prostitutes(売春婦)」と訳していることが、誤解を生んでいると指摘している。
例えば、アメリカ国防総省内で運営されている新聞である星条旗新聞(STARS AND STRIPES)では、下記のように伝えている。
Toru Hashimoto, who also co-leads the Japan Restoration Party in the Japanese national parliament, told reporters Monday that he visited with Marine Corps Air Station Futenma’s commander last month and told him that servicemembers should make more use of Japan’s legalized sex industry.
(STARS AND STRIPES 「Osaka mayor: ‘Wild Marines’ should consider using prostitutes」より。 2013/5/14)
ーーー
編集部訳:
公党である日本維新の会の代表でもある橋下徹氏は月曜日、先月、普天間の海兵隊基地を訪れた際に、司令官に対して、兵にもっと日本の合法的な“sex industry”を使わせるべきだと話した。
(星条旗新聞 「大阪市長曰く、 ‘海兵隊の猛者’はprostitutesを使うことを検討すべきではないか」より。 2013/5/14)
確かにこの記事では、「風俗」を「prostitutes(売春婦)」と訳している。
ワシントン・ポストも現地時間15日の記事で、「Japanese Web users debate whether politician was right to call wartime sex slavery ‘necessary’(編集部訳:政治家による戦時中のsex slavery(性奴隷)は必要だったとする発言について、日本のネットユーザーたちが議論)」というタイトルで報じている。
ロバートソン氏は、この記事に対して疑問を投げかける。
「ワシントン・ポストでも橋下市長に関する後追い記事をどんどん書いているんですけれども、その中で、日本のツイッターユーザーは日本語のつぶやきの中で橋下さんを擁護する、応援する声があるという、欧米から見た驚き、なんでこんな人を応援するの?という英語の記事があった。その記事の中にはツイッターの翻訳がいっぱい出ているのだが、そのツイッターの翻訳をしているサイトがあり、記事の中でJapan Crashというリンクが張ってあった。そのサイトに行ってみるとタブロイドサイトだった。そのサイトの翻訳の精度を調べてみたら、例えば、政権発足そうそうという言葉が、英語ではas soon asという意味にならなくてはいけないが、機械翻訳したために、new administration yup、そうそう、Yesというように訳してあったりする。そんなソースをワシントン・ポストは使っているのかと記者に直接メールを送ったら、10分以内に返事が来た。モーリーさんどうもご指摘をありがとう。だけどこちらとしては、Japan Crashとあなたとどちらが正しいか、判断できる立場にはない。従ってJapan Crashは使い続ける、と言われてしまった。こちらでは直ちに改めるリソースがない、という感じであった。」
(東京MXテレビの「ニッポンダンディ」より 2013/5/17)
また、イギリスのBBCでは、米国時間16日の米国務省のサキ報道官のコメントについて下記のように報じている。
The US has condemned recent remarks by Osaka Mayor Toru Hashimoto justifying Japan's war-time use of sex slaves as "outrageous and offensive".
(BBC 「Japan mayor's sex slave remarks 'outrageous' - US」より。 16 May 2013 23:46 ET)
ーーーー
編集部訳:
米国は大阪市長の橋下徹氏が最近発言した戦時中の日本の“sex slaves(性奴隷)”の活用に対し、“言語道断で侮辱的”と発言した。
(BBC 「日本の市長の性奴隷発言は'言語道断’と米国」より。 16 May 2013 23:46 ET)
この、米国務省のサキ報道官の回答内容については、英語の原文が、国務省のホームページに出ているのだが、この報道官は、一言も、「sex slavery」や「prostitutes」という言葉は使わず、「comfort women」という言葉を使っている。
にも関わらず、欧米では「sex slave」「sex industry」であったり「prostitutes」という言葉が使って訳されていたのである。
橋下氏は、いつもの国内向けのパフォーマンスのつもりで、風俗の利用について語ったのかもしれないが、わざわざ米軍を持ちだして、話をしてしまった。このことについて、橋下氏は、16日のぶら下がり会見では、これまでの自身の発言に間して、認識が甘かったとの発言に対して、下記のように述べている。
記者:沖縄の風俗業の活用というのは。
橋下:ですからそれは、法律で認められて、女性たちもそういうことがわかった上での話であって、現地の女性の自由恋愛というのは、自由恋愛と思って子どもまでもうけたり、そういうことがあるわけですからね、それはちょっと今日、とくダネ!で、小倉さんからも指摘を受けましたけれども、また昨日も、外国人の知人からも、色んな意見求めましたけれども、やっぱりなかなかその、風俗業といった時に、日本の状況をすぐさま受け止められないと、回春売春だとすぐ受け止めるよということがありましたから、ここは表現が拙かったなと思っています。
ただ、現地の女性の活用と、風俗業という話は、徹底的に違うのは、現地の女性の活用というのはまさに性行為ですよ。子ども産まれる、ね、子どもも産んでしまうとか、そういう問題もあるわけですね。法律で認められた風俗業というのは、回春売春、いわゆる性行為というのは認められていませんから、問題とは徹底的に違いますよ。
記者:性行為があるかないかは違うかと思いますが、兵士の性的エネルギーを対処するために、現地の女性を活用するというのは、私は不適切だと思うんですけれども、そういう趣旨では同じ意味になってしまうのではないでしょうか。
橋下:そしたらそれは、兵の問題だけではなくて、日本全体で、風俗業というのをやめなきゃいけないですね。それは、一般的に認められているもの、ということですからね。
記者:おそらく米軍は、意図ははっきりとはあれですけれども、米軍が禁止しているのは、そういった、戦争等等の経験から、現地の女性の活用というのはあってはならないということもあって、禁止をしている面があると思うんですけれども、そういった方に対して、あえて勧めていくというのは、政党の代表としてはいかがなものかナと思うんですけれども。
橋下:そしたら、罪もない子どもに対して、そういう矛先が向かってしまうのは、どうしたら良いんですかね。
記者:もちろんそこに問題意識を持って、、、
橋下:そうです。それは、風俗というところだけを取り上げるのではなくて、罪もない子どもたちに矛先も向くんだったら、公党の代表だ、公党の代表だと言われますけれども、僕はその、公党の代表という立場もありますけれどもね、政治家というのはそんなに偉い立場なのかなと、もちろん、発言には慎重であらなければならないけれども、公党の代表であったとしても、そういう事案に関しては、僕は一被害者の父親という立場に、そういう立場に身を置けば、言いたいことは一つですよ。そんな自分の我が子に対して、そんなことをやるんだったら、もうちょっと他に、認められる範囲で、そんなことじゃないことを、僕は父親だったら言うでしょうね。その中の一つの方策として、法律で認められている風俗業というのを、一例として一つ、出したというところであって、今日もテレビで言いましたけれども、本当はその前の恋人、ないしは彼女が出来る環境というのを、しっかり整備しろとか、そういう話も、きちんと選択肢の一つとして入れるべきじゃなかったかという指摘も受けましたから、規律を厳格化しろとか、処罰を厳格化しろ、こんな建て前では、問題解決しないので、性的エネルギーの解消ということを考えれば、それはあの、恋人同士とか、いろんなそういうことも考えながら、それは何も、性的エネルギーのために恋人を作ると言うことではないですよ。女性との玲愛とかそういうものをしっかりと出来るような環境も、真正面から考えて行かないとという話の中でその風俗業という話がでてくるのだったらわかるけれども、そこをすっ飛ばしていきなり風俗業に行くというのは、多くの外国人から言われましたのでね。
記者:市長の普段からの姿勢で、問題提起をされて、でも周りの声にちゃんと耳を傾けて、間違っているところは間違っていると認められるし、修正をかけるところは修正をかける、そこは素晴らしいなと思うんですけれども、今回はその、沖縄の風俗業を活用して欲しいと最初に問題提起したことに対して、周りから、色んな所から意見が寄せられていると思うんですけれども、市長の考え、最初に問題提起した頃と少し変わっているところは有りますでしょうか。
橋下:言い方、順番、また、アメリカの文化、風俗文化、性に対する考え方、価値観、そういうところについての認識が甘かったことは間違いないでしょうね。ただ、そこは、甘かった、表現が拙かった、今日も言いましたけれども、日本で認められているからといって、アメリカで全部認められているわけではないですから、これは宗教でもなんでもそうですけれども、日本ではこれが食べられるから、外国人みんなに、全部これ食べろとはいえませんのでね、日本で認められていることと、アメリカが認めることの違いということについて、慎重に考えなければいけなかったなと、この辺りは、国際感覚に乏しかったと。ここが一番の僕の欠点だったんでしょうね。
記者:風俗業の活用、その、性行為がないものを活用して欲しいという考えに変わりはないわけですか。
橋下:一つの策として、そういうものを活用して欲しいではなくて、真剣に考えて下さいと、性的エネルギーのコントロールということを考える中で、ありとあらゆる方策を考えて下さいと、その中で、どれをとるか取らないかということは、それは、アメリカの文化、価値観で選択をしていくんでしょうね。ありとあらゆる方策は、全部やっぱり、そういうことを考えずに兵士まかせということではなくて、どうこれを対処して行ったら良いのか、多くの兵士はきちんとそれはできているわけですから、本当に一部の犯罪でそういうものが全部台無しになってしまうわけです。昨日ここで色々質問を受けて、記者の方は問題視するから、いろいろな質問をぶつけてきて、活用と言ったら、じゃあ一気に風俗のお店が広がることにどうなんだ、そういう議論になりましたけれども、冷静に考えれば、多くの兵士は問題を起こしてないんでね、そういうものはいらないわけですよ。なくても十分、自分たちで何とかやってると。でも、中にはうまく対応できない兵士もいる。そういう例外的な事例の時に、どう対応するのかということを考えた時には、ありとあらゆる方策というものを考えて、そしてどれをとるか、どれを取らないか、それをしっかり考える。規律の維持とか、処罰の厳格化とか、そういうことはもうわかっていることなんです。そうじゃなくて、例外的に対応できない兵士に対してどうするのかというのを、真剣に考えて下さい、その中の全体の選択肢、どれをとるか取らないか、それはもちろん、アメリカの中での価値観の判断なんでしょうね。
この件に関して、ロバートソン氏は、当初は慰安婦問題についてアメリカは謝罪を求めるかもしれないと見解を述べていたが、その後、自身のツイートの中で、下記のようにつぶやいている。
また、ロバートソン氏と一緒に、ニッポン・ダンディに出演していた、水道橋博士は、昨夜下記のようにつぶやいている。
橋下氏の米国向けの発言は、たしかに拙いものだった。どのように訳されるか、どのように議論されるかを考えずに、発信されたものだった。
しかし、それを、まさしく外交問題に発展させるかもしれないのは、発信した本人ではなく、周りではないのか。
世界に日本の考え理解をしてもらうには、以前の記事にarigatouさんがコメントしていたとおり、「日本人学者が、もっと表だって意見を海外に発信し、外国人に理解してもらうなどの土壌作りが必要だと思います。」ということなのかもしれない。