先日、消費者庁が、ビール風味のノンアルコール飲料について特定保健用食品(トクホ)の表示を許可した。この許可を受けて、ビール大手各社は挙って製品化を進めるという。飲料業界は、ノンアルトクホの発売を梃子にして、近年伸び悩んでいるノンアルコール飲料市場の更なる拡大を図りたいと考えているようだ。
トクホ表示を許可された2つのノンアルコール飲料については、昨年8月、内閣府消費者委員会が、成分の有効性や安全性に問題はないが、未成年者が飲酒するきっかけになる可能性がある等の理由で、トクホとして不適切という答申を消費者庁に行なっていた。
今回消費者庁は、トクホの許可の要件である健康維持への有効性や安全性が認められることを理由に、初めて消費者委員会の答申を覆して、トクホ表示の許可が妥当と判断した。
ただし、消費者委員会の、未成年者の飲酒の誘引に繋がるという懸念を考慮して、製造業界や販売業界が従来から取り組んでいる、販売時の年齢確認や酒類販売コーナーへの陳列等の自主基準の遵守や広告の自主規制等の徹底を図ることを許可の条件とし、さらに、違反があれば許可の取り消しも行うとしている。
特定保健用食品(トクホ)は、個々の食品ごとに有効性や安全性等について審査を受け、表示について国の許可を得なければならない。
許可の要件のひとつめには、「食生活の改善が図られ、健康の維持増進に寄与することが期待できるものであること」と定められており、消費者委員会は、未成年者の飲酒に繋がる可能性があれば、成分に問題がなくても、食生活の改善に寄与することにはならないとして、ノンアルコール飲料はトクホとして不適切と判断した。
さらに、審査を行った消費者委員会新開発食品調査部会では、ノンアルコール飲料が未成年者の飲酒の誘引に繋がるという意見以外にも、飲料業界は本当に人の健康の維持増進に資するというトクホの目的を理解して商品を開発し、許可を申請しているのかといった意見や特定保健用食品制度がコマーシャリズムに乗っかった形で運営されているのではないかといった懸念も表明されている。
今回の決定にあたり、消費者庁が消費者委員会の様々な懸念についてどう判断したかは明らかではないが、今回の許可をきっかけとする業界の売上拡大への取組を考えれば、人の健康の維持増進に資することを目的とする特定保健用食品(トクホ)制度の健全な運営に向けて、業界と消費者庁の双方に対して、自主基準等の遵守徹底と監視・監督の徹底の実効性の確保が今まさに求められている。
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(2015年2月27日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
常務取締役 社会研究部長