2020年東京オリンピック開幕まであと3年だ。大会の機運を盛り上げる記念イベントが各地で開催されている。
競技施設の建設はじめ語学ボランティアの養成など、五輪・パラリンピック開催のためのハード・ソフトの準備が本格化する一方、開催地が分散したことで多くの課題が浮上、対応に苦慮している地方自治体もある。3年後に控えた国家的イベントを成功に導くために残された時間は少ない。
東京五輪には33競技、339種目に約1万1千人の選手が参加するが、五輪が開催される1ヵ月間に選手村などで提供される食事は約1,500万食にものぼるそうだ。
そこで使用される食材の調達には、『持続可能性に配慮した食材(農産物・畜産物・水産物)の調達基準』という調達コードがあり、農業生産工程管理(GAP: Good Agricultural Practice)のガイドラインに準拠した要件が課せられる。
政府はGAPの認証取得支援を行っているが、国内農家のグローバルGAPの取得率は1%程度で、国内農家から五輪の大部分の食材調達ができるのか危ぶむ声も聞かれる。
認証取得が進まない背景には、GAPが求める安全性が生産過程や環境保全にとどまらず、作業者の労働安全性を確保する措置におよぶなど、認証のハードルが高いことがある。
畜産物については、「アニマルウェルフェア」の考え方に対応した家畜の飼養管理指針に基づくことが必要だ。
東京五輪・パラリンピック組織委員会の専門委員会のひとつ「街づくり・持続可能性委員会」の枝廣淳子委員(東京都市大学教授)は、卵を産む採卵鶏や繁殖用の豚の飼育方法を例にとり、日本の「アニマルウェルフェア」への取り組みが世界から大きく遅れていると警鐘を鳴らしている(*1)。
2020年の東京五輪はさまざまな企業にとって大きなビジネスチャンスだが、参入するためには多くのグローバル基準をクリアしなければならない。グローバルに通用する新たな「食の安全性」の確保は、是非とも実現して欲しいオリンピック・レガシーだ。
また、GAPが農業生産者の労働安全性を求めるように、五輪関連の施設建設や製品調達には生産過程の労働環境の整備も不可欠なのだ。
先日、新国立競技場の基礎工事に当たる若い現場監督者が、月200時間近い残業の末、過労自殺で亡くなるという事件が起こった。同競技場の建設は着工が大幅に遅れ、現場にそのしわ寄せがおよんでいるのかもしれない。
長時間労働の是正を目指して「働き方改革」を断行しなければならない時代に、『不眠不休で間に合わせます』では、国家プロジェクトとして失格だ。各種テロ対策など関連準備も山積するなかで五輪まで「あと3年」となり、卓越した「タイムマネジメント」が求められている。
(*1) 枝廣淳子『私たちの食べている卵と肉はどのようにつくられているか~世界からおくれをとる日本』(岩波書店「世界」2017年6月号)
関連レポート
(2017年8月1日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 主任研究員