社員の生産性を上げるなら何でもやりたいというのが会社の本音かもしれない。
それは、従業員のとてもプライベートな時間――トイレ休憩にまで及ぶのだろうか。
イギリスのスタンダードトイレ社が、座り心地を悪くすることで、長時間のトイレ休憩を阻むデザインのトイレを開発した。
同社が開発したのは、13度前方に傾斜しているトイレだ。
スタンダードトイレ社はウェブサイトで、「一般的なトイレの便器は水平になっていて、ユーザーは比較的居心地良く過ごすことができます。その結果、ユーザーは必要以上に長い時間を過ごします」と指摘する。
スタンダードトイレ社が開発したデザインの場合、5分以上座っていると足が痛くなり長時間過ごすのが難しい、と同社の創設者、マハビール・ジル氏はWired UK版に話す。
「13度の傾斜で、トイレが使いにくすぎるということはありません。しかし比較的すぐに、便器から離れたくなるでしょう」
Wiredによると、スタンダードトイレ社は地元の地方議会やガソリンスタンドなどに、このトイレの導入検討を打診している。
生産性を上げるためのトイレ、あり?なし?
スタンダードトイレ社のウェブサイトには、「我々のユニークなデザインのトイレを使うことで、トイレの時間を大幅に減らすことができ、長い行列を緩和して会社の利益になる」と書かれている。
しかし、その考えに警鐘を鳴らす人たちもいる。
パデュー大学でデザインヒストリーを教えるジェニファー・カウフマン-ビューラー准教授は「スタンダードトイレ社の製品は、人間の体を一つのタイプしかないかのように扱っている」と話す。
「このトイレは、排尿や排便のプロセスを機械的なものと捉えています。人間の体は一定の動きをするもの、私たち全員の腸は効率的に動くもの、そして排尿のレベルは一緒だと言っているようなものです。しかし私たちの体は、標準化されているものではありません」
スタンダードトイレ社は、同社の製品は障がいを持った人たちのトイレに適用されるものではないとハフポストUS版にメールで回答した。
しかし、企業を対象にして障がいを持つ従業員の働き方のコンサル業務をしている、スプリングボードコンサルティング社のナディーン・ボーゲルCEOは、「ユニバーサルデザインの観点から、このトイレは全ての人にとって使用可能なものでしょうか?」と疑問を投げかける。
「アクセスできるからといって、それが必ずしも使用可能であるとはいえません」
さらに、心の病を抱えていて休憩を取らなければいけない人など、障がい認定を受けていない人でも、長いトイレ休憩が必要な人がいるとボーゲル氏は話す。
トイレプレッシャーはすでに存在する
従業員たちにはすでに、トイレ休憩を短くするようプレッシャーをかけられている。ある調査によると、Amazon倉庫で働く74%の労働者たちは、目標達成できないことを上司に警告されるのを恐れて、トイレ休憩を避けているという。
スタンダードトイレ社のデザインには、従業員の時間を管理すべきというメッセージが含まれている、と指摘するのはカウフマン-ビューラー氏だ。
「この製品には、とても資本主義的な精神構造が含まれていると私は思います。資本主義は、私たちにどんな代償を払っても生産的であるよう求めます。そしてその資本主義にとって、人間の体が引き起こす問題や制限は、厄介な存在なのです」
さらに、ニューヨーク大学社会学教授のハーヴェイ・モロッチ氏は、デザインを使って従業員を管理しようとしていると話す。
従業員のトイレ時間を調査することは「最もプライベートな行動への不適切な侵害」になりうる。そこで雇用者は、トイレそのものを通して、従業員のトイレ休憩時間をコントロールするというのだ。
「監視者を配置する代わりに、構造の中に監視者を組み込むのです」
ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。