「トキワ荘」完全復元へ 高野之夫・豊島区長が意欲「漫画の聖地にしたい」

手塚治虫さんや、石ノ森章太郎さんといった日本を代表する漫画家が入居していた木造アパート「トキワ荘」を、建物まるごと復元する構想があることが明らかになった。トキワ荘の地元である東京都豊島区が、街おこしに繋げるために場所の選定な作業を進めている。高野之夫区長はハフィントンポストの取材に「当時の場所のすぐ近くに復元し、漫画の聖地として全国に発信したい」と意欲を語った。
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安藤健二

手塚治虫さんや、石ノ森章太郎さんといった日本を代表する漫画家が入居していた木造アパート「トキワ荘」を、建物まるごと復元する構想があることが明らかになった。トキワ荘の地元である東京都豊島区が、地域の街おこしに繋げるために考案した。来年度以降の建設をめざし、近く候補地を発表する予定だ。

復元されたトキワ荘の内部に、かつて入居していた漫画家の部屋を再現し、取り壊し前の漫画家の落書きなどの関連資料を展示することも検討している。高野之夫区長はハフィントンポストの取材に「当時の場所のすぐ近くに復元し、漫画の聖地として全国に発信したい」と意欲を語った。

トキワ荘は、戦後の復興が始まった1952年に西武鉄道池袋線の椎名町駅近くに建設された。木造モルタル2階建てで一部屋につき四畳半。風呂はなく、炊事場もトイレも共同と簡素な物だった。編集者の紹介で、建てられたばかりのトキワ荘に手塚治虫が入居したことを皮切りに、地方から上京した漫画家をめざす若者が次々に入居。寺田ヒロオさん、藤子不二雄(藤子・F・不二雄さん、藤子不二雄Aさん)、石ノ森章太郎さん、赤塚不二夫さん達を輩出した。しかし、1982年には老朽化のために取り壊され、現在では別の建物が建っている。

トキワ荘は藤子不二雄Aさんの代表作「まんが道」の舞台になっていたこともあり、建物が取り壊れた後にも、跡地を一目見ようと訪れる漫画ファンが絶えなかった。2009年にはトキワ荘跡地に近い南長崎花咲公園に記念碑が建立されたほか、豊島区が今年度予算で案内所を整備することが決まっている。そして7月27日、豊島区内で開かれた藤子不二雄Aさんのトークショーでは、漫画ファンの間に衝撃が走った。来賓として出席した高野区長が「皆様の強い強い思いの中でトキワ荘の復元ということも考えております」と発言したからだ。

これまで、トキワ荘は部屋の内部や外観が展覧会で再現されたことはあるが、建物が復元されたことはなかった。豊島区はなぜ取り壊しから30年以上もたった今、トキワ荘の完全復元に取り組むのか。8月19日、豊島区役所を訪ねて高野区長に意気込みを聞いた。

■「漫画・アニメの原点はトキワ荘なんです」

−−なぜ今、トキワ荘を復元しようと思ったのでしょうか?

「私が区長になった1999年にはすでにトキワ荘が取り壊されていたんで、返す返すも残念に思っていたんです。そのときには今ほどアニメや漫画文化に重きを置かれていなかったんですね。『鉄腕アトム』の誕生から50年経った今にして思うと、アニメ・漫画文化の原点はトキワ荘だったんです。手塚治虫さんにしても石ノ森章太郎さんにしても藤子不二雄さんにしても、日本の漫画界・アニメ界を築き上げた巨匠達が一堂に会していたわけですから、今となっては考えられないですよね。

そういう素晴らしい建物が失われてしまったことを、非常に残念に思っていたんですが、今ではアニメや漫画がクール・ジャパンということで政府も力を入れるくらい、日本を代表する文化に育ってきました。トキワ荘の名前は全国の津々浦々まで響いています。東京都現代美術館の『手塚治虫×石ノ森章太郎 マンガのちから』展でも、外観が再現されたほどです。しかし、漫画ファンは世代交代も進んでいますので「これは是非、復元しないと忘れられてしまう」という思いに至りました。

かつてあった場所にはすでに建物があるので作れないけど、街おこしをする面でも商店街があるトキワ荘通りに面した敷地に、原寸大の復元した物を作りたいと思っています。前々から構想自体はあったんですが、財政上の問題もあったり、作る機運が盛り上がっていなかった。でも、今は商店街も『トキワ荘の商店街』ということで地元の方も熱心に取り組まれています。そういう方々の要望にも応えて、私は是非、トキワ荘をあの地に復元することによって、『これが漫画の原点だな』と分かる形にして、周辺の街作りを進めていきたいと思っています」

−−区長の中で「トキワ荘を復元したい」という思いは前からあったのですか?

「はい、実は私は区長になる以前は、池袋駅の近くで高野書店という古本屋を経営していました。もともと漫画には馴染みがあって、トキワ荘のことも知っていたんです。区長になったときに『トキワ荘はどうなったの?』と聞いたら、『もう影も形もありませんよ』と言われて残念に思ってたんですね。

でも、今、アニメに関心を持っている若い人って20歳前後ですよね。そうなると、30年前になくなったトキワ荘のことは、ほとんど知らないわけですよ。でも、アニメと漫画の歴史を辿っていけば、トキワ荘の存在は非常に大きいわけですよ。トキワ荘を復元することで文化の歴史を継承していくのは、豊島区じゃないとできないと思っています。

−−豊島区内にはアニメ・漫画専門店として有名な「アニメイト」池袋本店もあるし、今も若い漫画ファンにとっては「聖地」になっているように、それに「トキワ荘」も加わると?

「はい、私がトキワ荘の復元を考えた理由の一つには、アニメイト本店の存在もあるんです。1日の来客者数が1万人にのぼるそうです。アニメイトは全都道府県に店舗があって同じ作品は買えるのに、なぜ地方からわざわざ池袋本店を目指して多くの若い漫画ファンが来るのか不思議でした。アニメイトの経営者の方に聞くと『ここで買うということに意義がある』ということなんです。見ていると、本店の前で記念撮影をしている。『アニメイト本店に来たんだ』というのが一つのステイタスになるそうなんですね。『その場に来る』ということが非常に大事だと痛感しました」

−−それでは、いずれは若い漫画ファンがアニメイト本店に寄ってから、トキワ荘に行くみたいな流れもできる?

「いや、それはなかなか難しいとは思いますが(笑)、トキワ荘に郷愁を持っている世代が中心になりますが、漫画ファンが現地に行くという意味では同じだと思っています」