2006年、バングラデシュで貧困の実態を目にして「何とかしたい」と一念発起し、会社を作った人がいます。マザーハウス代表取締役兼チーフデザイナーの山口絵理子さんです。
25歳、たった1人で立ち上げた会社は、今では国内外に600人のスタッフを抱える組織になりました。国内だけで200人。仲間が増えることは嬉しいのですが、そのぶん「人間関係」の悩みは尽きません。
そんな時、ある”発想の転換”が必要になります。山口さんが今年(2019年)の入社式で新入社員に語った挨拶を紹介します。
ハフポストブックスから刊行された『ThirdWay 第3の道のつくり方』 の内容を再編集しながら、山口さんが実践する働き方・生き方「ThirdWay」の極意を伝える全13回連載もいよいよ第10回。山口さんが新入社員に伝えたメッセージとは?
ヒトに悩むな、コトに悩め
今年、マザーハウスの仲間になってくれた新卒新入社員は17人。これで日本国内のスタッフだけで約200人になった。たった一人で始めたビジネスがこんなに大きくなるなんて、あの頃は想像すらしなかった。
人が多くなる分、「人間関係」によって生じる組織の課題も増えていく。
マザーハウスだけでなく、どんな会社で働いていても、上司、同僚、部下との関係は大きな悩みのタネの一つなのだと思う。
2019年4月1日(ちょうど新元号発表の朝で、日本中がソワソワしていた)、東京・末広町の本社オフィスのフロアに椅子を並べて、入社式をした。
社長として挨拶をする時間をもらって、私は少しの自己紹介と、これから仕事をする中で覚えておいてほしいことを、ごく簡単に話した。
創業の思いについては深く理解したうえで仲間になってくれる子ばかりなので、あまり長々と私が話すことはない。トータルで10分くらいのごく短い社長訓示。
そこで私はこんなことを話した–––。
働き始めると100%、人間関係で悩む
働き始めてしばらくすると、きっと人間関係で悩むと思う。そう、100%、人間関係で悩むと断言します(笑)。でも、やっぱり最終的に仕事で何が大事かって、〝ヒト〟じゃないと私は思っています。
こんなことを経営者が言っちゃうのはちょっとまずいかもしれないけれど、私は悩んだときにはいつも〝コト〟に向き合ってきました。
店舗販売に配属されたのだとしたら、お店をどうしようか。サービスをどうしようか。今度のイベントではこんなことをやってみよう。すべて考える起点は「コト」です。
ヒトからコトへ目線を移して、アクションに意識を向けていくことがとても大事です。
私の経験を振り返っても、工場で少しでもいいものをつくろうと格闘しているときに、ヒトにとらわれると迷いが生まれる。『この素材を扱うことは、工場の皆にとって負担にならないかな。誰か不機嫌になっていないかな』なんて考え始めると、何もつくれなくなってしまう。
みんなの気持ちを「コト」に向ける
最終的に強い結束でみんなをまとめてくれるのは、コトです。
「美しいかどうか。つくりたいものをつくれているか」
というゴールです。
みんなの気持ちがコトに向かったときに、いろいろな部署を超えて、
同じ夢を見られるようになる。
「仕事はそういうものだと思うので、ぜひ覚えておいてください。
たくましくなったみなさんと一緒に仕事ができる日を、私もとても楽しみにしています」
山口絵理子さんの著書名「Thirdway(第3の道)」というメッセージは、ハフポスト日本版が大切にしてきた理念と大変よく似ています。
これまで私たちは様々な人、企業、団体、世の中の出来事を取材してきました。多くの場合、そこには「対立」や「迷い」がありました。両方の立場や、いくつかの可能性を取材しつつ、どちらかに偏るわけでもなく、中途半端に妥協するわけでもなく、本気になって「新しい答え(道)」を探す。時には取材先の方と一緒に考えてきました。
ハフポストは「#私のThirdWay」という企画で、第3の道を歩もうとしている人や企業を取材します。ときどき本の抜粋を紹介したり、読者から寄せられた感想を掲載したりします。