フォーサイトを「脅迫」した犯人「逮捕」の一部始終(上)

脅迫の手口は単純、むしろ稚拙だった。ただ、当初は犯人が誰か目的が何か、皆目分からなかった。
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11月13日、1人の男が東京地方検察庁刑事部の検事により、東京簡易裁判所に起訴(略式命令請求)された。罪状は「脅迫」。

これに先立ち、男は10月26日、警視庁戸塚署に同罪の容疑で逮捕されていた。通常10日間の拘置を取り調べのため延長され、20日間の満期直前に起訴されたわけだ。

男の名前は三田克弘(71)。逮捕時点での肩書はいくつかあるが、主にNPO法人「環境資源開発研究所」副理事長なる肩書を使用していた。

この三田が起こした「脅迫事件」の被害者は、他でもない筆者である。私事をことさらこの場で取り上げるのは、事件のきっかけというか、三田が犯行を起こした動機が、筆者が以前フォーサイトに執筆した記事だったからである。記事に書かれたことを逆恨みしての犯行であったため、読者に対して報告すべきと考えた。さらに、筆者自身もこの種の事件の当事者となるのは初めてだが、当事者だからこそ知り得た経過があり、被害者として事件をレポートすることにもなにがしかの社会的な意義があるのではないかとも考えた。以下、ご報告する。

被害が広がる恐れ

問題の記事は、2013年12月25日にアップロードした「ご用心!『国有地格安払い下げ』詐欺の怪しすぎる実態」である。本文中にNPO法人名や三田の実名も記載してあるので、詳細はお読みいただきたい。

概略を言えば、国家公務員の年金・福祉事業のために特別法で設立された特殊法人が所有する都心部の一等地を格安で払い下げられると称し、口利きのための「預託金」を受け取ってそのままなしのつぶて、という事例が頻出している問題を取り上げたもの。土地は"準国有地"であるため、売り出す場合は、公告した後に競争入札を行わねばならない。

が、三田は「自分には特殊なルートがある」とうそぶき、1つの物件につき複数の資産家から預託金を受け取っていた。ところが問題の物件は、所有者である特殊法人自体が「売り出してもいないし予定もない」としているばかりか、「特殊なルートで払い下げができるという怪しげな話を持ちまわっている輩がおり、被害も続出しているので気をつけたし」と公式HPなどで注意喚起してもいた。要するに、詐欺である。

記事は、そうした実態を被害者らの告発証言とともに報じたもの。記事で取り上げた被害者は2名、被害額は計4000万円だったが、人数、額とも他に広がりを見せていた。無論、三田にも直接面談のうえ問い質したが、のらりくらりと否定するばかりだった。

「カタワにしたる」

脅迫の手口は単純、むしろ稚拙だった。ただ、当初は犯人が誰か目的が何か、皆目分からなかった。敢えて正体も狙いも隠すことで恐怖心を与えようとする手口で、その意味で悪質だった。

脅しはすべて電話である。最初の脅迫電話がかかってきたのは記事アップから半年以上が経った2014年8月21日。地下鉄の駅ホームにいた筆者の携帯電話に、公衆電話から着信があった。

「内木場か。おまえ、調子に乗ってんじゃねえぞ。気をつけろよ。やりすぎてんだ。気をつけろ言ってんだ」

くぐもったドスの効いた声。一方的に荒々しく吐き出すと、電話は切られた。

筆者の姓は珍しく、初対面で正しく呼ばれるケースはほぼない。が、電話の主は正確に「うちこば」と呼んだ。声に覚えはなかったが、筆者を知る人物であることは確かだった。

2度目は5日後、編集部の直通電話にあった。番号非通知の着信。たまたま筆者が出た。

「内木場か。いまからお前を殴りに5、6人で行くから警察呼んで待っとれ。お前の自宅も調べた。(自分が)誰でもええ。お前がやりすぎとるから殴りに行く」

自分が1人の場ならまだしも、会社には受付に女性もいれば編集部とは関係のない部署の社員も大勢いる。名乗ったうえでの抗議であれば編集部で応対するし、こちらが先方に出向くこともある。が、正体不明のまま、危害を加えるとの予告である。やむなく会社を通じて所轄署に通報し、派遣された刑事、警官らとともに待機したが、何事も起きなかった。脅迫と同時に嫌がらせ、営業妨害である。

以後、何も音沙汰がなく筆者も忘れかけていた今年の元旦、自宅にいた筆者の携帯電話が鳴った。同じ声の主。「今年こそカタワにしたる。必ずやる」など台詞もほぼ一緒だったが、今度は覚えのない携帯電話の番号が着信記録に残っていた。そしてその夜のうちに複数回、同じ台詞や無言の電話があった。

その後も電話は続いたが、恐怖は感じない。電話のみでほかに何事も起きなかったため、ただ「鬱陶しい」と思うだけだった。

変化があったのは8月に入ってから。5日の深夜に複数回着信があり、筆者の家族の安危をチラつかせる台詞を吐いたが、音声の録音に成功した。さらに6日後の電話も録音できた。

番号と音声。これで相手を特定できる。(つづく)

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被害者が希望すれば、こうした通知書も送付される

内木場重人

フォーサイト副編集長

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(2015年10月6日フォーサイトより転載)