シリーズ「南スーダンからアフリカ開発会議 (TICAD VI) を考える」 (9)

JICA南スーダン事務所は、あらゆるメディアツールを通じた取り組みを行っており、今回はその中でも異色の経歴を持つ2人の広報アドバイザーを紹介します。
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2016年8月27~28日、ケニアで第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)が開催されます。

初めてアフリカで開催されるTICADに向けて、国連広報センターでは日本の自衛隊が国連PKOに参加し、また多くの日本人国連職員が活動する南スーダンを事例にして、様々なアクターの皆さんに、それぞれの立場からTICADで議題となる課題について考えていただくという特集をシリーズでお届けします。

シリーズ第9回は、JICA南スーダン事務所の大井綾子さんです。 紛争が長く続き、識字率も低い南スーダンで効率的、効果的に広報活動を行うため、JICA南スーダン事務所は社会的影響力の強い広報アドバイザーを迎えました。ファッションアイコンとして若者を中心に人気のアトン・ディマーチさんと、幅広い人々の目に留まる風刺漫画を手がけるアディジャ・アスィユさんの2人を起用することで、JICAは南スーダン社会で平和や開発に関するメッセージの発信に力を入れています。(この寄稿は2016年7月の戦闘再発の前に執筆されたものです)

第9回 JICA南スーダン事務所 大井綾子さん~平和と開発の情報発信を続ける異色の広報アドバイザーたち~

スーダン時代を含めて紛争の経験が長い南スーダンで、いかに国民に適切な情報を伝達できるか、さらに識字率が20パーセント台の国でどうすれば効果的に広報を行えるか模索しています。JICA南スーダン事務所は、あらゆるメディアツールを通じた取り組みを行っており、今回はその中でも異色の経歴を持つ2人の広報アドバイザーを紹介します。

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大井 綾子(おおい あやこ) 南スーダン事務所員(写真:2016年1月の全国スポーツ大会にて、現地の記者と)

慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、日本テレビ放送網株式会社報道局勤務。退社後、イギリスInstitute of Development Studiesでガバナンスと開発修士号取得。UNDP東ティモール事務所で国内避難民の帰還支援、在アフガニスタン日本国大使館で地方復興とガバナンス支援に携わる。2013年、社会人採用でJICA入構。人間開発部を経て、2015年8月より南スーダン事務所勤務。                          

トップモデルになるより祖国の発展に貢献したい

アトン・ディマーチさんは、南スーダンの初代ミス・南スーダンとして「ミス・ワールド中国大会(2012年)」に出場し4位に入賞しました。ミス・ワールド・アフリカにも選ばれた後、モデルとして多数のオファーを受けました。しかし、祖国の発展に直接貢献できる道を選択、2015年2月からJICA南スーダン事務所で広報アドバイザーとして働き始めました。国際関係と外交学を学ぶために大学にも通い、南スーダン文化大使も務めています。

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「祖国の発展に貢献することが使命」と語るアトン・ディマーチさん(JICA)

ディマーチさんのファーストネーム「アトン」は「戦争」を意味します。1983年から2005年まで続いたスーダン内戦の最中、1988年に生まれたことから名付けられました。「戦争を忘れてはならないという教訓を込めたこの名前が、私の使命を表している」と話し、祖国の平和を願うその想いは強いものがあります。

幼少期からミス・ワールドの舞台に立ちたいという夢を持ち、努力を重ねてきたディマーチさんは、記念すべき独立の年に初代ミス・南スーダンとなり2012年の中国大会に出場。本選でも116か国からの参加者の中で4位入賞を果たすと同時に、「ミス・ワールド・トップモデル賞」と「ミス・ワールド・インタビュー部門最優秀賞」を受賞。その夢を実現させ、「ミス・ワールド・アフリカ」や「アフリカ大陸美の女王」として、国内だけでなく世界中にその名が知られるようになりました。

そんなディマーチさんがJICAの広報アドバイザーに就任したのは、知人の紹介でJICA南スーダン事務所員と知り合い、日本の支援を知ったことがきっかけでした。南北包括和平合意(CPA)が署名され、南スーダンに国民統一政府が樹立された2006年にJICAは、南部スーダン向けの初めての協力案件「ジュバ市内・近郊地域緊急生活基盤整備計画調査」を開始しました。その後もインフラ整備や保健、教育など様々な側面から南スーダンの復興を支援してきました。中でも彼女が強い興味を覚えたと話すのは、ナイル架橋計画(南スーダン名ではフリーダム・ブリッジ)です。

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サルバ・キール南スーダン大統領(左)も出席したナイル架橋の起工式に出席したディマーチさん(右から3人目) (JICA南スーダン事務所)

首都ジュバを東西に分断するナイル川の両岸を結ぶ架橋計画は、国際物流面の円滑化だけでなく、地元の雇用創出、さらには新しい経済活動をも生み出す可能性を持つとその効果に期待を寄せています。また、2013年12月に首都ジュバや各地で暴力行為が深刻化した際もJICAが支援を続けたことも、広報アドバイザーになる決断の後押しになったといいます。

ディマーチさんは現在週3回、事務所に勤務しています。地元メディアとの関係構築、プレスリリースなど広報資料作成、イベント企画などの広報業務にあたっており、その知名度と人脈を活かしてJICA事業の広報や農業など開発課題の啓発に大きな成果を挙げています。今後は、ジェンダーへの取り組みにも力を入れ、より多くの人が政府開発援助(ODA)に関心を持ってくれるよう、世界のミス・コンテスト関係者のネットワークを活用した広報活動も行っていきたいと考えています。

人気風刺漫画家がメッセージ発信

今年、JICA南スーダン事務所にとても嬉しいニュースが入ってきました。2月13日、主要な市民社会組織Community Empowerment for Progress Organization(CEPO)が毎年発表しているメディア賞漫画家部門で、当事務所の広報素材制作担当官として勤務している風刺漫画家アディジャ・アスィユさんが受賞したのです。

この賞は、平和・民主主義・人権などの推進のため、南スーダンの人々に有用な情報発信を行った漫画家に贈られるものです。アスィユさんは、当事務所との契約で農業などの開発課題について南スーダンで発行されている主要英字紙に風刺漫画の連載を行っており、国民にとって重要なテーマを分かりやすく伝えたことが評価されたのでした。

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"灌漑システムを夢みて"

当事務所は、開発課題の啓発を含めた広報活動に力を入れています。識字率が20%台と低い南スーダンで、漫画を通じて南スーダンの重要な開発課題を考えてもらうため、人気漫画家であるアスィユさんに2015年6月から広報素材制作担当官として勤務してもらっています。アスィユさんは週4回、農業開発などに関する風刺漫画を掲載しています。

国家歳入の98%を依存する石油の代替産業育成として、JICAは農業開発マスタープランの策定などを支援しており、アスィユさんは灌漑整備の重要性と農民の苦労や、これまで産業として十分な育成が行われてこなかった林業および漁業の潜在性などを風刺漫画で伝えてきました。

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"川には魚がたくさん"

識字率は低いものの、南スーダンでは英字紙、アラビア語紙を含め10紙以上が発行されるなど、活字メディアは盛り上がりを見せています。字の読めない人でも掲載されている漫画は見る人も多いとのことで、また、政治家をはじめとする要人もアスィユさんの漫画を見ており反響が寄せられています。

例えば、市場で地面に座って物を売る母子を描いた風刺漫画(1)が新聞に掲載された後、南スーダンの経済団体連合会の会長が市場の団体にテーブルを寄付してくれました。また、職業訓練センターが農村をつなぐ様子を描写した漫画(2)を掲載した際には、労働省がこの漫画を引用し職業訓練センターの必要性を訴えました。

風刺漫画(1)

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"品物はテーブルの上に並べたいけど・・"

風刺漫画(2)

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"職業訓練が農村開発につながる"

JICA南スーダン事務所では、引き続きディマーチさんとアスィユさんの知名度を活用した啓発および広報活動を展開していきます。今後は、ディマーチさんによる世界のミスとのネットワークを通じたメッセージ発信や、アクィユさんのこれまでの作品をまとめた本の出版、プロジェクトで策定するガイドラインの漫画の作成などを通じ、重要開発課題やJICAの事業を広く南スーダンの国民に発信していくことも検討しています。