2016年8月27~28日、ケニアで第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)が開催されます。
初めてアフリカで開催されるTICADに向けて、国連広報センターでは日本の自衛隊が国連PKOに参加し、また多くの日本人国連職員が活動する南スーダンを事例にして、様々なアクターの皆さんに、それぞれの立場からTICADで議題となる課題について考えていただくという特集をシリーズでお届けします。
シリーズ第11回は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) 南スーダン事務所 シニア・プログラムオフィサーの柏富美子さんです。
UNHCRは、2011年の独立以前から南スーダンの国内避難民、帰還民、そして南スーダン国内にいる難民のための保護・人道支援活動を行ってきました。
150万人を超える国内避難民を抱えて未だ情勢が不安定な南スーダンですが、この国が、同時に27万人を越える周辺国からの難民を受け入れていることを忘れるわけにはいきません。
今回は難民の人々のストーリーも交えて、柏さんが所属するUNHCRの南スーダンでの活動をご紹介します。
第11回 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) 南スーダン事務所
シニアプログラムオフィサー 柏富美子さん
~難民の保護・人道支援活動を続ける~
柏 富美子(かしわ ふみこ)UNHCR南スーダン事務所 シニア・プログラムオフィサー
2001年にJPOとしてUNHCRチェコ共和国・プラハ事務所で勤務を開始。その後、アフガニスタンのカンダハール及びジャララバード事務所、ジュネーブ本部のアジア太平洋地域局での勤務を経て、2014年より南スーダンのジュバ事務所にシニア・プログラムオフィサーとして勤務。
2011年に独立した南スーダンは世界で最も新しい国。UNHCRは、独立以前から南スーダンの国内避難民、帰還民、そして南スーダン国内にいる難民のための保護・人道支援活動を行ってきました。
2013年12月に勃発した国内紛争、そして引き続き国内各地で起きている戦闘により、現在72万人を超える南スーダンの人々が周辺国(ウガンダ、エチオピア、コンゴ民主共和国、ケニア、スーダン、中央アフリカ共和国)に難民として逃れ、さらに150万人以上の人々が国内での避難生活を余儀なくされています。
更に、今年7月初旬に起きた首都ジュバでの戦闘の再燃は、これまで比較的安定していたエクアトリア地域から、新たに数万人の難民と国内避難民を生み出しています。
独立に際して希望を胸に帰還した南スーダン難民の多くの人々が、わずか数年後に再び難民・国内避難民として家を追われている現状は、非常に胸の痛むものです。この人道危機に対して、UNHCRは南スーダン国内及び難民受け入れ諸国で支援活動を行っています。
このように150万人を超える国内避難民を抱え、未だ情勢が不安定な南スーダンですが、この国が、同時に27万人を超える周辺国からの難民を受け入れていることも忘れるわけにはいきません。
南スーダンは、国境を開放してホスピタリティの精神を持って、庇護を求める周辺国からの難民を受け入れてきました。
2016年前半だけで、すでに7000人を超える難民が南スーダンに庇護を求めています。難民と受け入れコミュニティーの関係に問題が生じることもありますが、南スーダンの人々の難民へのアプローチは、「共感」が基本にあります。
これは、政府関係者を含む南スーダン人の多くが、過去に難民であった経験があることに関係しているのでしょう。南スーダンの国内問題を考えると、彼らの難民を受け入れ姿勢は特筆すべきものです。
スーダン難民のアマル・バキスは、子どもたちに、アジョントック・キャンプに到着して初めての朝食を作っている。南コルドファンからの長い道のりでは、腐った食べ物しか口にすることができなかった © UNHCR/Rocco Nuri
南スーダンにいる難民の大多数はスーダン人で、南コルドファン及びブルーナイル州で5年近く続いている紛争を逃れてきています。
その他、コンゴ民主共和国、エチオピア、中央アフリカ共和国からの難民が、国内にまたがる8ヶ所所の難民キャンプ、またはジュバその他の地方都市で生活しています。
UNHCRは、南スーダン政府、国連機関及びNGO団体と協力し、難民の保護活動、支援物資の配布、その他シェルター、医療、水・衛生、教育、自立促進、女性のエンパワメントなど、多岐にわたる支援活動を行っています。
また、難民の存在が長期化し、(紛争によりすでに困難な状況にある)受け入れ地域への負担が増すことを受け、現地コミュニティーへの支援、及び難民との平和的共存を目的とした活動も積極的に行っています。
祖国で家を追われ、南スーダンで新たな生活を始める難民の人々の暮らしは、困難の連続です。それでも、彼らの多くが、日本を始めとしたドナー国の人々の支援により、必要最低限の水と食料、教育、医療サービスを受け、キャンプで安全に生活することができています。
中でも、人々の将来を築く教育支援は、多くの難民にとって、最も大切な支援の一つです。困難な生活環境にもかかわらず、笑顔で、教育の大切さ、将来への希望と夢を語る難民の人々のレジリエンス・強さには、いつも頭が下がる思いです。
そんな難民の人々のストーリーを、UNHCRスタッフが行ったファラとサイラのインタビューを通して紹介したいと思います。
カヤ・キャンプに住むファラの夢は、教員資格を取ること ©UNHCR/Eujin Byun.
ファラ(22歳)は2012年にスーダンから逃れてきた難民の一人です。彼は、南スーダン北部マバン州にあるカヤ難民キャンプで、小学生に英語を教えています。キャンプで一番若い先生です。
「それまでも僕の村の周りでは、たくさんの人が爆撃により命をなくしてた。でも、ある日爆弾が僕の家の直ぐ近くに落ちたんだ。これ以上はここにいることはできない。そう思って、その日の夜、着の身着のまま自分の家を離れたんだ」
紛争のため、ファラは中等教育を終えることができませんでした。ファラは言います。
「でも、僕は決して教育を諦めていない。僕の夢は、勉強を終えて、教員の資格を取ることなんだ」
「僕は読書が大好き。目を瞑ると、高く積み重なった本の山の上に座って、世界を眺めている自分が見えるくらいだよ。本がバオバブの木に実ればなぁ、なんて思うくらい。そうそう、バオバブの木は、スーダンの家の思い出なんだ。スーダンにいた頃は、学校が終わると、バオバブの木の下で日が暮れるまで何時間も読書をしていた。本を読んでいると、どんな悩みや辛さからも解放されたんだ」とファラは続けます。
「キャンプにる僕の生徒には、良い教育を受けることで、将来のリーダーになる道が開けるのだと信じて欲しい。生徒たちが、授業中に他のことに気をとられると、僕はダンスを踊るんだ。これが、魔法のようにうまくいくのさ。最初はみんな笑いだし、でもすぐに静かになって、勉強に集中するんだ。そういえば、スーダンにいた頃も、よくダンスを踊ったよ -- 特に雨が降った後には。村のみんなが集まって、雨を祝福して踊るんだ。それは、本当に純粋な喜びの一時だった」
ちょっと遠い目をして、ファラはそう語ってくれました。
ドロ・キャンプに住むサイラ(写真右)の夢はパイロットになって、世界中を旅すること ©UNHCR/Eujin Byun.
サイラは15歳。マバン州にあるドロ難民キャンプで暮らしています。彼女も、スーダンのブルーナイル州で起きた紛争を逃れ、2011年、家族と共に南スーダンに辿り着きました。
「今でも、家を離れた日のことははっきりと覚えています。9月6日の午後4時頃でした。爆弾が私たちの町に落ちて、全てが焼き尽くされました。一瞬にして、逃げ出さなければなりませんでした。私は、当時2歳だった妹のダイアナを抱きかかえて、できるだけ速く走りました。教科書も、成績表も全部家に置いたままです。妹を守る以外は、家から何も持ち出すことはできませんでした。食べ物も飲み物もないまま、5日間道なき道を歩き続けました。当時11歳の私にとって、本当に辛すぎる状況でした」
サイラは家族と共に、ドロ・キャンプで新しい生活を始めました。UNHCRが最初にキャンプに開設した小学校で、サイラは勉強を再開することもできました。
「私は小学校をこのキャンプで終えました。そして、今でも中等教育を続けています。私の両親は、私の一番の理解者です。まだ10代なのに、友達の多くはすでに結婚しています。でも、私のお父さんは、私が好きなだけ勉強して、教育を終えるようにと、励ましてくれます。お父さんは、私と妹にいつも言うのです。教育が一番大切なことだって。お父さんは私たちに学校を卒業して、自分たちで結婚相手を決めて欲しいと言っています。そして何よりも、私たちに、他の女性に希望とインスピレーションを与えるような、強い女性になって欲しいと思っています」
「お父さんは、私に学校の先生になって、他の子ども達のロールモデルになって欲しいと言っています。でも私は、パイロットになって、世界中を旅したいのです。学校の授業で、世界には、スーダンと南スーダン以外にも沢山の国があることを学びました。私は全部の国を訪ねてみたい。だから、パイロットになるのが、私の夢を叶える一番良い方法だと思うの。難民キャンプの先の世界を見るという夢を」
サイラは、大好きなお父さんと一緒に、笑顔で彼女の夢を語ってくれました。
南スーダンにいる難民の大多数は、祖国の情勢が不安定なため帰還の見通しが立たず、人道援助を引き続き必要としています。
また、難民を受け入れている南スーダンの人々も、長引く紛争、そしてそれに伴う経済の疲弊、食料不足など相次ぐ試練に直面し、国際社会のさらなる支援を必要としています。
彼らは支援の受益者ですが、全く無力な人々ではありません。ファラやサイラのように、一人一人のストーリーがあり、それぞれの苦悩があり、そして困難を克服し夢を実現する可能性・力があるのだと、日々の活動を通して実感しています。
難民・国内避難民と一括りで語りがちですが、その裏には、それぞれのニーズとキャパシティーを持つ個別の人々がいる、そのことを忘れずに支援活動を続けていきたいと思います。
南スーダンの人々に一日も早く安定した生活が戻ることを祈りつつ。
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