東京都知事選挙への関心は高く、週末の世田谷区内の期日前投票所にもたくさんの人が投票に訪れていました。7月21日・22日に行なわれ、1015人が回答した東京新聞の世論調査によると、有権者が重視している政策のトップは「教育・子育て支援」で、29・5%(男23・2%・女35・5%)となりました。
有権者が重要視する政策の中で、「教育・子ども支援」がトップになったのは、これまでになかったことです。とくに女性層の関心が高いことが特徴です。都知事選挙で各候補も避けて通れない最優先課題となった「待機児童問題」ですが、こうした中で、 選挙戦中盤の7月19日に、東京都の待機児童数の発表がありました。
都内の待機児童数2年ぶり増加 湾岸などに子育て世代が転入:日本経済新聞
東京都が19日発表した4月1日時点の都内の待機児童数は前年比8%増の8466人と2年ぶりに増加に転じた。定員を1万4192人分増やしたが、保育ニーズがそれを上回っている。湾岸部など住宅開発の活発な地域で待機児童の増加が目立つほか、府中や調布など多摩地区でも高止まりしており、待機児童問題は都内全域で深刻化している。
舛添要一前都知事は、「待機児童ゼロ」を公約に掲げたものの実現はほど遠く、重要政策であるはずの「保育園視察」を行なわなかったことが話題になりました。都知事になるまでの選挙で「待機児童ゼロ」を掲げたものの、就任した途端に無関心になったと受け止める向きもあると思いますが、私はそう見てはいません。「待機児童問題」に対する東京都の間接的な立ち位置が、舛添前知事の行動を制約したのではないかと思います。
舛添都知事辞職 待機児童ゼロの公約も実現遠く (東京新聞2016年6月22日)
舛添氏は「待機児童を任期四年間でゼロにする」と選挙公約に掲げたが、都によると、都内の待機児童数は一五年四月時点で七千八百十四人と達成には程遠い状態。具体策では、公園に保育所が設置できるように、規制を緩和する国家戦略特区の活用を後押しし、国の制度と合わせて保育士の月給を平均三万円上げる補助も始めた。今年十月には事業所内保育所をPRするシンボルとして、新宿区の都議会議事堂一階に「都庁内保育所」がオープンする。
東京都は、区市町村等の基礎自治体に保育園整備の現場を委ねていて、あくまで許認可や管理・監督を行なっています。都知事として「待機児童ゼロ」を実現するにも、区市町村との緊密な連携が必要となるのです。目の前に現場が見えてこないので、都知事として「待機児童ゼロ」に向けた具体的な打開策を推進するためには、「従来の役割分担」の区分線を引き直すぐらいの覚悟が必要となります。しかし、この3年間、舛添前都知事とも、猪瀬元都知事とも、「待機児童問題」で意見交換したことは一度もありませんでした。
世田谷区では、待機児童問題が深刻になってきたこの間で、区有地(学校・公園・道路代替地等)で45カ所の認可保育園・分園を整備してきました。国の国家公務員住宅跡地等を活用した認可保育園は14カ所ありますが、都有地については、都営住宅の建替え時に生まれた空地活用や、都立公園を使って整備中の2カ所も含めて、まだ5カ所にすぎません。東京都知事としてできる有効な待機児童対策は、都有地を認可保育園整備予定地としてピックアップすることです。
ところが、強力なリーダーシップがないと都有地を保育園用地として提供するという仕事は進みません。「待機児童ゼロ」を公約にした舛添知事のもとで、保育園のための都有地提供は、国同様の規模では進みませんでした。ここは提供してもらえないだろうかと都に打診してきた都立学校、都立公園、資材置場等は具体的にいくつもありますが、国家戦略特区を申請した都立公園の活用以外は、進みませんでした。東京都の組織が巨大であり、内部利用優先であることから、調整に時間がかかりすぎているのです。
思い切って、東京都が事業主体になってもいいのではないでしょうか。これが保育園整備のための都有地確保の最短距離だと思います。児童福祉法35条では、都道府県は保育園の設置主体として位置づけられています。あえて、都知事を先頭に待機児童緊急対策本部をつくり、待機児童が深刻な自治体を中心にして、都立保育園(認可保育園)の早期整備をはかってはどうでしょうか。
通常、都有地を保育園にするためには、候補地を保育園用地として区や事業者に貸与する手続きから始めます。しかしこれまでは、都有地の候補地が時間を費やしてもなかなか出てこないという状況が続いています。
市区町村ではなく、都が事業主体となって都有地を切り出すとすると、都知事の責任は明確になり動きもスピーディーになるでしょう。また、都有地を活用して社会福祉法人・株式会社等が保育園運営をする際の申請、審査、手続きを、すべて都で行なうことにすれば、ここでも時間は短縮されます。新知事が就任して着手すれば、来年度中には、東京都が事業主体となる都立保育園(認可保育園)が続々誕生することになります。待機児童の状況が厳しい0歳から2歳にシフトした認可保育園や小規模保育園とすることも考えられます。
世田谷区では、現在約40カ所の保育施設を開設・準備中ですから、ここに都立保育園(認可保育所)が加われば、待機児童は劇的に改善するはずです。現在世田谷区には150カ所の認可保育園があります。そのうち、50カ所は区立保育園で、その一部は1961年(昭和36年)に都立保育園から移管されてきたものです。待機児緊急対策で東京都が設置する保育園の運営が軌道に乗ってきたら、区市町村に移管してくれればいいと思います。
都庁内保育所は待機児童解消に向けた取り組みの一つで、入所定員はゼロ歳児十二人、一歳児十八人、二歳児十八人の計四十八人。うち半分の二十四人は地域枠として、八月ごろ新宿区民から募集し、残り半分は従業員枠として都職員と利用企業から募集する。
舛添前知事の数少ない成果の中に、「都庁内保育園」がありますが、都庁内にシンボリックに整備するだけではなく、待機児童の現場に都も乗り出すべき時期ではないでしょうか。
都立保育園(認可保育所)の提案にこめたのは、区市町村が全力をあげて待機児童対策に取り組んでいるさなか、都知事も平常時の区分を乗り越えて、事業主体となって、遅々として進まない都有地での保育園整備を短期間で進める「現場」に責任を持ってもいいはずだという趣旨です。
都知事が「都有地を保育園用地にします」と言って、ことがどんどん進むぐらいなら、舛添前知事時代にもっと進んでいたはずです。舛添都知事も「現場」として仕切り直す覚悟がなかったので、保育園視察に優先度は低かったのです。
「保育園落ちた、日本死ね」のブログが国会で論議された後で、首相官邸から「規制緩和できないのか」という声があがりました。世田谷区をはじめ待機児童問題に取り組む多くの自治体の側では、「ゼロ歳児のひとりあたり面積を5平米から3・3平米(国基準)へ」とか「保育士が見る1歳児の人数を5人から6人(国基準)へ」という議論を受け入れている自治体はほとんどありません。子どもの生命・安全への配慮が優先されているのです。
厚労省「待機児童解消に向けた緊急対策会議」で「働き方改革」を訴える
4月18日、午後4時すぎから厚生労働省の大会議室で、塩崎恭久厚生労働大臣が招集する「待機児童解消に向けた緊急対策会議」が開催されました。待機児童が100名を超える60自治体のうち29人の市区町長と、その他自治体の職員が参加しました。塩崎大臣の挨拶の後、私も1182人の待機児童解消に取り組む自治体として発言の機会がありました。
この時、私は次のような提案を塩崎厚生労働大臣にしました。
自治体独自の認可外保育施設への支援
待機児童の大半を占める0歳から2歳までの子ども受け入れるため、認可外の認証保育所・区独自の保育室等の設置・運営を独自に推進していて、総定員中2,358人を預かるなど大きな役割を果たしています。認証保育所・保育室等の施設整備は、整備間が半年から1 年と、(認可保育園に比べて)スピーディーに整備ができますが、子ども・子育て新制度に移行していく施設を除いて、財政支援の対象外となり、新設がぱったり止まった状況です。
新制度の対象外となったことから、これまで0歳から2歳までを受け入れてきたこれらの保育施設の新たな整備が進まなくなっているのです。現在の「5 年以内に新制度へ移行という要件を緩めて、現在の認可外施設や新設園も含めて財政支援の対象にしてもらいたいと要望します。
認可保育園を総力をあげて整備していることで、この春にようやく3歳児以上の待機児童は解消できました。待機児童は、0・1・2歳に集中しています。整備をスピーディーにできる東京都の制度である認証保育所や世田谷区独自の制度である保育室を、子ども・子育て新制度のもとでの「財政支援」の対象としてもらうことで、0・1・2歳を認可外保育園で受け止め、認可保育園を3歳以上の受け皿にしていこうという提案で、国も検討に入っています。
世田谷区には、都が認証保育所を設置した際に補助金を打ち切った世田谷区独自の保育室が14カ所存在していて、長い歴史と良心的な保育で好評です。認証保育所だけでなく、東京都の補助も行なってしかるべきだと思います。
世田谷区は待機児童問題がもっとも深刻な自治体で、2016年4月1日現在で、1198人と待機児童数の過去最高記録を更新しています。ただし、よく言われるように、「全国で最も多い」かどうかは不明です。なぜなら、自治体によって「待機児童の数え方」が違うからです。
「隠れ待機児童」5万人 5900人増 公表の3倍(毎日新聞2016年7月23日)
求職活動を休止している場合は除外、育児休業中のケースも除外できる。しかし、求職活動休止の確認は自治体に委ねられ、育休中の扱いも自治体の判断次第だ。隠れ待機児童の増加の背景には、自治体に待機児童数を少なく見せたいとの意識が働いている面がある。
「待機児童数」に含めるかどうかで判断が分かれる「育児休業の延長」は、待機児童問題と深く関わっています。この問題を視野からそらすのではなくて、直視することで解決への糸口をつかむことができないでしょうか。
なぜ0歳・1歳・2歳に待機児童が集中するのか? それは、日本の企業が子育てに十分協力していない現状があるからです。待機児童と深い関連があるのは、育児休業の延長問題です。育児休業は、最初の半年間(180日)で67%給付、次の半年は50%、1年後に認可保育所に入れなかった証明を持っていくと半年延長で50%給付で最大1年半ですが、1歳での保育所に入るために0歳から先を争うという傾向もあります。
ここまで、保育園整備を中心に課題を整理してきました。ただし、この問題の根源にある「雇用環境」「労働条件」にかかわる「働き方改革」が手つかずでは、解決の道がひらけません。いまこそ、大企業の本社も中小企業も集中する東京都から、「企業の社会的責務としての子育て支援」と、「働き方改革」を打ち出す絶好の機会ではないでしょうか。
まず、雇用保険特別会計の積立金が潤沢な今、育児休業取得を最大2年に延長してその間、100%給付をするだけで、0歳の保育園入園希望者は激減します。これは国の雇用保険制度ですが、「働き方改革を東京から」と都知事が国との交渉の先頭に立つことが重要です。
東京から、企業が「子育て支援」の社会的責務を発揮する「指導・規制」をかけてもらいたいと思います。まずは、育児休業の延長と10割給付の実現が課題ですが、中小企業に対しての配慮、補助、支援を都が率先して行なうことで、社会的な動きをつくることができるはずです。
「子育て中の長時間労働をやめさせる」「在宅勤務や短時間勤務と柔軟な働き方」「ワークシェアリング」「育児休業後の不利益扱いの禁止」等、条例の網をかけていくイニシアティブも必要です。
待機児童問題の解決のために、私も自治体の「現場」で総力をあげていきます。
すでに、「用地不足」や「近隣理解」など多くの壁を超えてさらに強い保育基盤をつくろうとしている今だからこそ、「当事者として緊急に乗り出す」ことを、東京都知事に求めたいと思います。