自由に遊んでいいんだよ。東京おもちゃ美術館には、在宅で医療の必要な子たちだけの「スマイルデー」がある。

ケアが必要な家族の、ほっとする瞬間。
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「東京おもちゃ美術館」(東京・四谷)で、在宅で医療ケアの必要な子どもと家族のための「スマイルデー」がある。人込みを気にせずにゆっくり遊んでほしいと館内を貸し切りにし、小児科医やボランティアスタッフが迎える。このたび開かれたスマイルデーにおじゃました。

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スタッフと遊ぶ。
Kaori Nakano

●駐車場を開放、ボランティアも多数

NPO「芸術と遊び創造協会」が運営する東京おもちゃ美術館は、四谷にある学校の旧校舎を利用している。11の教室に国内外の伝統的なおもちゃ、木の玩具があり、赤ちゃん連れが楽しめる木の広場もある。

年間14万人が訪れる人気ぶりで、休日などは混雑してケアの必要な子が来るのは難しい。昨年末から休館日にスマイルデーを始め、今回で4回目の開催だ。

美術館には、300人を超えるボランティアの「おもちゃ学芸員」が登録しており、「おもちゃコンサルタント」の資格を持つスタッフも。スマイルデーには、こうしたスタッフおよそ40人のほか、小児科医も滞在している。

10月末の木曜日。駐車場が開放され、午前中に併設の講堂に集まって、みんなで歌遊びやミニコンサートを楽しんだ。持参の昼ご飯を食べて、それぞれの教室に向かった。

●遊んでくれるから安心

赤ちゃんから楽しめる「木育ひろば」の部屋は、木の床でごろごろできて人気だった。

都内に住む2歳の女の子は毎晩、自宅で10時間の透析が必要。脳梗塞で片側のまひもある。食べられないのでチューブで栄養を取っている。成長したら、家族からの腎移植を考えるそう。

「お出かけは久しぶりです。遠出して帰りが遅くなると、疲れてお風呂や透析のスケジュールが押してしまうので。ここではいろんな人が遊んでくれるので助かります」。母親は、ニコニコと遊ぶ娘を安心した様子で見守っていた。

教室でも、移動のエレベーター前でも、スタッフがさりげなくサポート。赤ちゃんの広場では、スマイルデーだけ参加するという障害のあるボランティア女性がいて、体は自由に動かせないが、子どもたちに声をかけていた。

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木の卵の遊び方を教わって、ご機嫌。
Kaori Nakano

●ケア必要な子が増えた

スマイルデーを発案した副館長の石井今日子さんに聞いた。

おもちゃ美術館は、もともと「おもちゃコンサルタント」を病院の小児病棟や外来の待合室に派遣している。17年前、石井さんはボランティアの一人として、小児病棟に行っていた。その後、おもちゃ美術館を運営するNPOの職員となり、昨年からは副館長を務める。

保育士の仕事をしていた経験から、美術館に来館する子どもたちに目配りしてきた。ある時、呼吸器をつけて車いすを使う子どもと両親がいた。日曜日で混んでいて、感染も心配。30分もいられずに帰った。

「その両親に、これからは何とかしますからって約束しました。何が必要か聞くと、駐車場やバリアフリーの設備だと。安心して来られる日があったらいいと思っていたので、昨年から助成を得て始めました。医療の進歩につれ、在宅で過ごす医療のケアが必要な子は増えているそうです。それなのに、安心して遊ぶ場や居場所がないんですね」

参加者は40組が定員で、50組ぐらい申し込みがある。急に具合が悪くなったり、退院できなかったりで来られなくなる場合も多く、実際の参加は30組ぐらいという。

2人の小児科医が滞在し、何かのときには設備の整った病院と連携している。「普段の人込みを考えれば、ゆったりと過ごせます。衛生的にはそんなに神経質にはならなくて大丈夫ですが、病気が流行る真冬には設定していません」と石井さん。

●親やきょうだいの楽しみも

この日は、カフェの部屋も設けられた。アロママッサージや、手作りのお菓子とお茶のコーナーがあり、保護者のお楽しみも用意されているのがいい。

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お菓子とお茶のコーナーで、保護者も一息。
Kaori Nakano

ほかにも様々な企画があった。ハロウィン前ということで、参加者もスタッフも仮装。子どもたちには害のない材料でフェイスペイントを施した。

ハープ奏者は、親子のために個別に演奏。聞こえてくる音色が美しい。講師と小物を作るワークショップも。

きょうだいにとっても、解放される場になっている。ケアの必要な子のため、留守番したり、おりこうにしていたり、我慢しているきょうだいも多い。ここではスタッフが遊んでくれて、木のボールに埋もれる場所で思いっきりはしゃぐ子もいた。

石井さんも、姉に障害があり、学校に付き添う母の苦労を見ていた。「周りの人がよくしてくれて嬉しかった経験を今も覚えています。きょうだいは、障害のある家族が周りの人に尊重してもらったという思いが、原動力になるんですよ。スマイルデーも、そういう場であってほしいです」

●自分で遊び方を発見

宇都宮市から車で来た親子は、車いすでそのまま入れる部屋でのんびり過ごしていた。4歳の女の子は、木でできた卵がたくさんあるコーナーでご機嫌。つかまり立ちを繰り返し、卵を転がして声を上げた。スタッフの男性が、卵の転がし方を教えて見守っていた。

母親に話を聞いた。女の子はお座りが遅く、成長がゆっくりだった。大きな病院に行って調べてもなかなかわからず、2歳半ぐらいで「日本には少数しかいない遺伝子の病気」だとわかった。今はやっと立ち上がれるようになった。

「シングルマザーで、母のサポートを受けて仕事していました。保育園に入りたくても断られて。障害児を受け入れる保育園ができたので昨年から入園。いくつかの仕事を掛け持ちしています」

知人のフェイスブックで前回のスマイルデーを知った。「すぐ飽きちゃうかと思ったけど、すごく楽しんでいます。公園に連れて行きたくても外で遊ぶのは難しい。ここは室内で自由に動けます。娘が自分で遊び方を発見していました。指先を使うのは難しいのですが、木の卵を転がすのが気に入って。いろいろ見て、また卵のコーナーに帰ってきました」

●「近かったら毎日来たい」

この親子は、終了の時間ぎりぎりまで過ごしていた。明るすぎない照明で、木の床にぺったり座って大人もリラックスしてしまう空間。「こんなに楽しめるとは思いませんでした。近かったら毎日、来たいです」。親子ともに、喜びがあふれる表情だった。

私は初め、スマイルデーに参加している親子に声をかけるのをためらっていた。美術館から許可はいただいていたが、不安を抱え、楽しみたくて来ているのに、取材をお願いしていいのだろうか。「こういう場が必要だと知ってもらうため、記事にしたい」という自分の言葉が薄く思えた。

子どもたちと一緒に遊んでいるうちに、やわらかい空気になった。おもちゃで遊ぶという行為は、大人も子どもも自然と笑顔になる。何人かの保護者に声をかけると、大変な状況でありながら、穏やかに話してくれた

言葉が出ない子どもは、おもちゃを介して会話できる。外遊びは気候が厳しく注意が必要だが、温かみのある室内なら、体が不自由でも安心して遊べる。ぱあっと笑顔になったり、心からはしゃいだりという体験は、どんな子にも大事だ。

常に目を配って張り詰めている親やきょうだいにとっても、絶妙な距離感のサポートスタッフがいるのはありがたい。

障害の有無に関係なく、こうした場所がたくさんあれば、つかの間でも肩の力を抜ける。ケアが必要な家族ならなおさら、親子ともほっとする瞬間が必要だと思う。

次回は、ケアが必要な子の現状や病院の取り組み、居場所づくりについて、専門家のインタビューを紹介する。

なかのかおり ジャーナリスト Twitter @kaoritanuki