長年愛されてきた名作アニメ「きかんしゃトーマス」(トーマス)。
小さい頃に大好きだった人や、いま子どもが観ている親世代も多いだろう。筆者の2歳の息子もトーマスやゴードンに夢中である。
そんなトーマスの映画の最新作は、なんとトーマスが普段の舞台、ソドー島を飛び出して、世界一周の旅に出てしまうという。新しい仲間はケニア出身の女の子ニアだ。
トーマスが五大陸を駆ける? どうやって? 一体、何があったのか。
じつは、トーマスの新TVシリーズは、国連とコラボした内容になっている。未来を担う子どもたちに、地球を守るために定めた世界目標「SDGs」(エスディージーズ)を伝えるメッセージが織り込まれている。
新シリーズの放送に先駆けて公開された「映画 きかんしゃトーマス Go!Go! 地球まるごとアドベンチャー」は、どんな作品なのか。国連広報センターの所長の根本かおるさんに見どころを聞いた。
SDGsってなに?
――トーマスの最新映画に、国連が定めた持続可能な開発目標「SDGs」のシーンが織り込まれています。あらためて、子どもたちにもわかるようにSDGsについて教えていただけますか。
SDGsは、このままでは地球を将来につないでいけないという危機感のもと、全国連加盟国が賛成してまとめられた2030年をゴールとする世界目標で、17の分野からなります。
この17の分野は大変幅広くて、人の生活や権利、暮らしを360度からとらえるものです。17の分野が別々に存在しているのではなくて、お互いに関係し合いながら成立しています。
政府だけではなくて、会社だったり学校だったり、家庭だったり、あるいは一人一人の個人だったり、あらゆるレベルで参加、実践することが可能です。「持続可能な社会のためにナマケモノにもできるアクション・ガイド」という冊子も作っています(笑)。
アニメでSDGsを描くとどうなる?
――具体的に、映画ではどんなシーンにSDGsが織り込まれていますか? 気づいた範囲では、アフリカの女の子と仲間になったり、野生動物との交流があったり、コーヒー豆を運んだり……豊かな自然や海原を移動する姿などが印象的でした。
国連が主に関わっているのはテレビの方で、この映画はテレビの新シリーズの導入編です。テレビシリーズのフレーバーをまとった作品だと思います。
例えば、新しい登場人物としてケニア出身のたくましい女の子ニアが出てきます。映画でトーマスと出会いますが、ニアというのはスワヒリ語で「目的」という意味で、やはり目的意識が高く、正義感の強い、実行力のある芯の強い女の子として描かれています。
その女の子が、いわゆる伝統的なジェンダーロールの殻を打ち破って、映画ではトーマスが坂を逆行していくところをガッと止めて助けたりしますよね。女の子の力強さも描かれていますね。
新しいシリーズでは、ダイバーシティ(多様性)を大切にしていますが、映画にも中国のキャラクター、ヨンバオが出てくるなど、新しい要素が散りばめられていると思います。
国連がアニメとコラボした理由
――そもそも、国連が長寿アニメ「きかんしゃトーマス」(トーマス)とコラボすることになった経緯は?
SDGsという世界目標ができたのは2015年9月。2030年、まさにいまの子どもたちが社会の中核となって活躍する年を最終年にした目標です。実施が始まったのが2016年1月1日でした。
2016年に(トーマスの制作会社である)マテル社から、国際フレンドシップデーでコラボができないかという提案があったんです。
我々としては、せっかくSDGsができたので、ひとつの国際デーで終わらせるのではなく、より包括的にコラボができないかと逆提案をさせていただきました。
国連のニューヨーク本部にグローバル・コミュニケーション局があって、日本の国連広報センターもこの局に属します。ニューヨークのグローバル・コミュニケーション局にはエンタメ産業との窓口になっている部署があります。その部署が中心となって、最終的に国連事務局と5つの国連機関とでマテル社とのコラボを推進していきました。
ユニセフやUN Womenなど、子どもや教育、ジェンダーの課題を担当する国連機関を巻き込んでいきました。
――映画では、機関車であるトーマスがソドー島を離れて世界を旅するなど、とても斬新な設定だと思いました。制作側と国連で、どんな議論やプロセスがあったのでしょうか?
マテル社は、1940年代にできて創設70年以上になります。より世界に訴えるためにリブランディングをしたいというご要望もあったと聞いています。そういった意味では、国連とコラボして新しい世界観を築くのは有効だったのかなと思います。
私自身もトーマスのファンで、(テレビで)「笑点」を見ないときはトーマスを観ていました。聞くところによると、世界的には、トーマスを観ている子どもたちの40% は女の子なんだそうです。
新しいテレビシリーズに出てくるスティーム・チーム(メインキャラクター7台の蒸気機関車の総称)は、男女のジェンダーバランスが大幅に改善されています。
そういう世界観のなかで、女の子が物怖じせずにいろんなことに挑戦していくのは、非常に大切なことではないでしょうか。女の子を力強い存在として描く。国連はこだわったところだと思います。
未就学児用のテレビシリーズでSDGsについて国連がコラボするのは初めてのことです。いまアフリカを除く4大陸、20を超える国々でテレビ放送されています。
親子で話す、世界のこと
――映画では、SDGsは、ジェンダー平等のほかに、どんなゴールが描かれていると感じましたか? 根本さんが気づいたところがあれば教えてください。
例えば、トーマスの水がなくなって立ち往生しちゃうシーンがありました。命の水って人間だけじゃないんです。機関車も水がないと動けない。なんとなく、ゴール6(安全な水とトイレを世界中に)を意味しているなと思いながら拝見しましたね。
また、砂漠の真ん中で投げ出されてしまって、先進国であればクレーンが立て直してくれるけれども、何の支援もない。そこに動物や人がやってきて助けてくれたシーンがありました。
ここはトーマスのテレビシリーズがこだわったSDGsのテーマではありませんが、ゴール17の「パートナーシップ」や「みんなで協力する」につながると思いました。
おじいさん機関車も、トーマスをほったらかして行っちゃうのかなと思ったら、ちゃんと人を連れて戻ってきたりしましたね。
汽車という乗り物そのものが、公共交通機関であり、SDGsにつながっています。ゴール11「住み続けられるまちづくり」は公共交通の整備に関わるものですから、機関車トーマスの設定自体がSDGsに本質的に関わっていると思います。
SDGsは、世界の共通言語
――子育てする人たちは、子どもたちとこの映画を見て、どんなことを一緒に考えるといいと思いますか?
映画で初めて、トーマスはソドー島を飛び出すわけですよね。ソドー島を飛び出して、新しい世界を自分から発見しようとしている。
アフリカを横断して、南米に行って、アメリカに行って、中国まで行って、ユーラシア大陸を横断していくわけです。世界を回るワクワク感をお子さんと一緒に味わってほしいですね。
私自身も子供のころに、日本の童話も親しみましたけど、「ちいさいおうち」とかドクタースースの絵本とか日本語訳の海外絵本も親からもらって読んでいて、絵のタッチが違ったり、発想が違っていたり、知らず知らずのうちに影響を受けたんですよね。
世界に目を向けることは、子どもたちが大きくなって社会を切り開いていくうえで、これまで以上に重要になっていくと思いますので、小さい頃から世界を身近に考えることができるといいですね。
――根本さんご自身も、小さい頃から海外生活を経験されていますね。
私が父の仕事で海外に行ったのは、小学校に入った頃ですけど、育ったのが神戸だったので、小さい頃から海外のものが割と日常風景にありました。
父がしょっちゅう海外出張していましたから、お土産のお人形とか木彫りの置物とか絵皿が家にゴロゴロあって、こういう違う雰囲気の世界があるんだなあというのはなんとなく感じていましたね。
そういった意味で、世界の共通言語であるSDGsに早くから慣れ親しんでもらえると、自ずと地球レベルの課題に目を向けるようになると思うんです。
日本は教育現場では、小学校の学習指導要領に2020年度から、中学校については2021年度から、SDGsが織り込まれるようになります。生徒は横断的にSDGsを学ぶようになります。
これからの社会を生き抜いていく上で大切だから盛り込まれていくわけです。小さい頃から心の準備といいますか、親しんで親子の会話の中でもSDGsにちょっとでも触れていただけるといいなと思います。