この数年、採用現場が急激に変化している。
2000年から2010年代初頭までは、大手の採用サイトのみでも採用ができる企業も多かった。さらに、新卒一括採用のため、毎年同じスケジュールをこなせばよかった。
しかし、2014年から売り手市場に転じ、企業は、人材獲得のために早期インターンシップの開催などの工夫を強いられてきた。通年採用化の動きも加速している。これまでのルーティンワークでは対応できなくなったのだ。さらに、この数年はリファラルやスカウトなどの採用チャネルの多様化が進み、複数のツールを運用することが必須となった。そこに、新型コロナが降りかかった。
Thinkings株式会社が実施した「採用のホンネ」調査では、採用担当者のおよそ2人に1人が「不安を感じる」と回答する。
Thinkings株式会社代表取締役社長・吉田崇氏は、「長年、採用支援をしてきたが、ここ数年は特に採用担当者の不安の声を聞く」と結果を振り返る。
この変化の中でも採用に成功している企業に共通点はあるのだろうか?
吉田氏は「採用の解像度が高い」ことだと話す。採用の解像度とは、自社を知り(自社の魅力や人材要件が言語化され)、相手を知る(候補者一人ひとりに向き合う採用が実施されている)ための指標だという。
では、「採用の解像度」を上げるため、具体的に企業は何をすべきか?調査結果をもとに、採用コンサルタント/アナリストの谷出正直氏に伺った。
1. 「面接は何のためにする?」採用活動の本質を理解する
近年の変化にどう対応すべきか。谷出氏は、小手先のテクニックに頼らず、採用活動の本質に立ち返ることが必要だと話す。
例えば、面接の本質を考えてみよう。「面接は、候補者の見極めだけが目的ではありません。まずは、会社を理解してもらい、働きたいと思ってもらう、いわゆる魅力づけも重要です」
では、この面接の本質を意識せず、見極める目的のみで面接するとどうなるか。会社の話はせずに、候補者に質問ばかりしてしまう。すると、十分に魅力づけされず、内定を出したのに承諾されない状況が起こる。
この面接の本質を採用担当者が理解し、面接官にも共有されることが重要だ。例えば、「今日は会社を理解してもらう場なので、見極めはしないでいい」と伝えれば、面接内容もおのずと変わるだろう。
2. オンライン・オフラインの特性を知り、面接を設計し直す
コロナ禍で、多くの会社がオンライン面接に対応したが、課題は多い。本調査でも、採用担当者の半数以上が、「オンライン面接では候補者の本音が見抜けない」と回答した。
谷出氏によると、これもやはり本質に立ち返り、オンラインの特徴を理解することが必要だという。「オンラインでは情報は言語で伝わるが、表情などの非言語は伝わりにくい。この点を意識すれば、対応も変わります」
例えば、候補者のカメラが目線より低い場合、見下ろす形になり、偉そうな態度に見えてしまう。そんな時は、「目線と同じ高さにカメラをセットしてほしい」とフォローをしてあげることで、オンラインによる印象の変化をある程度修正できる。
また、オンラインとオフラインでそれぞれに判断軸を設定することも谷出氏は推奨する。オンラインではスキルに主眼をおき、オフラインでは人となりを見るなど、オンライン時は非言語情報を判断軸から外すのだ。
さらに、ツールの特徴を生かすことも大切だ。オンライン面接は、場所を拘束せず、日程調整もしやすい。「忙しい社員や、海外・地方勤務の社員に会わせることもできる。また、工場や研究所など、普段立ち入れない場所の紹介をする企業もありますね」(谷出氏)
3. 採用ツールを理解するために、営業担当を味方に
「採用ツールの多様化」も採用担当者を悩ませている。現在は、スカウトや、リファラルなど採用チャネルが多様化し、各チャネルに対応したツールが複数登場している。
本調査では、新たにツールを導入した採用担当者の36.7%が多忙化したと回答した。Thinkingsも、この点を重要視し、自社で蓄積したデータから、適切なツールを提案する事業にも力を入れていくという。それだけ、ツールの多様化は根深い問題だ。
やはりここでも、ツールの本質の理解が必要だと谷出氏は話す。どんな人材が集まり、何が効率化できるツールかを知るのだ。
「わからなければ、ツールの営業担当に積極的に相談をする。チャネルの特徴や、導入したら自社でできるようになること、採用のプロとしてのアドバイスをしてもらえるような、社外人事のような役割を担ってもらいます。そのためには、企業側からの積極的な情報開示は必要です」 (谷出氏)
4. カルチャーを伝えるためには、事実と解釈を分ける
今回の調査では「カルチャーマッチ」の問題も浮き彫りになった。採用に改善の余地がある(=採用がうまくいっていない)と回答した採用担当者は、そうでない人より、「カルチャーにマッチした人材を採用すること」に課題を感じていると答えた。
谷出氏はこの結果を受け、「カルチャーは社員が無意識にしているものです。例えば、来訪者への対応。担当者だけが挨拶する会社もあれば、全員が挨拶する会社もありますよね。良い悪いではなく、どちらにマッチするかが重要です」と話す。
マッチさせるためには、無意識のカルチャーを言語化し、候補者に伝える必要がある。ポイントは、事実と解釈に分けることだと谷出氏はいう。
例えば、「風通しがいい」は解釈だ。その背景には、「若手の意見が通る」、「社長との飲み会がある」など様々な事実が考えられる。そこで、応募者が「風通しがいい」ことに共感しても、「社長と飲みに行く」ことに共感しない場合は、カルチャーにマッチしない。解釈と分けて、事実も伝えることが大切なのだ。
5. コロナ禍で変わる経営方針。経営者もコミットし、改めて人材要件を整理
以上のポイントは、人材要件が明確であることが前提となっている。
しかし、この人材要件の策定がコロナ禍で難しくなっていると谷出氏は指摘する。多くの会社で、経営方針が見直されているためだ。採用現場を見てきたThinkingsの吉田氏も、「採用担当者の悩みの根幹は、コロナ禍で経営方針が定まらず、人材要件が設定できないことだと感じます」と、この点を強調する。
これは、採用担当者だけではなく、会社全体を巻き込んだすり合わせが必要だ。経営者にも強いコミットが求められるだろう。裏を返せば、担当者が一人で抱えなくていいということだ。うまく人を動かせば、多忙化の解消にもつながるかもしれない。
6. まずは、リクルーターと戦略でリソースを分けることから
多忙化については、吉田氏が補足する。多忙の中、採用がうまくいっている企業は、リクルーターと戦略でリソースを分けているという。
例えば、候補者対応などの「リクルーター」は専任をつけ、自社分析などの「戦略」は経営者と定期的に会議をセットして意識的に時間をとるようにする。
今回紹介したポイントに時間を割くためにも、まずはリソース配分が重要にとなりそうだ。
採用担当者にスポットを。そして、採用の解像度をあげて
谷出氏が一貫して語ったのは、変化が大きい今こそ、小手先のテクニックを使わず、「本質に立ち返る」ということだった。これは、Thinkingsが提唱する「採用の解像度を上げる」ことに通底する。
「採用担当者は、会社をつくる『ヒト』の調達を担う重要なポジションにも関わらず、これまでスポットライトが当たりにくかった。本調査で現場の困難をまず知ることで、経営陣もコミットしてほしい」と吉田氏は話す。
「採用の解像度を上げる」ために、採用担当者の采配、そして経営陣を筆頭とした会社全体のコミットが求められている。