東京都が提出しようとしている条例改正案は、都職員の同性パートナーを家族扱いしない上、性的マイノリティの人たちの尊厳を傷つけるものだ――。
東京都が提出した条例改正案を巡り、同性パートナーを持つ3人の都職員が、東京都に抗議書面を提出した。
LGBTQの人たちへの差別を、条例で禁止している東京都。
しかし、異性カップルであれば事実婚でも利用できる職員の休暇や福利厚生が、同様に家族として暮らしている同性カップルは使えない。
これを批判された小池都知事は9月に「性自認や性的指向に関わらず、誰もが福利厚生制度を利用できるよう検討する」と回答。
11月には職員が介護休暇を取得する際の介護対象者の範囲を拡大する条例改正案が都議会に提出された。
しかし、改正案には「同性パートナー」という言葉が明示されていなかったうえ、同性カップルが現実的には使いにくい制度だった。
3人はこれに抗議し、同性パートナーがいる職員を婚姻関係にある職員と同様に扱うよう求めている。
東京都の条例改正、何が問題か
都立学校教員のS氏と、都の外郭団体に勤務するT氏、区立学校教員のO氏ーーの3人だ。
S氏とO氏はゲイで、T氏はトランスジェンダー。3人はいずれも同性のパートナーと暮らしている(T氏は、戸籍上同性のパートナー)。
3人が抗議した条例改正案は、都職員が福利厚生として認められている介護休暇を取得する際に、介護や世話が必要な対象者として認める範囲を変えるというもの。
これまで「配偶者又は二親等以内の親族」だった介護対象者の範囲を、「同一の世帯に属する者」も加えようとしている。
改正は一見、同性カップルも一緒に暮らすパートナーの介護のために休暇が取得できるようになるかと思える。しかし同居している同性カップルの多くが、世帯を別々にして暮らしているため、「同一世帯」に当てはまらない、と代理人弁護士の上杉崇子氏は指摘する。
「同性カップルは、社会の根強い偏見、差別意識にさらされて、カミングアウトできない状況に置かれている。世帯を一つにすると、カミングアウトできない人が多い」と、上杉氏は述べる。
パートナーと暮らすT氏も、性的マイノリティであることであることを家族に受け入れられていないため、世帯を別にしている。
「『同一の世帯に属する者』と記載されることを避けるため、私たちは別の世帯として登録しています。同性カップルの多くは、自分たちの性的指向が露見することを恐れ、このように別世帯にしていると聞きます」
「世の中の偏見や差別意識がもっと減らなければ、同一世帯と登録することさえ難しいのが当事者の現状なのです」と、T氏は訴える。
「同居人認定して欲しいわけではない」
この条例改正案が、同性カップルにも介護休暇を使いやすくできるようにと作られたものであるとすれば、「『同一の世帯に属するもの』というのが単なる同居人であり、同性パートナーを『家族』『配偶者』として扱っていない点も問題だ」と上杉弁護士は説明する。
「赤の他人や友達でも、同一世帯になることができます。それは、同性パートナーを、配偶者、パートナーではなく、赤の他人扱いすること。実態にそぐわない上、同性パートナーに対して精神的苦痛を味わわせます」と上杉氏は批判する。
28年以上パートナーとともに生きてきたS氏は、改正案の内容を知ってショックを受けたと話す。
「もちろん、様々な事情を抱える方がおり、介護休暇を取得できる範囲が広がることは大切なことだと思います」
「しかし私には『あなたたちは単なる同居人ですよ』と、私とパートナーが一緒に作ってきた28年間の生活を、東京都に無視されたように思えました」
「私は単に休暇が欲しいのではなく、同性のパートナーとの関係を認めた上で福利厚生を平等にして欲しいと願っているのです。私とパートナーの同居人認定をして欲しい訳ではないのです」
他の自治体はどうしているのか?
職員らと一緒に会見した世田谷区議の上川あや氏は、「すでに複数の自治体で、同性パートナーのいる職員も福利厚生制度を利用できるようになっている」と説明する。
例えば鳥取県では、同性パートナーのいる職員も、結婚休暇や介護休暇、扶養手当などが利用できるようになっている。パートナーの認定に必要な書類は、第三者による証明、または同一世帯であることが確認できる書類だ。
県でパートナーシップ制度を設けている茨城も、事実婚の職員に取得を認めている特別休暇を、同性パートナーにも適用している。
上川氏が議員を務める世田谷区も、同性・異性に関係なく、職員の休暇は平等にしている。
パートナー認定に必要なのは「同性パートナー」であることの申立て、同居の証明、独身の証明。必要書類は申立書、住民票の写し、戸籍抄本だ。
「異性愛と同性愛を異質なものとしては扱わず、家族、配偶者に準じるもの、同等のものとして均等に扱い、当事者の生活実態や尊厳を尊重している」と上川氏は説明する。
性自認・性的指向への差別禁止条約がある東京なのに
東京都が2018年に制定した差別禁止条例には、「性自認及び性的指向を理由とする不当な差別的取扱いをしてはならない」と規定されている。
また、2020年3月に発表した「職員のための性自認及び性的指向に関するガイドブック」には「性的マイノリティの方々が直面しやすい困り事」の一つとして、「福利厚生の『配偶者』や『家族』に同性パートナー、その親、その子供が含まれないので、家賃手当、介護休業、育児休業など必要な制度を利用できない」と書かれている。
条例やガイドブックで、性自認や性的指向による差別問題を取り上げ、それを否定していながら、パートナーシップ制度を設けず、同性パートナーのいる都職員に対する不平等な扱いを続けていることは、LGBTQ当事者たちを深く傷つけている。
今回勇気を出して会見をしたと話したO氏は、「何度も会見をやめよう思った自分を『大丈夫、頑張って』と励ましてくれたのは愛する夫。最後まで守りたい大切な家族です」と語り、次のように訴えた。
「都条例は、性的指向、つまり愛するパートナーの性別に基づく差別を禁止していますが、都は都民はもちろんのこと自らの職員についてすら、その同性パートナーを正視しようとしないのです。私たちは『透明人間』ではありません。見えなくしたり、ぼやかしたりしないで欲しい。ちゃんと見て、存在するものとして考えてください」